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マスターズ優勝候補の筆頭ながら、心配されるブライソン・デシャンボーの「宝の持ち腐れ」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
48インチのドライバーでマスターズ制覇を狙うデシャンボーだが、いまなお揺れている(写真:ロイター/アフロ)

 「3.5度を4.5度に変えるかもしれない」――そんな声がオーガスタ・ナショナルから聞こえてきた。

 誰の何の話かといえば、今週12日に開幕する「ゴルフの祭典」マスターズで最大の注目を集めているブライソン・デシャンボーのドライバーのロフトの話。

 デシャンボーは今年9月の全米オープンを制覇した直後から、ゴルフルールで定められている上限いっぱいいっぱいの48インチの長尺ドライバーでマスターズに臨むと公言し、大きな話題になっているのだが、彼はシャフトの長さだけではなく、ロフトも究極の度数で挑もうとしている。

【2パットで楽々バーディー?】

 「マスターズ前週にオーガスタ入りする」という当初の予定通り、先週、オーガスタ・ナショナルに到着し、1988年のマスターズ覇者であるサンディ・ライルと練習ラウンドを行なったデシャンボー。

 各ホールでのデシャンボーのクラブ選択に目を丸くしたライルは、その番手を米メディアに伝え、驚異的な数字の数々は、瞬く間に全米へ、世界へと報じられた。

 その一部だけを見ても、もはや従来のマスターズ攻略法とはかけ離れている。

 1番(パー4)はSW(サンドウエッジ)でピンを狙い、2番(パー5)はドライバーと8番アイアンで2オン。3番(パー4)は3番ウッドで1オンさせるという具合。4つのパー5は、すべて2オン可能で、しかもセカンドショットはミドルアイアン以下ばかり。最低でも5つのグリーンをレギュレーション(パーオン)以下で捉えることができ、2パットでバーディーという「異次元のゴルフだった」とライルは驚くばかりだった。

【スピンがかかりすぎ?】

 いざ、マスターズ・ウィークを迎えた今週9日の月曜日、デシャンボーは2019年マスターズ覇者のタイガー・ウッズ、1992年マスターズ覇者のフレッド・カプルス、それに2017年全米プロ覇者のジャスティン・トーマスと練習ラウンドを行なった。

 ウッズとカプルスの練習ラウンドは、マスターズでは「恒例」。ウッズとトーマスはフロリダ州ジュピターの自宅が「ご近所どうし」で仲良しゆえ、彼らがともに練習ラウンドすることも「恒例」。

 だが、これまでトーマスはデシャンボーのスロープレーぶりに何度も悩まされ、苦言を呈し、批判も口にしている。そんなトーマスがデシャンボーと一緒に練習ラウンドとは少々驚かされた。

 しかし、ここはトーマスも「怖いもの見たさ」の興味のほうが先行したのだろう。肉体を巨体化し、400ヤード超をかっ飛ばすデシャンボーのゴルフの仕上がり具合や攻め方を直に見たいと思うことは当然である。

 デシャンボーの飛距離は、ライルと回った前週よりさらに伸びた感もあった一方で、セカンドショットの番手を上げたホールもあったそうだ。17番のセカンドは前週はSWだったが、今週は8番アイアン。もちろん、風など他の要素の影響も考慮した上での違いもあったはずだが、デシャンボー自身、「全体的に飛距離が落ちたり、不安定になっている」とのこと。米メディアの分析によれば、どうやらそれはドライバーが不安定になっている影響なのではないか、とのこと。

 デシャンボーは、まだオーガスタ・ナショナルで48インチのドライバーを試しておらず、この日は45.5インチ。そしてロフトは3.5度だったが、「スピンがかかりすぎている」と感じ、ロフトを4.5度のものに持ち替えることを検討中だ。

【まだまだ勉強?】

 ロフトの度数も気になるし、デシャンボーが試合で本当に48インチを手にするのかどうかも気になる。

 しかし、もっと気になるのは、この1年間で50ポンド(約23キログラム)も体重を増やし、筋力を増強し、飛距離を伸ばし、さらには48インチでロフトも切り立ったドライバーを手にしようとしているデシャンボーが、果たしてそれらを活かしてオーガスタ・ナショナルを攻略できるのかどうかだ。

 デシャンボーにとってマスターズ出場は今年が4度目で、過去最高は初出場した2016年の21位タイ。だが、今の彼のゴルフは過去の出場時とは何もかも様変わりしているため、オーガスタ・ナショナルの見え方、挑み方、すべてを変えることになり、その意味では初出場同様と言っても過言ではない。

 ウッズらと一緒に回った後、デシャンボー自身、こう語った。

「まだまだコースのことを学ぶ必要がある」

 開幕まで、あと2日。初日のティオフまでに「お勉強」は間に合うのか。きっちり仕上げることはできるのか。せっかく手に入れつつある巨体やパワー、飛距離等々、数々の「宝」をマスターズの舞台で「持ち腐れ」にすることなく、輝かせることはできるのか。

 デシャンボーへの興味は、尽きない。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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