Yahoo!ニュース

米国の長期金利は節目とされる1.2%を突破、次の節目は1.6%近辺。日本の長期金利も上昇か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 ここにきて米国の10年債利回り(長期金利)が上昇しつつある。

 2020年3月に米10年債利回りは一時、0.31%まで低下していた。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によるリセッション懸念に加え、原油先物価格が急落したことで、リスク回避の動きを強めたためである。

 その後、米10年債利回りはいったん低迷していたが、8月に0.5%あたりまで低下したあと、じりじりと上昇基調に転じてきた。新型コロナウイルスのワクチン普及による景気回復への期待もあったが、米国株式市場がハイテク株などを主体に切り返してきたことから、リスク回避の反動のような動きとなって、米10年債利回りは反発した。

 米10年債利回りは1%あたりが節目となっていたが、2021年に入り、その1%を突破してきた。米大統領選挙でバイデン氏が勝利し、民主党が大統領と上下両院の過半数を握るブルーウエーブが実現。これにより、大型の追加経済対策が実施されるとの観測により、米国の景気回復期待と物価の上昇観測、さらに米国債の増発も意識されての、米10年債利回りの上昇となった。

 米10年債利回りは1.2%が次の節目となっていたが、12日に1.21%まで上昇したことで、ここを抜けてきた。次の節目は、チャート上は1.6%あたりとなり、このあたりまでの上昇もありうるか。

 米国ではやっと新型コロナウイルスの感染拡大にブレーキが掛かりつつあり、ワクチンによる効果が出れば、一気に正常化が進む可能性はある。原油高なども加わって物価の上昇も予想されるが、利上げにはFRBは慎重姿勢を示し、大型の経済対策が効きすぎる可能性もある。国債の発行量増加なども加わって、米国債の利回りが跳ね上がる可能性はありうる。

 欧州でもこの米10年債利回りの上昇による影響や、ECBによる追加緩和期待の後退などもあり、ドイツの10年債も、じわりじわりと上昇しつつある。

 そして、日本の10年債利回りもかろうじてではあるが、上昇しつつある。日銀は3月の金融政策決定会合で点検を行うとしているが、ETFの買入の柔軟化とともに、長期金利の動きの幅をもう少し拡大するのではとの期待もある。

 これは、少しでも長い期間の国債利回りを引き上げ、マイナス金利政策による金融機関への副作用を軽減させるためとともに、長期金利を抑え込むのではなく、ファンダメンタルズや国債需給によって多少なり動ける幅を設けるためではないかとも予想される。マイナス金利の深掘りも可能にするとの観測もあるが、これは緩和後退に見せないための施策でしかないと思う。

 日本の10年債利回りも米債の動向など次第では0.1%を上回ってきてもおかしくはない。しかし、0.2%や0.3%に一気に上昇するようなことは現状は考えづらく、もし突発的な動きが出た際には日銀は指し値オペなども使ってブレーキを掛けることも予想される。レンジは拡げても実際に動ける幅は制限されよう。

 これは、あくまで日本の債務に対する不安などが生じなければということではあるが。もし日本国債への信認が崩れれば、日銀とてブレーキは掛けられず、むしろその買い入れる行為そのものが、火に油を注ぐ結果となりかねない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事