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いまや鹿農家の伝説戦士・トンプソン ルーク、出身国よりも日本代表を応援。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
今季も活躍が期待される(筆者撮影)

 関西弁を話す41歳は、いまもタフな現役戦士だ。

 トンプソン ルーク。身長196センチ、体重110キロの通称「トモさん」は、日本代表として2019年までに4度のワールドカップを経験し、71キャップ(代表戦出場数)を得てきた。

直前に代表復帰して臨んだ日本大会では史上初の8強入り。
直前に代表復帰して臨んだ日本大会では史上初の8強入り。写真:ロイター/アフロ

 11月12日には千葉・浦安Dパークで、オーストラリアのウェスタン・フォースとの国際親善試合に途中出場。国内リーグワン2部の浦安D-ロックスの一員としてだ。空中戦のラインアウトで相手ボールを奪ったり、突っ込んでくる相手選手をタックルで仕留めたり、攻防の境界線へ突進したり。

 下働きの請われるロックの戦士として、役目を果たした。

 試合は34―28で勝利。6日に同じ場所でおこなった初戦を33―28としたのに続き、2連勝した。

「久しぶり」

 スポンサーボードの前で笑みを浮かべ、主に日本語で取材を受けた。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——いいゲームでした。

「フォースはベストメンバーじゃなかったけど、今日勝ったのは素晴らしい。チームの姿勢も素晴らしい。全部がいい」

——トモさんも、ラインアウトでのスティールなどいいプレーがありました。

「たくさん(ボールが奪う)チャンスがあったのに(できたのが)1回だけだったからちょっと残念だった。まだディフェンスは、ワークオンして、レベルアップしたい」

——所属するD-ロックスは、NTTグループの2チームが再編成されてできたチームです。

「いまはいい雰囲気。もちろん、難しい。ふたつのチームが一緒になって…。でも、監督(ヨハン・アッカーマン新ヘッドコーチ=もともとNTTドコモレッドハリケーンズ大阪で指揮)が新しい雰囲気を作るのに頑張った。『ここはドコモでもシャイニングアークス(筆者注・後述)でもない。新しいチームだ』と。

(ここから英語で)ふたつのチームが一緒になるのは難しいけど、オンフィールド、オフフィールドで、色んなコミュニケーションを取ってひとつのチームを作ろうという取り組みをしています。これから試合、トレーニングをこなしていくなかでひとつのチームを作れるよう、頑張らないといけない。

(以下、日本語で)いまはいい。もちろん難しいけど。自分のアイデンティティを、D-ロックスのアイデンティティを作る。楽しみ」

——ちなみに、トモさんが今季、合流したのは。

「2週間くらい前。だから、今日、ちょっと(動きが)遅い。プレシーズンは少しだけだったから、自分のフィットネスはあまりよくないけど」

 チームは夏場、猛練習に取り組んできた。順調に仕上げてきた。トンプソンは、その輪に入って間もないのに出色の働きを示していた。非凡さがうかがえる。

 合流が遅れたのには、わけがある。

 そもそも2004年に初来日のトンプソンは、07年からプレーする現花園近鉄ライナーズで2020年に現役を引退。その後は母国のニュージーランドで牧場主となり、鹿の角での漢方薬作りに従事していた。鹿の角から作った漢方薬は、血流の促進を助けたり、痛みを和らげたりする効果が期待される。

 トンプソンが現役復帰を果たしたのは、昨季、D-ロックスの前身にあたるNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安からラブコールがあったためだ。以後、いわば農家とラグビーの「二毛作」の暮らしを続けている。

 今回も、対ウェスタン・フォース2連戦を最後に一時帰国するのだと言った。

——ニュージーランドの牧場へはいつ出向くのですか。

「明日、行く!(13日のことか) オークランドまで10時間半。(滞在期間は)まだ決まってない。できるだけ早く、戻りたい。

 牧場はいま、忙しい時期だから。いまは(南半球のため)夏。僕の牧場は鹿の角をカットして韓国、中国の漢方薬(を作る)。俺も毎日(摂取している)。だからまだ(ラグビーを)やっている。鹿の角が成長し、カットするシーズンが1月までだから、すごく忙しい。月曜日にニュージーランドに帰ったら、たくさんキャッチアップする仕事がある。

 でも、これ(チームへの滞在期間)は素晴らしい3週間。よかった。(再合流を)楽しみに戻ります」

 ニュージーランドへ戻れば毎朝6時に起き、3人いる子どものために飼った3匹の羊の乳を搾る。鶏が卵を産んでいるかも確かめ、本業である鹿の角を切る仕事に向かう。

 ハードライフに没頭する傍ら、かつてプレーした場所にも視線を送る。

 トンプソンが長らくプレーしてきた日本代表はいま、秋のツアーの只中だ。

 D-ロックスの試合があった日の夜には、ロンドンはトゥイッケナムスタジアムでイングランド代表に13―52で大敗。かつて日本代表を率いたエディー・ジョーンズヘッドコーチが束ねる相手の圧力を前に、組織力を保てなかった。

トライに喜ぶイングランド代表
トライに喜ぶイングランド代表写真:ロイター/アフロ

 もっとも10月31日には、東京・国立競技場でニュージーランド代表(オールブラックス)に31―38と肉薄。相手陣営に複数の若手選手が入っていたのを差し引いても、過去に大差で屈していた大国とのカードを史上最少得失点差で終えたのは確かだ。

国立競技場には約65000人が集まった
国立競技場には約65000人が集まった写真:アフロ

 2023年のワールドカップフランス大会に向け、手応えと課題を整理している。

 ニュージーランド代表戦とイングランド代表戦との間の時期に、トンプソンは日本代表にエールを送った。

——日本代表についてどう思いますか。

「すごいね。オールブラックス戦も、前のフランス代表戦(夏の2連戦=2戦目は10―15と惜敗)も、ワールドカップへの準備としていい経験。(パンデミックの影響で)準備の試合をあまりやっていなかったから、高いレベルアップ(の機会)が欲しい」

——それにしても、ご自身がプレーした日本代表と出身国のオールブラックスが僅差で競っている。どんなフィーリングでご覧になるものですか。

「もちろん、ジャパンが勝ちたい(勝ってほしい)。僕は日本人になった(2010年に国籍取得)。日本代表になった。だから、誰にでも言う。ジャパン、勝ちたい。ふたつ(め)のチームはオールブラックスだけど、ジャパンとオールブラックスがやったらジャパンを応援する」

——では、オールブラックス戦は惜しかったと言えますね。

「そうですね。たぶん、ジャパンも残念。いっぱいチャンスを作った。でも…。マストウィン(だった)。いい試合の次の試合も、同じレベルをキープ(したい)。だから、今日の夜は大事ね」

 かつて愚直にクラッシュし続けた名物OBは、いまなお一線級で戦いながら後輩を応援する。

2015年のワールドカップイングランド大会では、南アフリカ代表に勝利
2015年のワールドカップイングランド大会では、南アフリカ代表に勝利写真:アフロ

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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