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コロナ禍で生じた映画館離れ?…映画館での映画鑑賞の動向をさぐる(2024年公開版)

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
新型コロナウイルスの流行で映画館も制約が(写真:ロイター/アフロ)

最近では社会現象まで巻き起こすヒット作が相次ぐ映画業界。しかしながらそのメインとなるプラットフォームにあたる、映画館での映画鑑賞は不調であるとの話をよく見聞きする。入場者数などはすでに業界団体から開示されているが、一般利用客の利用性向としてはどのような実情なのだろうか。総務省統計局の「令和3年社会生活基本調査」(※)の結果から確認する。

最初に示すのはデータが取得可能な1986年以降の映画館での映画鑑賞の行動者率(調査日において過去1年間に1日でも映画館で映画鑑賞をした人の割合)と行動者数。1986年から1991年は15歳以上が、1996年以降は10歳以上が対象となっているため、厳密には双方に連続性は無い。さらに1986年と1991年分は総数の行動率が公開されていない(対象年齢が異なるためだろう)。そのため行動者率では考察から外している。

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(男女別)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(男女別)

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(男女別、万人)(~1991年は15歳以上、1996年~は10歳以上)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(男女別、万人)(~1991年は15歳以上、1996年~は10歳以上)

明らかに男女とも、映画館での映画鑑賞の行動者率は増加の一途をたどっていた。2011年に一時的に落ち込んだのは、同年3月に発生した東日本大震災に伴う直接の被害や自粛ムードに伴うものだろう。1996年当時には男性で1/4近く、女性で3割近くが少なくとも年に1日は映画館に足を運んで映画鑑賞をしていたが、2016年では男性で4割近く、女性は4割強にまで増加していた。

行動者数では2011年だけでなく1991年でも減少の動きを示したが、おおよそ増加の流れにあった。1986年当時と比べ、30年が経過した2016年では男性で600万人強、女性では1000万人近く増加していた。

ところが2021年では行動者率・行動者数ともに大きな減少を示してしまう。これは新型コロナウイルスの流行で生活行動で外出忌避の方向性が強まり、またいわゆる「三密」となりやすいことから映画館そのものが休館を余儀なくされることも多々あったからに他ならない。

これを年齢階層別に見たのが次のグラフ。年齢階層の区分を古い調査にあわせてあるので、直近2021年の公開値そのものよりは粗いものとなっている。また1986~1991年は10~14歳の公開値が存在しない。

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(男性、年齢階層別)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(男性、年齢階層別)

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(女性、年齢階層別)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(女性、年齢階層別)

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(男性、年齢階層別、万人)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(男性、年齢階層別、万人)

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(女性、年齢階層別、万人)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(女性、年齢階層別、万人)

まず行動者率だが、調査年のヒット作とその対象年齢で少なからぬ影響も生じているようだが、大勢としては男性は30代以上、女性は20代後半以上はおおむね映画館での映画鑑賞をより積極的に行う傾向を示している。若年層は映画館での映画離れ的な動きも一部で見られたが(特に男性)、2016年では大いに挽回をし、調査対象期間内では最大の行動者率を示している。「君の名は。」が貢献した可能性を示唆する動きではある。一方で2021年ではその前の調査となる2016年から大きな落ち込みを見せている。いうまでもなく、新型コロナウイルスの流行によるもの。年齢階層別を問わずに下落が生じている。

行動者数の動向でも似たような状況が確認できる。男性は30代までが漸減、30代で増加の後に横ばい、それ以降は漸増。そして2021年では大きな減少。女性は行動者率とはやや異なり40代以降で好調化の動きをしていたが、やはり2021年では急落している。

業界団体の公開資料の限りでは、映画館入場者(延べ人数)は1958年をピークに大きく減少したあと1970年代以降は緩やかな減少、今世紀に入ってからは横ばい、先の震災以降は漸増の動きの中にある。

昨今一部界隈で語られている「映画館での映画鑑賞離れ」といった話は、今回の調査結果の限りでも確認することはできなかった。2021年の減少はコロナ禍という特異な状況下におけるもので、これだけで「映画館での映画鑑賞離れ」を断じることは難しい。

インターネットの普及に伴い高解像度の動画が自宅で楽しめるようになり、テレビも大型化・高画質化・多機能化を示している。映画館での映画鑑賞の動員数増加を目指すのなら、それらと対抗できる良質コンテンツの輩出を成しえる土壌づくり、インターネットや家庭のテレビでは得られない魅力あふれる体験を提供する模索が求められよう。

なお映画館以外での映画鑑賞も今調査では調査対象項目に挙げられているが(「映画館以外での映画鑑賞(テレビ・DVD・パソコンなど)」)、2006年と2011年の調査では「DVD・ビデオなどによる映画鑑賞(テレビからの録画は除く)」とずれのある対象行動だったため、時系列的な比較ができない。「自宅で映画館並みの大スクリーンで、好きなだけ映画を鑑賞できるようになったので映画館への入場客が減っている」という話を考察するデータは得られないことを記しておく。

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※令和3年社会生活基本調査

国勢調査の調査区のうち、総務大臣の指定する約7600調査区に対して行われたもので、指定調査区から選定した約9万1000世帯に居住する10歳以上の世帯員約19万人を対象としている。ただし外国の外交団やその家族、外国の軍人やその関係者、自衛隊の営舎内や艦船内の居住者、刑務所などに収容されている人、社会福祉施設や病院、療養所に入所・入院している人は対象外。2021年10月20日現在の実情について回答してもらっているが、生活時間については2021年10月16日から10月24日までの9日間のうち、調査区ごとに指定した連続する2日間についての調査となる。調査方法は調査員による調査世帯への調査票配布と、調査員への提出あるいはインターネットでの回答による回収方式。

調査は5年おきに実施されており、過去の調査もほぼ同様の様式で行われている。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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