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球界全体から悼む声が留まらない元GMの早すぎる死

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
パドレスGMとして井口選手(右)の入団会見に臨む故ケビン・タワーズ氏(写真:ロイター/アフロ)

 突然の訃報だった。パドレスとダイヤモンドバックスで長年GMを務めていたケビン・タワーズ氏が現地30日、死去したという。まだ56歳。早すぎる死だった。

 長年MLB取材を続けていた中で、タワーズ氏は間違いなく日本人メディアと関係の深かったGMの1人だった。1995~2009年までパドレスで、2010~2013年までダイヤモンドバックスでGMを務める間に大塚晶則投手、井口資仁選手、斎藤隆投手を獲得したこともあり、何度も我々の取材対象になったことがあった。

 自分が最後に話を聞かせてもらったのは2012年のシーズン最後の日だった。今後の斎藤投手の契約について確認させてもらうためだったが、いつも通りに気さくに応じてくれたし。またその年は負傷続きでなかなか登板できなかった斎藤投手に対しても「お疲れ様。来年は怪我をしないようにしないとね」と笑顔で労いの声をかけていたのを今も鮮明に憶えている。

 ただ初めてタワーズ氏に関わった当初は気難しそうな人物というイメージが強かった。1996年オフにパドレスがMLB挑戦を表明していた伊良部秀輝投手の保有権をトレードでロッテから獲得していた。その後ヤンキース入団を熱望する伊良部氏側とパドレス、ヤンキースを巻き込む騒動に発展していき、最終的にパドレスとヤンキースとの間でトレードが成立するまで、タワーズ氏は何度か日本人メディアの取材を受けることになったのだが(自分はヤンキース担当だったので映像で確認したのみ)、常に険しい表情で対応していたからだ。

 しかし2004年に大塚投手がパドレスに入団し、直接話をするようになってからは印象がすっかり変わってしまった。誰からも愛される典型的な“ナイスガイ”だったことがすぐに分かった。その後もタワーズ氏のことを知れば知るほど、球界全体から人望を集めている人物だということが理解できた。特にメディアからの信頼が厚く、彼ほどメディアに対し友人のように接しているGMにお目にかかったことがなかったし、数人の日本人メディア(残念ながら自分は含まれていない)にも心を許していたほどだった。

 現在もMLBで活躍する有名、人気記者たちが次々にタワーズ氏への追悼記事を公開し続けている。やはりメディアからここまでの対応をされるGMも今まで見たことがない。それらの記事の1つ『USA TODAY』氏のボブ・ナイチンゲール記者によれば、2016年12月に退形成性甲状腺ガンの診断を受け余命1~3ヶ月と宣告されていたのだが、友人が多いタワーズ氏だけに球界ではこれまで“公然の秘密”として、彼の闘病生活を静かに見守ってきたのだという。そしてタワーズ氏が死を迎えたことで、彼らの思いが一気に爆発し追悼記事が溢れだしているのだろう。

 ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMから憧れられる存在であり、カブスのセオ・エプスタイン球団社長が大学を卒業したばかりのインターンとしてGMのあり方を学んだのがタワーズ氏だった。MLB球界屈指の名GMの死に哀悼の意を表したい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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