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「身も心もボロボロに」北朝鮮の兵士をもてあそぶ権力者のやりたい放題

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
食事の準備をする北朝鮮の女性兵士(デイリーNK)

 北朝鮮の兵役は例年、春と秋に一斉に満了期間を迎える。最近になって1〜2年短縮されたとは言え、7~8年もの兵役期間は依然として世界最長だ。そんな兵役を終えた人々は、軍服を脱いで家族の待つ家に戻り、地方政府の軍事動員部に除隊申告をして、新しい職場への配置を待つ。

ところが、昨年から状況が変わった。

 米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋の話として伝えたところによると、朝鮮労働党咸鏡北道委員会と軍事動員部は、兵役を満了した兵士を集めて突撃隊(半強制のボランティア部隊)を結成、昨年1月の朝鮮労働党第8回大会での決定に基づき、道内で行われている住宅などの建設現場に送り込んでいる。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 北朝鮮の兵役は期間が極端に長いだけでなく、兵舎の衛生状態も糧食の栄養状態も劣悪、動員された建設現場での事故も多発している。さらには上官らによる虐待も横行し、末端の兵士は理不尽な苦痛を強いられている。

 兵士らは、除隊して故郷に帰ることだけを考え、そのような環境に耐えているのだ。

 ところが、「故郷に戻って長年の軍隊生活でボロボロになった心身を休める暇も与えられず、本人の意志とは関係なく、再び軍隊時代と同じように建設現場で働くことを強いられる」(情報筋)というのだから、反発の声が上がるのも当然のことだろう。

「当局は、軍服務期間の規律生活と集団的な労力動員が身についている除隊軍人からなる突撃隊を立ち上げて仕事をさせれば、建設事業が一糸乱れずに進められるだろうという考えから、除隊軍人を(帰郷後)のすぐに突撃隊に入れるという無茶なことをしている」(同)

 北朝鮮当局は、除隊軍人の多くが候補党員(見習い党員)として入党することを利用して、突撃隊に動員しているという。候補党員の期間は2年だが、党の指示に従わなかったり、生活上の問題を起こしたりしたら正党員の資格が得られず、入党そのものが取り消されてしまうため、嫌でも従わざるを得ない。

 権力が兵士の人生をもてあそぶ仕組みが、ここにあるのだ。

 厳しい軍隊生活を生き抜いたのに、突撃隊に動員され、事故で死亡する事例も相次いでいる。

 ただ、突撃隊は永続的なものではなく、活動期間が終われば解散する。一方で、北朝鮮当局が同時に進めている「集団配置」の場合は、一生続く過酷なものだ。

 当局は、兵役を終えたばかりの兵士を、きつい、汚い、危険の3Kの農村、鉱山などに集団で送り込む「集団配置」を大々的に行っているが、このような形で派遣されれば、農村戸籍に編入させられ、一生をその地で送ることとなる。

 極めて理不尽で無理のある政策だが、以前から農村や鉱山で働いていた人々は、より現金収入が得やすく、生活環境の良い都市部に逃亡しており、集団配置でやってきた元兵士たちも、ほとぼりが冷めたころに、しれっと都会に逃げ帰るだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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