ジャンプ一強だが200万部割れ状態…少年向けコミック誌の部数動向をさぐる(2020年1~3月)
ジャンプ最強伝説継続中…直近四半期の実情
専用の電子書籍・雑誌リーダーだけでなくパソコンやスマートフォン、タブレット型端末を用いたインターネット経由にて、漫画や文章を読む機会が多数得られるようになったことで、人々の読書欲はむしろ上昇の一途との解釈もある。一方で紙媒体による本は相対的な立ち位置の揺らぎを覚え、多分野でビジネスモデルの再定義・再構築を迫られる事態に陥っている。今回はその雑誌のうち、特にすき間時間のよき相棒といえる少年向けコミック誌について、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)のうち、2020年5月に発表した、直近(四半)期分となる2020年1~3月分(2020年第1四半期、2020年Q1)を中心に実情を確認する。
まずは少年向けコミック誌の直近期、2020年1~3月の実情。「週刊少年ジャンプ」が群を抜いている状況は前期から変わらず。少年向けコミック誌の中では唯一のダブルミリオンセラー(200万部以上の実績)誌として君臨していた。しかし開示されている記録の限りでは2017年1~3月期にはじめてその大台を割り込み、今期でも挽回はならず、200万部割れが継続する形に。次いでやや年上向けの少年向けコミック誌「週刊少年マガジン」、さらには小学生までの低年齢層向け(主に男子向け)コミック誌「月刊コロコロコミック」。
かつては複数誌が100万部を超えていたが、「週刊少年マガジン」が2016年7~9月期に100万部を割り込んだことで、少年向けコミック誌で100万部超えの雑誌は「週刊少年ジャンプ」だけとなってしまった。恐らくはこの状態が今後も継続するのだろう。やはりすき間時間の消費対象の代替的存在、スマートフォンをはじめとしたモバイル端末の普及による影響は大きいようだ。
他方、唯一の100万部超えの「週刊少年ジャンプ」だが、直近データで確認すると印刷証明付き部数は現在157万2833部。雑誌では返本や在庫本(売れ残り)なども存在するので(返本率などは部数動向では非公開)、それを勘案すると最終消費者の手にわたっている冊数は、これよりも少なくなる。雑誌の種類やジャンルによって返本率は大きな変動があるが、暫定値として4割と試算すると(上場している取次会社の決算資料の限りでは、雑誌の返本率はおおよそ4割)、実セールスは100万部足らずだろうか。あるいは「週刊少年ジャンプ」ならばもう少し返本率は低いかもしれないが、雑誌別の返本率は非開示であるため、その実情は分からない。
同誌はピーク時となる1995年では635万部の値を出していた記録を目にするに、その3割足らずにまで落ちてしまった現状は、時代の流れを感じさせる。「週刊少年マガジン」の100万部割れとともに、雑誌全体の歴史において一つの時代を刻んだ流れと考えれば、冷静に受け止めることもできるのだが。
コンビニなどでもよく見かけるメジャーな週刊コミック誌で、大規模かつ大胆な組織構造改革宣言を行った「週刊少年サンデー」の部数は、今期では23万2500部。容易に取得可能な最古のデータとなる2008年の4~6月期における86万6667部からは約27%にまで部数を減らしている。
グラフの形状からも分かる通り、何度か大胆な改革により部数持ち直しの気配も見られたが、全体的な流れに逆らうまでには至っていない。今回の改革に関しても、現時点ではその成果は数字には現れていない。2015年8月に宣言を始めたこともあり、もうすぐ5年が経過しようとしているのだが。
他方コミック誌は電子化が相当進んでおり、電子雑誌版に流れた読者が原因で、「印刷」部数が上向きになっていないだけの可能性も否定できない。
プラス誌は無し…前期比動向
続いて公開データを基に各誌の前・今期の間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。コミック誌は季節でセールスの影響を受けやすいため、四半期の差異による精査は、コミック誌そのものの勢いとはズレが生じる可能性がある。一方でシンプルに直近の変化を見るのには、この単純四半期推移を見るのが一番。
なおデータが雑誌社側の事情や休刊などで非開示になったコミック誌、今回はじめてデータが公開されたコミック誌は、このグラフには登場しない。
今期で前期比によるプラスを示した少年向けコミック誌は皆無、誤差領域(上下幅5%以内)を超えた確実なマイナスは8誌。10%以上の下げ幅を示した少年向けコミック誌も3誌確認できる。
最大の下げ幅を示した「別冊コロコロコミックスペシャル」は2014年10~12月の26万5000部をピークに失速中。
