回復に戻る動きか。物価高への懸念は引き続き…2024年6月景気ウォッチャー調査
現状は上昇、先行きも上昇
内閣府は2024年7月8日付で2024年6月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇となる47.0を示したが、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で上昇して47.9となったものの、基準値の50.0を下回る状態は継続する形に。結果として、現状上昇・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。
2024年6月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス1.3の47.0。
→原数値では「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「よくなっている」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは47.3。
→詳細項目は「住宅関連」「非製造業」以外のすべての項目で上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は無し。
・先行き判断DIは前回月比でプラス1.6ポイントの47.9。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が増加、「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは49.2。
→詳細項目は「住宅関連」「非製造業」「雇用関連」が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は無し。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2024年6月では円安や物価高に対する防衛意識などがマイナスの影響を与えている一方で、人の流れの活性化がプラスの影響を与えており、また気温の高さを受けてエアコンなど冷房関連品が好調となり、前月比ではプラスの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2024年6月では現状同様に円安の悪影響や商品価格の値上げへの不安、さらには主食のお米の値上がりなどがマイナス要素としてあるものの、観光客をはじめとする人の流れの活性化への期待があり、前月比では上昇した。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに円安で悪影響を受ける企業も多いが、人流増加のプラス影響は力強く、今回月ではほとんどの部門で前月比プラスを示している。しかし今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は無し。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は無し。物価上昇、具体的には電気料金の値上げや、半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争、さらには円安が足を引っ張っているが、現状同様に人流増加のプラス影響は力強く、特に観光客に対する期待は大きく、ほとんどの部門で前月比プラスを示している。
人流増加の流れと、物価高や円安と
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・インバウンド売上が過去最高を記録している。幾つかの海外高級ブランドの店には、連日インバウンドが入場待ちの行列をつくっている。国内客の売上も、外商客の高額品需要は非常に旺盛である(百貨店)。
・気温が高くなり、エアコンの販売量が増えている(家電量販店)。
・物価の上昇により、客が予想以上に買い控えしており、景気が回復する兆しがない(商店街)。
・販売数がやや減少傾向になっている。エネルギー価格の高騰や円安進行による物価上昇への危機感などから、節約志向が高まっている(スーパー)。
■先行き
・夏の観光シーズンを迎えて、観光需要が本格化することを期待している。ゴルフ目的の客を中心にインバウンドが増えていることもプラスである。前年との比較では、国体開催のような特殊要因がないこと、修学旅行客が前年ほど見込めないことなどから、減少が見込まれるものの、例年並みかそれ以上の入込がみられると期待している(一般小売店[土産])。
・定額減税による手取金額の増加で、消費が上向く可能性がある(商店街)。
・円安により夏物の価格が上がっている。客は値段に一層敏感になっている(一般小売店[雑貨])。
・米の値段が上がっており、主食の値上げは家計を圧迫し、コスト面でも影響が出るものと考えている(スーパー)。
インバウンドなどによる人流の増加で商売が好調との声が複数確認できる。今後に関しても夏季に向けて観光客の増加がよい結果をもたらすのではとの期待がある。
一方、電気料金やお米の価格など、生活に身近なところでの値上げが生活に大きな影響を与えていることも確認できる。前回月同様に、円安の悪影響を不安視する声も見受けられる。
企業動向では景気のよい話と悪い話の両方が出ている。
■現状
・半導体向けの電子材料薬液は、需要が回復傾向にある(化学工業)。
・見積りで資材などの価格上昇分を転嫁せざるを得ないが、理解を得られない状況である(出版・印刷・同関連産業)。
■先行き
・新規の引き合いも出始め、秋口から上向くという取引先情報もある(一般機械器具製造業)。
・為替による輸入原材料価格の高騰、エネルギー費・物流費の高騰の影響が大きく、コスト増加が見込まれるが価格に転嫁すると受注量も減少するため、価格転嫁ができず利益が圧迫されると推測している(食料品製造業)。
需要の回復や先行きの期待感が見られる一方で、物価上昇によるしわ寄せを受けて板挟み状態にある企業の話も目にとまる。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
■現状
・新卒採用の早期化が進んでおり、よい人材を早いタイミングで確保する大手企業が増えている。背景には人材不足や採用の難しさがあるとみている(学校[専門学校])。
■先行き
・慢性的な人材不足からくる需要は引き続き強い(人材派遣会社)。
現状も先行きも「人材不足」のワードがあり、不足感は本格的であることがうかがえる。また現状で「大手企業が増え」とあるが、その分、それができない中小企業は一層困難な状況であろうことが予想できる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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