ひよ子饅頭の立体商標登録、再チャレンジするも認められず
日本をはじめとする多くの国では、立体物を商標登録できる制度があります。立体商標は、大きく、看板的に使用される立体物と、商品形状(または容器の形状)そのものを商標としたものとに分かれます。前者(たえば、KFCのカーネルサンダース人形)の登録は比較的容易(通常の図形商標の登録とさほど変らない)ですが、後者は、使用による識別性、つまり、消費者における高い認知度を立証できないと登録できません。商品形状自体の商標登録を認めるというとは、特定の形状の未来永劫の独占を認めるということと等しいため、ハードルが高く設定されているわけです。
後者のパターンにおけるハードルの高さは相当なもので、結構有名と思われる形状でも、特許庁に膨大な資料を提出し、場合によっては審判や訴訟等で争うことでようやく登録できた事例も多くあります(参考過去記事1(キッコーマン醤油容器)、参考過去記事2(きのこの山)、参照過去記事3(きのこの山等))。そして、最終的に十分な識別力がないということで登録を認められなかったケースがあります。
上記の参考過去記事3でもちょっと書きましたが、ひよ子饅頭の立体商標(まんじゅうを指定商品としたもの)は、2003年にいったん登録されたものの、その後、競合他社によって無効審判を請求され、2004年に無効が確定していました。その後、権利者である株式会社ひよ子は、2015年に再出願を行ない、拒絶査定を受けた後、不服審判で争っていたのですが、拒絶は覆らないとの審決が最近(2019年8月22日)出ています(審決文リンク)。
なお、特許の場合は、一度公開されてしまうと新規性がなくなりますので同じ発明を再出願して特許化することはあり得ないのですが、商標の場合は新規性という概念はなく、新たな査定時点での取引の実情、および、新たな証拠を加味した再査定が行なわれますので、再出願して登録できる可能性はあります。
今回の審決では、2004年の無効審決における特許庁の判断である「直営店舗の多くは、九州北部、関東地方等に所在し、必ずしも日本全国にあまねく店舗が存在するものではない」、「本願立体商標に係る鳥の形状と極めて類似した菓子が日本全国に多数存在し、その形状は和菓子としてありふれたものとの評価を免れない」、「『ひよこ』の売上高の大きさ、広告宣伝等の頻繁をもってしても、文字商標『ひよこ』についてはともかく、本願立体商標自体については、いまだ全国的な周知性を獲得するに至っていない」を覆すことはできませんでした。調べたところ、株式会社ひよ子は登録商標を492件も所有しており、商標権についてはかなり熱心な会社であることが伺えますのでかなり残念だったのではと思います。
個人的な感覚ですと、タイトル画像にあるようなまんじゅうを見ると「ああひよ子饅頭だなあ」としか思えないので、特許庁の判断はちょっと厳しすぎるのではないかという気もしますが、もう少し和菓子業界に詳しい人だとまた意見も変るのかもしれません。