該当期に発売されたのは2020年2月29日発売の2020年4月号のみ。かつてネットでよく見かけたような猫達が活躍する「にゃんこ大戦争」を表紙とし、「映画ドラえもん のび太の恐竜」「妖怪ウォッチ」など人気作品を掲載。付録も「にゃんこ大戦争 飾って!にゃんこ大軍団クリアスタンド」を用意。しかし部数は伸び悩み、前期から1万部以上も部数を減らしてしまった。
季節動向を考慮し前年同期比で検証
続いて季節変動を考慮しなくて済む、前年同期比を算出してグラフ化する。今回は2020年1~3月分に関する検証であることから、その1年前にあたる2019年1~3月分の数字との比較となる。年ベースと少々間が開いた期間の比較となるが、雑誌の印刷実績で季節変動を除外し、より厳密に知ることができる。
全誌がマイナス。誤差領域に留まった下げ幅を示したのは2誌のみで、それ以外はすべて誤差領域を超えている。そして10%以上の下げ幅は11誌。
「月刊少年シリウス」はマイナス51.6%と、実に半減以上の減少ぶり。
グラフの形状を見れば分かる通り、今期はテレビアニメ化などで人気を博した「転生したらスライムだった件」などで生じた特需により大きく部数を伸ばした2019年1~3月期との比較となったため、半減以上の減少を示す形となった。とはいえ7200部との値は2018年7~9月に記録した7267部を下回り過去最少部数に違いはなく、危機的状況ではある。
「少年サンデーS(スーパー)」の大きな下げ幅は、映画「ゼロの執行人」をきっかけに注目された登場人物の安室透氏に絡めた企画が功を奏した時に大きく増えた部数との比較のため。
ピークを見せた2018年4~6月以降は似たような切り口での紙面展開を継続してはいるものの、部数は落ち込むばかりとなっている。今期でも映画「名探偵コナン 緋色の弾丸」をはじめ「名探偵コナン」を大きく取り上げ表紙も飾っているが、部数の立て直しは難しいのが現状。映画公開となればまた部数は持ち直すのだろうか(記事執筆時点では当初2020年4月17日からの公開予定が新型コロナウイルスの流行を受けて延期となり、公開日が2021年4月となっている)。
一方「ウルトラジャンプ」は特需云々のような話もなく、失速に近い下げ方。
「ウルトラジャンプ」は「ジョジョの奇妙な冒険 Part8 ジョジョリオン」など話題性に富んだ作品の連載を持ち、最近では「銀河英雄伝説」など「週刊ヤングジャンプ」からの移籍作品の連載が始まるなど内容的には勢いのある雑誌のはずなのたが、部数の失速ぶりにも勢いがついてしまっている。もっとも他の雑誌同様、電子書籍版も同時展開されており、そちらに読者がシフトしてしまっている可能性は否定できない。
水曜発売の週刊誌として相並び紹介されることが多い、そして昨今では100万部割れで注目を集めた「週刊少年マガジン」と、その宿命的ライバルな存在の「週刊少年サンデー」の部数動向は次の通り。
「週刊少年マガジン」の方が2倍以上も部数は多いが、部数の減少の仕方もやや急で、その差は少しずつだが縮まりつつある。このような形での競争ではなく、双方とも上昇の中での競り合いを見せてほしいものだが。
もっとも両誌とも電子版を展開中で、その利用者数は少なくないと考えられる(実数は非公開なので実情は不明)。紙媒体の部数のみをカウントした今値の動向は両誌の勢いではなく、単純に紙媒体版のセールス動向を記しているに過ぎないことを注意しておく必要がある。
現在は電子本、ウェブ漫画が普及する中で、小規模書店の閉店、コンビニでのコミック誌のシュリンク化・棚からの撤去が続き、紙媒体を手に取る機会が減少している。漫画を提供し、市場を支えていくための仕組みも選択肢が増え、領域が広がり、これまでとは異なる発想が求められつつある。
なお今件の各値はあくまでも印刷証明付き部数であり、紙媒体としての展開動向。コミック誌の内容が電子化されて対価が支払われた上でダウンロード販売された場合、その値は反映されない。そして電子雑誌の利用も確実に増えている。そのため、印刷証明部数が減少を続けても、各誌そのものの需要がそれと連動する形で減少しているとは限らないのには注意をしなければならない。
また今期では新型コロナウイルスの流行に伴う商業活動自粛の動きの中で、少なからぬ書店が自粛休業を行い、それに伴い書店からの注文がキャンセルされたことで雑誌発注数が減り、部数にも影響を与えた可能性がある。とはいえ実数を見る限りでは前期と変わらないレベルの軟調さであり、明らかに部数を引き下げたとは考えにくいのが実情だ。
■関連記事:
電子書籍リーダーとタブレット型端末の所有・利用状況をさぐる(2019年公開版)
※印刷証明付き部数
該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数ではない。売れ残り、返本されたものも含む。
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