人流増大効果明らかに、物価高への懸念続く…2023年7月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇
現状は上昇、先行きも上昇
内閣府は2023年8月8日付で2023年7月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、緩やかに回復している。先行きについても、緩やかな回復が続くとみている」と示された。
2023年7月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス0.8ポイントの54.4。
→原数値では「よくなっている」「悪くなっている」が増加、「ややよくなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」が減少。原数値DIは54.1。
→詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「住宅関連」以外の項目が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外すべて。
・先行き判断DIは前回月比でプラス1.3ポイントの54.1。
→原数値では「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは53.0。
→詳細項目は「製造業」以外の全項目が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外の全項目。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年7月では人流増加によるプラスの影響が出ていることや猛暑で季節物がよく動いたことから、前月比で上昇することとなった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2023年7月では人流増加のプラス影響への期待が大きく、前月比で上昇している。一方で物価上昇、具体的には原油をはじめとする資源価格の高騰、半導体などの原材料や部品の供給不足に対する不安が高まりを見せている。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の増加が景況感の足を引っ張ってはいるが、人流増加のプラス影響は力強く、プラス。特に「小売関連」だけでなく、「製造業」「非製造業」ともにプラスなのは注目に値する。なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外すべて。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外すべて。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張ってはいるが、現状で生じている人流増加によるプラス影響が今後も続くとの期待が大きい。
人の流れの回復と物価高と
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・今月は猛暑日が続き、夏物商材の動きが活発になっている。衣料品では水着や浴衣、キャリーケースといったリゾート商材のほか、UV関連商材が売れている。また、食品では飲料やビール、アイス類などの販売が、前年比で10%以上増えている(スーパー)。
・暑い日が続いているため、エアコンなど季節商材の売上が増加している(家電量販店)。
・毎月の生活必需品の値上がりで消費マインドが落ち込んでおり、加えて、猛暑のため午前中に食料品を購入して帰宅する客が多い。そのため、午後から商店街の人通りが極端に少なく、売上も期待できない(商店街)。
・7月は猛暑の影響も大きく、日中に来場する客が通常の3分の2まで減っている。特にシニア層の減少が大きい(ゴルフ場)。
■先行き
・地域イベントの復活傾向に伴い、人流が増えるのではないか(一般レストラン)。
・前年は7月後半~9月にかけて、新型コロナウイルスの感染第7波に見舞われ、来客数は減少した。今年は夏休みやお盆商戦の人流の増加が予想されるほか、インバウンドの増加もあるため、今後2~3か月は期待できる(百貨店)。
・夏休み以降、観光需要が一巡し落ち着くことが見込まれる。さらに、光熱費の負担増、物価高の影響で客の節約志向が強まることも懸念される(コンビニ)。
・ここ数年は残暑のため秋物の立ち上がりも遅いところに諸物価の上昇が響いて、なじみ客であっても実需期にならないと来店してくれない(衣料品専門店)。
人流増加による期待は大きなものがあるが、一方で物価高によるコスト高と需要減少・節約志向の高まりの2局面からの厳しさを指摘する声も多い。
企業動向でも物価高への影響が見受けられる。
■現状
・原材料価格やエネルギーコストは現在も高止まり状態だが、人々の動きが活発になっている影響か、外食や中食向け商品がけん引する形で全体の売上が増加しており、収益は改善傾向にある(食料品製造業)。
・受注量が減少しており、今後も低調に推移する見込みである。また、資材高騰の影響を受け、各社の住宅販売価格がアップしており、契約件数の落ち込みが発生している(木材木製品製造業)。
■先行き
・予算計画数に対して上振れが続いており、第2四半期も売上の増加を予測している(輸送用機械器具製造業)。
・猛暑の影響で、米やその他の作物の収量が減少することが懸念される(農林水産業)。
売上の増加と収益の改善との話もあるが、一方で業績低迷とコスト高の話も出ている。昨今の「住宅関連」の値が思わしくない原因をかいまみることができる。また、猛暑の影響で農作物の収量が減少しそうという、注意すべき話もある。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
■現状
・新規求人数、新規求職者数が共に高水準で推移しているものの、双方の条件のかい離が大きく、マッチングが進まない状況が続いている。足元では徐々に賃金の上昇が始まっているが、これまでのような企業業績の向上による賃金上昇ではなく、人手不足によるもののため、今後、企業業績にマイナスの影響を与えていく(人材派遣会社)。
■先行き
・インバウンド需要の拡大による小売、飲食、観光の各業界の人材不足感の高まりから、事業主の採用意欲は非常に旺盛である(職業安定所)。
人手不足による賃金向上が企業業績にマイナスの影響とあるが、その人手が確保できなければ企業の存続すら危ういのだから、業績云々どころの話ではないのも事実。一部の経営層で現状の認識がまだ十分ではないということだろうか。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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