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なぜラツィオは監督と会長が対立と騒ぎに? 鎌田大地らの獲得は「第25希望」だった?

中村大晃カルチョ・ライター
9月16日、セリエAユヴェントス戦でのラツィオのサッリ監督(写真:ロイター/アフロ)

鎌田大地が新天地を選ぶ際、ラツィオがファーストチョイスでなかったのは周知のとおりだ。そして、ラツィオにとっても鎌田はファーストチョイスではなかった。

鎌田だけではない。今季のラツィオの補強は、マウリツィオ・サッリ監督の希望どおりではなかった。ただ、理想の補強ではなかったとの評価と、獲得選手を“残りもの”のように扱うのは大きく異なる。

9月30日のセリエA第7節でミランに0-2と敗れ、開幕から7試合で早くも4敗目を喫したサッリは、試合後の会見で夏の補強について話す際、獲得した選手たちがプランAではなく、プランXやプランYだったと口にした。

■監督の希望と違った補強

ミランは今季の新戦力クリスティアン・プリシックとノア・オカフォーのゴールで白星を手にし、ステーファノ・ピオーリ監督が「クラブの勝利」と補強の成果を誇っている。

これを受け、会見で記者から「あなたはこのメルカート(補強)を支持したのか、それともクラブのメルカートだったのか?」と問われると、サッリはこう答えたのだ。

私がある種の名前をリストアップしたところから始め、結局来たのがこの選手やあの選手となれば…Aから始めて結局選ぶのがXやYからになるなら、Yに「イエス」と言ったかもしれないが、私はAから始めていたんだよ。メルカートはああいう風になって、よく知ってのとおり、私が示していた選手たちは来なかった。だから、私はいる選手たちとやらなければいけない。

サッリはドメニコ・ベラルディ(サッスオーロ)、アントニオ・サナブリア(トリノ)、ピオトル・ジエリンスキ(ナポリ)、ダヴィデ・フラッテージ(インテル)、サムエレ・リッチ(トリノ)といった選手たちを望んでいたとされる。

だが、ラツィオが獲得した主な選手は、鎌田のほかにバレンティン・カステジャノス、グスタフ・イサクセン、マテオ・ゲンドゥジ、ニコロ・ロヴェッラ。いずれもまだ大きなインパクトを残せていない。

■新戦力の士気をくじく発言?

指揮官は、希望と現実の差を強調したかったのかもしれない。しかし、第1希望(A)ではなく、27文字のアルファベットのほぼ最後(Y)の扱いだったと知れば、当の新加入選手たちはよく思わないのではないか。

実際、サッリの発言には批判の声が寄せられている。

ラツィオ専門サイト『La Lazio Siamo Noi』は、「団結より分断につながりかねない」と指摘。古株が主な敗因だった試合もあり、「責任が限定的な新戦力の士気をくじくかもしれない」と懸念を示した。

アンドレア・プランディ記者も、『Radiosei』で「確かに補強は出遅れたが、クラウディオ・ロティート会長が動いてからは、価値ある選手たちが加わった」と批判的だ。

『La Gazztta dello Sport』紙のカルロ・アンジョーニ記者は、「ブーメランになりかねない」と報じた。

「会長と直接話し、明確にしたほうが良かったのは確かだ。結果はサッリの助けになっていない。ロッカールームの全員が味方であることは、浮上に向けて重要だろう。もう手遅れなのか?」

■会長との危機で不穏な空気

もちろん、サッリの発言で懸念されるのは、新戦力との関係だけではない。以前から取りざたされてきたロティート会長との衝突はさらに騒がれるようになった。

同会長はサッリの発言に対し、現在のラツィオのチーム力にビッグクラブとの差はないと主張。「素晴らしいメルカート」と評し、団結の重要性を強調している。だが、メディアが監督と会長の対立を騒いでいるのは言うまでもない。

『calciomercato.com』は「内部にこの上なく強烈な緊張状態をつくった」と報道。「この2023年にイタリアのチームの監督がクラブのアジェンダを指示し、価格に関係なく要求した選手全員をプレゼントしてもらえるなどと本当に思っているのか?」とこき下ろしている。

「それは過去のカルチョの考えだ。ディレクター陣全体の質が向上しなければ、近いうちに再びそうなるとは想像できないだろう。だがそれは、今のサッリが優先すべきテーマではない。彼はピッチ上の教師として非常に優秀だ。だが、コミュニケーションの観点からは自他のマネジメントがあまりなっていない。会長との真の危機はここにある」

■強烈な個性は吉と出るのか

会見での質問に対する回答だったことを考えれば、サッリが敗因や不振の責任を新戦力やクラブの補強に押しつけようとしているわけではないことが分かる。

「監督の95%は同じように答えると思う」とも述べていたサッリは、チャンピオンズリーグのセルティック戦を控えた前日会見で、発言が切り取られていることも指摘した。

しかし、サッリが気むずかしい性格で、事あるごとに様々な文句を口にするのも周知のとおり。『La Lazio Siamo Noi』が、コミュニケーション面での改善をサッリに求めたのも納得だ。

だが、長い指導者生活の大半で苦労してきた64歳の指揮官が、今さらマネジメントの仕方を変えることはないだろう。ならば、このまま突き進みつつ、事態の好転を図らなければならない。

10月4日に行われるチャンピオンズリーグのセルティック戦は、その機会のひとつとなる。日本人対決の実現とともに、サッリの手腕とラツィオの出来にも注目だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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