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日本の長期金利は本格的な上昇トレンド入りか

久保田博幸金融アナリスト
筆者が手元のデータを基に作成(毎月末の10年カレント利回りを結んだもの)

 12日の債券市場で長期金利の指標となる新発10年国債利回りが上昇し一時、0.715%と2014年1月以来の高い水準を付けた。

 これは9日の植田日銀総裁のインタビュー記事を受けて、日銀によるマイナス金利政策の解除が年内にも実施されるのではとの観測によるものである。このインタビューで総裁は、長期金利が現状の0.6%台半ばから経済・物価情勢に合わせてさらに上昇することにも理解を示したとあり、長期金利の上昇に拍車が掛かった格好となった。

 日本の長期金利は2006年5月に2.005%まで上昇したが、2%を超えたのは一時であり、その後は再び長期金利は2%以下で推移した。

 2006年半ばに、それまで高騰を続けていた米国の住宅価格が下落に転じ、サブプライム問題が発生。これをきっかけに2008年9月にリーマン・ショックが起き、世界的な金融経済危機が発生。これにより日本の長期金利は再び低下傾向となり、2008年には1.155%まで低下した。

 2010年1月に欧州委員会がギリシャの統計上の不備を指摘したことが報道され、ギリシャの財政状況の悪化が表面化し、今度は欧州の信用不安が世界の金融市場を震撼させました。8月に日本の長期金利は2003年以来7年ぶりの1%割れとなった。

 それ以降も日本の長期金利は低下を続け、2016年の日銀のマイナス金利政策を受けて、一時マイナスに沈んだ。その後の9月の日銀の長期金利コントロール政策導入後、11月に入りプラスを回復した。

 しかし、米国のトランプ大統領による米中貿易戦争が悪化の一途を辿り、世界的に長期金利が低下し、日本の長期金利は2019年8月から9月にかけて、マイナス0.3%近くまで低下した。

 その後、2020年あたりから徐々に切り返す格好となっていた。とはいえ日銀が半ば強引に指値オペなどにより長期金利を押さえつけたことで上昇余地も限られていた。

 それが2022年12月の長期金利コントロールの上限の0.5%への引き上げ、今年7月の1%引き上げによって、やっと長期金利が回復してきた。そこに9月9日の日銀総裁発言によって長期金利の上昇に拍車が掛かった格好となった。

 日本の長期金利が0.7%台を付けるのは2014年1月以来、つまり9年8か月ぶりとなる。さらに長期金利が上昇トレンドをしっかり形成してきたのは、1990年以降はじめてともいえる。

 1985年から1990年にかけては債券市場はディーリング相場によってやや荒れていたことを考慮すると、日本の債券市場が本格的に稼働してきてから、はじめての長期金利の上昇トレンド入りということもいえるのかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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