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もし白川前総裁が「バブルへGO!!」を撮るなら…=広末涼子が飛ぶべき過去

窪園博俊時事通信社 解説委員
定例会見する日銀総裁時代の白川方明氏。(写真:ロイター/アフロ)

 白川方明前日銀総裁の『中央銀行―セントラルバンカーの経験した39年』が金融界で話題だ。金融専門書にしては「よく売れている」(日銀OB)という。ただ、金融政策自体が一般には難解であり、広く読まれるのは難しい。そこで、白川氏の政策論の基本を分かりやすい形で解説してみたい。かみ砕き過ぎかもしれないが、ある映画を題材にする。「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」である。

ヒロインが飛ぶべき過去は1990年ではなく、1986~8年

 ご案内のようにバブル期をテーマにした2007年のヒット映画だが、白川氏の政策論理に沿ってストーリーを再構築すると、別なものとなる。もし撮り直すなら、広末涼子演じる主人公がタイムマシンで飛んでいくべき過去は1990年ではなく、1986~8年であったはずだ。そして、もう一人の主人公は阿部寛が演じた財務官僚ではなく、日銀マンでなければならない。

 映画では、バブルの崩壊を防ぐべく、ヒロインは1990年に飛び、崩壊の引き金となった土地融資の総量規制導入を阻止しようとする。しかし、白川氏の政策哲学では、バブルを発生させたことが金融政策の失敗であり、タイムマシンがあるなら発生前の時点に飛び、バブル予防のための引き締め措置を全力で講じる必要がある。それが白川氏の著書の底流にある思想だ。

長期にわたる金融緩和がバブル加速要因になったことを強く反省

 ここからは少し専門的な話になる。わが国は1985年のドル高を是正する「プラザ合意」を受け、大幅な円高を余儀なくされた。経済への悪影響を和らげるため、日銀は必要以上に緩和を続け、バブル発生を招いた。もとより、(バブル生成は)金融政策のみの責任ではないが、白川氏は「(当時の)長期にわたる金融緩和がバブルの加速要因になったのは間違いない」と強く反省する。

 この「長期にわたる金融緩和」の時期が86~88年だった。当時の日銀は信用膨張に警戒感を強め、金融引き締めを視野に入れていたが、87年の「ブラックマンデー」の世界的な株価急落で引き締めを断念。結果的に緩和期間が長引いた。88年に入ると株式市場も落ち着き、米独は利上げに動いたが、日本では円高への警戒感が強く、日銀の引き締め転換は遅れてしまった。

FEDビューとBISビュー、白川氏は少数派の後者だったが、今では…

 このときの長引いた緩和がバブルを加速させたことへの「痛恨の念」がセントラルバンカー白川氏の原点だ。中央銀行の世界では、金融政策のバブル対処法では二つの潮流があった。当初、優勢だったのは「バブルかどうかは事前には分からず、崩壊したら全力で緩和すればよい」とする米連邦準備制度理事会(FRB)の思想(『FEDビュー』と称される)だ。

 これに対し、白川氏のバブル予防論は国際決済銀行(BIS)が同調し、こちらは『BISビュー』と称されたが、少数派にとどまった。流れが一変したのは、欧米でもバブルが生成・崩壊し、リーマン破たんでデフレに陥って「(英米が)日本を後追いした」(別な日銀OB)ことだ。これにより、FRBですらも「金融の不均衡」、つまりバブルへの配慮を示すようになった。

バブルの世界規模での発生に断腸の思い

 80年代後半、日銀の中堅としてバブル生成・崩壊を目の当たりした白川氏は、総裁になってからは欧米バブルの生成・崩壊、世界的な金融危機に見舞われた。つまり、内外のバブルに翻弄され続けた職業人生であった。日本が経験して学んだことが、欧米に生かされず、「バブル」が世界規模で発生したことへの断腸の思いが著書から感じられる。

 私にとって白川氏は、かなり長期に取材した幹部の一人だ。折に触れてこぼしていたのは、対外情報発信の難しさだ。懇切丁寧に説明しても広く世の中には伝わりにくい。もとより金融政策そのものが小難しい印象をもたらし、理解へのハードルを高めている。分かりやすく説明するにも限界があり、結果的に理解の輪が広がりにくい。

なお、日銀マンが活躍する映画がヒットするかは不明。そして、あの有名なセリフは

 ここでは、白川氏の考えを「映画」を題材にして解説することを試みたが、金融政策の観点で「バブルへGO!!」を捉えなおすと、ストーリーが変わることを理解していただければ十分だ。なお、日銀マンらが活躍するバブル予防の映画がヒットするかどうかは不明だ。それと、バブルは起きないので、「バブルって最高~」というあの有名なセリフがなくなるのは間違いないだろう。

時事通信社 解説委員

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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