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「野党圧勝」韓国 "親日派叩き"の実態 「国内選挙が韓日戦」「岸田・尹のオムライス逸話も罵倒」

総選挙で圧勝した「共に民主党」の李在明代表(写真:Lee Jae Won/アフロ)

「親日派が跋扈(ばっこ)する政府・与党、尹錫悦政権は親日政権なのか」

「乱れた外交・親日・ネトウヨにつながる与党の暴言」

これ、何なのかと言うと「ついおとといまでの韓国の話」だ。

それも全300議席のうち、過半数の160議席以上を獲得し圧勝した2大政党の一角「共に民主党」が、大きな選挙で大々的かつオフィシャルに使っていたフレーズ。

10日に行われた韓国の総選挙(国会選挙)。一院制のこの国にあって、4年に一度のこの選挙は毎回「大統領の中間評価」という位置づけで行われる。

革新(進歩)系野党「共に民主党」は、保守系与党「国民の力」との一騎打ちとなった選挙を戦った。つまりは尹錫悦現大統領側の陣営と戦ったのだ。圧勝した「共に民主党」は、「敵陣は日本の味方」という枠組みでの批判も繰り広げていたのだ。

敗れた「国民の力」の支持者たち。選挙戦最終日に
敗れた「国民の力」の支持者たち。選挙戦最終日に写真:ロイター/アフロ

韓国ではこれを「親日フレーム」と呼ぶ。反日には違いがないが、「日本に味方する保守派をより強く叩く」というロジックだ。日本よりも自国内の敵陣が憎い。

2019年に夏に起きた「NO JAPAN不買運動」が大きく知られるようになったきっかけだ。韓国では「韓日貿易戦争」とも呼ばれた。これを巻き起こしたのは今回圧勝した「共に民主党」の支持層だった。

韓国側からのストーリーを記すと、いわゆる「徴用工裁判」に関し、当時の安倍晋三政権が対抗処置として、日本から韓国に輸出する半導体などの製造に不可欠な工業製品3品目について輸出手続きを複雑にした。いわゆる「ホワイト国除外」だ。

これに乗じて、対立する保守系の「国民の力」の勢力を一掃しようとした。当時のデモを現地取材したが、一行の最終目的地は国内最大級の保守系媒体「朝鮮日報」で、そこで「廃刊しろ!」「親日」と叫ぶものだった。

「親日」とは「親日派」のことで、韓国では「日本による植民地統治時代、日本の味方をして朝鮮半島の人々に対し暴力や略奪を行い社会的成功を得た層」のことを話す。この層の子孫は、日本からの解放後も「保守派」として既得権益などの甘い汁を吸ったとされるため、「革新系(韓国では進歩系と呼ぶ)」の目の敵となっている。自分たちが抑圧されてきたのは、日本と結託した層が社会に蔓延ってきたからだ、と。これが今日の韓国での保革(左右)対立の源流でもある。

今回の選挙でもこのフレームは継続され、現地大手メディアでも報じられるほどだった。

「オムライス一杯で自尊心を売り渡した」

まずは党本部が冒頭のフレーズの他に、以下の内容を党の公式サイトで発信している。

「大統領は、21世紀の新親日派、(保守派の)キム・ヨンウォン人権委員会常任委員を直ちに解任せよ」

「『国民の力』は親日のDNAから抜け出せない親日政党ですか?」

これら文章のなかには、“強烈”な言葉が並んでいる。

「一体どこの国の総選挙で、どこの国の与党なのかわかりません。『国民の力』は民意の殿堂である国会を親日人士で埋め尽くし、日本の議会にするつもりですか?」

「国民の怒りは、オムライス一杯でもてなされて国民の自尊心と大韓民国の海を売り渡した尹錫悦大統領に向かうでしょう」

「尹錫悦政権は日本との『未来志向的関係』を口にしながら、日本の未来のためだけに民族のアイデンティティまで捨てようとしています」

2023年3月に来日し日韓首脳会談に臨んだ尹錫悦大統領。夕食時、岸田文雄首相と共に、自らが幼き日に行った日本の洋食屋のオムライスに舌鼓を打ったエピソードは有名だ
2023年3月に来日し日韓首脳会談に臨んだ尹錫悦大統領。夕食時、岸田文雄首相と共に、自らが幼き日に行った日本の洋食屋のオムライスに舌鼓を打ったエピソードは有名だ写真:代表撮影/ロイター/アフロ

国内選挙が韓日戦?

3月11日には同党の京畿道支部がこんな選挙ポスターを発表した。

「李舜臣将軍 vs. 伊藤博文」

なんで韓国の選挙で? 

