日本に住む4人に1人、沖縄県の2人に1人はすでに新型コロナに感染している 抗体調査から分かることは?
厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードにおいて、日本における抗体陽性率の調査結果が報告されました。
この結果からは、日本に住む約4人に1人、沖縄県の約2人に1人はすでに新型コロナに感染しているということになります。
今回の調査結果からは他にどのようなことが分かるでしょうか?
今回の抗体調査の概要は?
今回の調査は、2022年11月に日本赤十字社で献血した16歳〜69歳の8260名を対象に、N抗体という抗体が測定されました。
新型コロナの抗体には大きくS抗体とN抗体の2種類があり、S抗体はワクチン接種をした人と感染した人のいずれも陽性になるのに対し、N抗体は感染した人だけが陽性になるものです。
今回は「過去に新型コロナに感染したことがある人」を調査することを目的にN抗体の測定が行われています。
日本の26.5%の人が過去に新型コロナに感染している
献血者のN抗体の調査の結果、26.5%、つまりおよそ4人に1人が過去に新型コロナに感染したことがあると考えられました。
都道府県別に見ると、沖縄県(46.6%)、大阪府(40.7%)、京都府(34.9%)が高く、長野県(9.0%)、徳島県(13.1%)、愛媛県(14.4%)が低いという結果でした。なお東京都は31.8%が陽性でした。
沖縄県の16〜69歳の約2人に1人はすでに新型コロナに感染したことがある、ということになります。
これらの結果は、基本的には、これまでに報告されている各都道府県の人口あたりの感染者数と相関しています。
また、年齢別に見ると、N抗体の陽性率は
・16〜19歳:38.0%
・20〜29歳:35.7%
・30〜39歳:33.6%
・40〜49歳:26.8%
・50〜59歳:21.3%
・60〜69歳:16.5%
となっており、30代未満では3人に1人が、40代以上では4〜5人に1人が新型コロナに感染したことがあると考えられます。
なお男性と女性との間に陽性率に差はありませんでした。
ではこれらの結果から、どのようなことが分かるでしょうか?
気づかずに、あるいは診断されずに感染している人が数百万人いる
今回の調査は16歳〜69歳の献血者を対象に行われていますので、日本の全ての人口を代表しているものではありません。
そうした点を考慮しつつも、概ね4人に1人が感染しているとすると、日本では3300万人が感染していることになります。
2022年12月3日までに、日本では2500万人が新型コロナと診断されていますので、一部の人は再感染していることを差し引いても、感染しても診断されていない人が数百万人はいると推定されます。
海外の報告では、オミクロン株に感染した約半数は感染したことを自覚していなかった、とのことですので、今回の抗体調査の結果と合わせると日本でも自覚せずに感染している人はたくさんいると考えられます。
オミクロン株以降に急激に感染者が増えている
これまでにも国は抗体調査を行ってきており、今回が5回目となります。
毎回同じ検査系で行われたものではありませんが、概ね過去の感染者の割合を反映しているものと考えられます。
これまでの報告では、回を追うごとに徐々に抗体陽性率が高くなり、オミクロン株による第6波の最中である2022年2月に行われた第4回目の調査では全体の4.27%が陽性となっていました。
そこから9ヶ月後となる第5回目までに20%以上上昇しており、さらに2022年になってから24%上昇しています。
このことから、日本の約4人に1人が2022年になってから新型コロナに感染したことになります。
いかにオミクロン株の感染力が強いかよく分かります。
従来のmRNAワクチンを接種した人はオミクロン株に感染しにくくなりますが、完全に感染を防ぐことは困難になってきています。
一方、オミクロン株に感染した人は、同じオミクロン系統の新型コロナウイルスには感染しにくくなることが知られており、この24%の方は少なくとも短期的には再感染しにくい状態と考えられます。
現在、全国的に新型コロナの新規感染者数が増加していますが、地域によって大きく差があります。
例えば、抗体陽性率が最も低かった長野県と最も高かった沖縄県とでは、現在の流行の状況が大きく異なります。
長野県では、すでに第7波を上回る新規感染者数が報告されているのに対し、沖縄県では10月以降も新規感染者数はわずかな増加にとどまっています。
もちろんこの新規感染者数の違いは抗体陽性率だけで説明できるわけではなく、気温や湿度の違いや、それに伴う換気の状況、地域のワクチン接種率など様々な因子が関係していますが、過去に感染したことのある人の割合が現在の流行状況における重要な因子の一つであることは間違いありません。
ではこの抗体陽性率は海外と比べるとどれくらいの状況なのでしょうか?
例として、定期的に抗体陽性率が報告されているイギリスと比較してみましょう。
イギリスでも献血者の抗体陽性率が定期的に調査されていますが、現在のイギリスのN抗体の陽性率は8割を超えています。
これはつまり、イギリスの人口の8割がすでに新型コロナに感染したことを意味しており、またオミクロン株が広がってから20%から80%に上昇していることから、大半はオミクロン株の流行以降に感染していることになります。
イギリスの場合は、S抗体の陽性率も2021年半ばには90%を超えており、ほとんどの方がワクチン接種をしており、さらに8割の人が感染していることになります。
ワクチン接種した人が感染した場合、ハイブリッド免疫と呼ばれるより強固な免疫が得られると考えられています。
イギリスは現在、このハイブリッド免疫を持つ人が多くなっている状況であり、マスクを着けている人が少なくても感染が広がりにくい状況にあると考えられます。
日本がこの状況に至るまでにはまだ時間がかかりそうです。
といっても、イギリスも無傷でこの状況に至ったわけではありません。
イギリスと日本における人口あたりの新型コロナによる死亡者数は、およそ8倍です。
イギリスの方が、日本よりも多大な被害を被っていることになります。
日本がこれから、被害を最小限にしつつハイブリッド免疫を持つ人を増やすのは至難の技と考えられますが、そのためには「急激な感染者の増加を生まない(できる限り小規模な流行に留める)」「重症化リスクの高い人がワクチン接種をアップデートした状態を保つ」ということが重要になります。
海外のコロナ以前に戻ったかのような状況を見るとついつい羨ましいと思ってしまいますが、よそはよそ、うちはうち、ということで日本に合ったペースで緩和を進めていくことが重要かと思います。
参考:第108回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード (令和4年11月30日)「献血時の検査用検体の残余血液を用いた新型コロナウイルスの抗体保有率実態調査(結果速報、概要)」
※N抗体は時間経過とともに陰性になることがあるため、今回の調査での陽性率は少なく見積もられている可能性があります。また、文中にも記載していますが、16歳未満の小児や70歳以上の高齢者の抗体陽性率についてはこの調査では明らかになっていません。