アメリカ東部に記録的な大停電を起こした嵐「デレチョ」とは
今月3日(日)、アメリカ東部で暴風や雹などの被害が相次ぎました。嵐は西から東へと高速で移動し、カンザス州からテネシー州にかけての1,200キロに及びました。
竜巻や7センチ大の雹などが報告されましたが、特に暴風の被害が著しく、テネシー州では32m/sの台風並みの暴風が吹き荒れました。州都ナッシュビルでは史上最大級の停電が発生し、10万人が影響を受けたほどです。
この嵐により、倒木で消防隊員一人が死亡、家屋や車両が多数損傷し、電柱や木々が次々となぎ倒されました。
この、広範囲に暴風をもたらした嵐の正体は、何だったのでしょうか。
嵐の解析
図は3日(日)の強風・竜巻・雹の報告数を表しています。
強風を示す青い点が、東西に長く広がっていることがわかります。
またよく見ると、東に行くにつれ、被害の幅が広がっていることも分かります。
一方、下の図は時間ごとのレーダーを重ね合わせたものです。時間を追うごとに、西から東に向かって弓状の強雨域、いわゆる「ボウエコー(Bow echo)」が移動していることがわかります。
その平均移動スピードは、時速93キロにも及んだようです。
嵐の正体「デレチョ」
このような、ボウエコーが長時間かつ長距離にわたって発生する現象を「デレチョ(Derecho)」と呼びます。元々デレチョとは「前方へまっすぐ」という意味のスペイン語です。
デレチョの定義は、風害の距離が400キロ以上で、広範囲に風速が26m/s以上、一部で34m/s以上が観測される嵐を指します。
デレチョの発生時期・場所
デレチョはいつ発生しやすいのでしょうか。
アメリカの統計では、主に5月から7月の暑い時期が多発時期となります。高温多湿の空気が南から入りこんで、大気が不安定な状態になった時に発生することが多いようです。
特に発生しやすい場所が、オクラホマ、アーカンソー、ミズーリ州などで、ここでは3年に4個のペースで発生します。
アメリカ以外では、2002年にドイツでデレチョが発生し、倒木などにより8名が亡くなったという例があります。
その他、フィンランド、スペイン、フランス、ブルガリア、カナダ、オーストラリア、バングラデシュやインドなどといった国々でも起こるといいます。
過去のデレチョ
過去にはどんな記録的なデレチョが発生したでしょうか。
2009年5月8日に起きたデレチョの強さは「スーパー」クラスとされ、「内陸のハリケーン」とも呼ばれたほど強力なものでした。
カンザス州からケンタッキー州にかけてのおよそ1,500キロの範囲に、30m/s超の突風が発生し、多数の死傷者が出ました。
また2014年7月1日には、2つのデレチョが同時発生し、400万人が停電の被害を受けました。面白いことに、この嵐は「ワン・ツー・パンチ・デレチョ」と名付けられています。
デレチョの名付け親
デレチョはレーダーで見るとわかりやすいのですが、驚くことに、デレチョが最初に発見されたのはレーダーの登場するずっと前のことでした。
発見者は、オランダ人化学者のグスタブス・ヒンリックス(Gustavus Hinrichs)氏です。彼は1877年に発生した嵐を解析し、被害状況をプロットして、この現象を発見しました。
ヒンリックス氏はとにかく天才だったようなのですが、攻撃的な性格も有名だったようです。
【参考文献】
About Derechos(NOAA)