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テーパリングのタイミング

久保田博幸金融アナリスト

金融市場関係者の間で最近流行っているカタカタ語に「テーパリング」というものがある。市場関係者などからは今頃、何を行っているのかと言われそうだが、テーパリング(tapering)とは、FRBのバーナンキ議長が発した用語で、量を減らすことを意味し、量的緩和の縮小を示す用語である。出口戦略(exit strategy)の一環ではあるが、あえて出口との用語は使わず、引き締め策に転じるのではないことを示しているとみられる。このあたり、出口戦略に向けてかなり神経をとがらせているように見受けられる。

そのテーパリングの有無を見定めるための指標のひとつが雇用である。FRBの使命というか目標として定めているのは物価安定と雇用最大化を促すという「デュアル・マンデート(2つの目標)」のひとつである。

8月2日に7月の米国の雇用統計が発表された。7月の非農業雇用者数は16.2万人増となり、事前予想の18万人程度(日経新聞)を下回った。同時に発表された5月と6月分もそれぞれ下方修正された。失業率は前月から0.2ポイント低下して7.4%と、2008年12月以来の水準まで改善した。この雇用統計を受けて、少なくとも9月での量的緩和縮小決定はないかもしれないとして、2日の米10年債利回りは前日の2.7%台から2.60%近辺に大きく低下していた。

米債は2日に大きく戻したものの、その前日に下げた分を取り戻した格好となっており、いわゆるショートカバーが入ったようだ。この日、CMEグループは米雇用統計発表3秒前に、米10年債と30年債の先物取引を5秒間停止した。市場が過度に変動した場合に自動的に発動されるストップ・ロジック・イベントが発動したそうであるが、短期的な売買がかなり入っていたことをうかがわせるものであった。

このような仕掛け的な動きが市場の値動きを大きくさせることも予想され、FRBとしては「バーナンキ・プット」という言葉が生まれるぐらいに特に株式市場には神経をとがらせており、出口戦略はかなり慎重に行っているように思われる。ちなみにバーナンキ・プットとは、米国の株価が下落すればバーナンキ議長が追加緩和策等で株価を支える動きをしてくれることを表現したカタカナ専用語である。

セントルイス連銀のブラード総裁は、労働市場と経済が強さを増している確証を得た上で、債券購入のペースを減速させるべきだとの発言したようだが、ここにきての米国の経済指標のデータを見る限り、大きく悪化しているものは少なく、FRBが経済指標次第としているテーパリングの時期については、7月の雇用統計を受けてもさほど後退しているようには見えない。ダウ平均やS&P500種株価指数などは過去最高値を更新し続けている。

今回の7月の数字も失業率はテーパリングの前提となる7%近辺への低下も見えてきつつある(ゼロ金利を続けるのは失業率が6.5%まで)。このため9月のFOMCでテーパリングが決定される可能性も十分にありうる。バーナンキ議長も自らの退任時期も睨み、9月あたりからのテーパリングの開始を意識しているのではないかと思われる。テーパリングの前提条件は、雇用を含めて米景気の回復、物価の安定を掲げてはいるものの、実際には世界的な金融経済リスクの後退が意識されているとみられるためである。

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金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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