李舜臣将軍は、豊臣秀吉の朝鮮出兵から自国を守った英雄。これを自陣営の候補に見立て、伊藤博文を道内の選挙区の対立候補ソン・イルジョン氏に例えたもの。これは「国民の力」の現職候補であるソン氏が国内の教育関連機関でのスピーチでこんな発言をしたというのだ。

「日本では次の世代を育てる(奨学)制度がない時代に、(財政局長が)金塊を盗んで行けるようにしてあげ、伊藤博文などがその金塊で勉強した後、日本を発展させた」

伊藤博文は日本が朝鮮半島に影響力を強めていた時代の韓国総督でもある。したがって「国民の力」のソン候補から国を守る存在として、自陣候補がいる、という構図を作り出したのだ。

4月2日には党の李在明(イ・ジェミョン)代表自ら、ソウルの激戦エリア銅雀区を訪れ、スピーチ。「国民の力」の大物候補ナ・ギョンウォン候補の「親日行動」を厳しく批判した。

「この総選挙は新韓日戦だ」

「ナ候補をこの総選挙で審判できなければ、尹政権を審判できないかもしれない」

何が「親日派」なのか? 04年にソウルの日本大使館で行われた自衛隊の設立記念日関連のセレモニーに国会議員初当選だった同候補が参加したことによるものだ。

  • 現地の左派系有力ユーチューブチャンネル「ソウルの声」による選挙の煽り投稿

世論調査では「日本にあまり関心なし」だが…

いっぽうで「共に民主党」のこういった戦略は、「一部の過激な言動」という面もある。

今回の国会選挙前の3月22日、韓国の大手世論調査会社「ギャロップ」が発表した世論調査「第22代国会議員選挙結果への期待」ではこんな結果が出ている。

そのなかの一項目として実施された「大統領の業務評価」ではそもそもの「外交」への関心度がかなり低かったのだ。大統領選と総選挙は別物だが、直近の韓国人の政治的関心事として参考になるデータだ。

◆肯定的評価(複数回答可)

「医大部定員拡大」(27%)、「決断力/推進力/粘り強さ」(10%)、「外交」(9%)、「庶民政策/福祉」、「全般的によくやっている」(以上5%)、「経済/民生」、「主観/信念」(以上4%)

◆否定的評価(同)

「経済/民生/物価」(22%)、「独断的/一方的」、「疎通不足」(以上9%)、「医大定員拡大」(8%)、「全般的によくない」、「外交」、「人事」(以上5%)、「経験・資質不足/無能」(4%)

つまりは否定的を下した人のうち、「外交」を挙げたのは5%。6番目だった。アンケート内では総選挙と合わせた論点として「今後1年に国際紛争が起きる可能性」という点が大々的に論じられており、当然のごとく関心は米中露といった大国、そして北朝鮮との関係にある点は想像に難くない。

「国政選挙での対日関係の重要度は低い」

2010年の韓国大統領選挙以来、この国の国政選挙をウォッチングしてきているが、もうこの点は常だ。それはそうだ。自分たちの生活・経済がまずは大切。近年では2021年の文在寅政権末期に「不動産価格が高騰しすぎて家が買えない」という点に大きな問題意識が持たれた。

つまりは日本への関心度は低いのに、日本関連の話題の問題を持ち出して相手陣営を批判してきたのだ。それも日本自体というより「日本の植民地統治に協力した勢力の子孫」「今も協力している」として相手を批判する。筆者はこれを「日本のいない反日」「韓国国内問題としての日本」ではないかと見ている。

「民主党」の味方のはずの大手メディアも「疲労感」

一方、与党「国民の力」は「共に民主党」の「親中」姿勢を問題視してきた。なかでも2022年6月の出来事を蒸し返して槍玉に挙げた。「共に民主党」の李在明代表が沈海明駐韓中国大使と会談。その際に沈大使が「中国の敗北に賭ける者は必ず後悔する」と話し、これに李代表が賛同した。発言に対して「国民の力」は中国を「内政干渉」と批判し、賛同した李代表の対応は「事大主義」的だったと主張した。

こういった攻防について、革新系大手紙「ハンギョレ新聞」ですら疑問を呈している。

「『親日』に『親中』で立ち向かう与野党、疲労感が高まる総選挙外交の応酬」(3月24日)

与野党とも外交・安全保障政策のビジョンを示さず、ただ相手を罵倒し合うだけではないか、と。確かに筆者自身も本稿執筆のための調査・取材だけでぐったりと疲れた。韓国の国内政治の情報に「日本」というキーワードが出てくる。何か反応しそうになるのだが、それは「日本に協力する韓国内の勢力」への批判。

そもそもこちらから何か言うことでもないのだが、何か気になる。でも何にも言いようがない。そういう疲労感だ。勝手に疲れとけ、という話で。

今回の圧勝で、日本との協調外交路線を打ち出してきた尹錫悦政権への中間評価は下された。韓国内の雰囲気はどう変わっていくだろうか。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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