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「幸せじゃないから」というだけで離婚できる 英国で50年ぶり制度見直し

木村正人在英国際ジャーナリスト
日本では協議離婚が全体の9割近くを占める(写真:アフロ)

離婚をスピードアップ

[ロンドン発]欧州連合(EU)との「離婚」が難航する英国で離婚の泥沼化を避け、スピードアップを図るための見直しが50年ぶりに進められています。

イングランドとウェールズの現行制度では裁判所で「婚姻の回復しがたい破綻」があったと認められた場合に限り、離婚が認められています(破綻主義)。

(1)不貞(2)同居を著しく困難にする行動(3)2年の遺棄(4)別居(合意がある場合は2年、ない場合は5年)――を離婚の成立条件にしています。

しかし(1)や(2)を裁判所で争うと離婚は非難合戦となり、泥沼化してしまいます。父親と母親が法廷で徹底的に争う姿を見せられた子供は心に大きな傷を負います。

このため英国は、米国と同じように配偶者に明らかな落ち度がなくても最短で申請から6カ月で離婚(無責離婚、無過失離婚)できるよう制度を変更しようとしています。

制度が改正された暁には、片一方の気持ちが離れてしまった場合、相手に明白な非がなくても簡単に離婚できるようになります。

「幸せじゃない」を理由に離婚できるか

きっかけは昨年7月の最高裁判所の判決でした。68歳のティニ・オーエンズさんは40年連れ添い、2人の子供をもうけた夫ヒューさん(80)との離婚を思い立ちました。理由は「幸せじゃない」からです。

ヒューさんは納得がいかず、離婚にも応じませんでした。最高裁は全会一致でティニさんの訴えを退けました。2015年から別居を始めたので、現行制度では離婚が成立するのに20年まで待たなければなりません。

新しい生活を始めることができないティニさんは強いショックを受けました。

最高裁判決に対して、英司法省は「現行の離婚制度はすでに難しい状況に陥っている2人に不必要な敵対を作り出している」と見直しを宣言しました。

離婚したあとも協力して子供を育てる義務を負う2人が法廷でいがみ合っていては嫌悪だけが増し、新しい生活に何のプラスにもなりません。

日本の離婚率は

厚生労働省が昨年12月に発表した人口動態統計によると、日本の婚姻件数は59万組で人口1000人当たりの婚姻率は4.7。一方、離婚件数は20万7000組で人口1000人当たりの離婚率は1.66と推計されています。

シドニーの法律事務所ユニファイド・ロイヤーズによると、1960年、世界の婚姻率は8.01、離婚率は1。それが2017年には婚姻率は4.84まで下がり、離婚率は2.12まで上昇したそうです。

平均婚姻期間は先進7カ国(G7)ではイタリアが最長で18年。カナダ13.8年、フランス13年、米国12.2年。日本は意外と短く英国と同じ11年でした。

世界的に結婚は不人気になり、離婚率は上昇し続けています。女性が経済力をつけ、男性に頼らなくても生きていけるようになったことが大きいのでしょう。

離婚原因は「気持ちが離れてしまった」が最も多く44%、「不貞」が2番目で18%、「飲酒・薬物」が9%、「肉体的・精神的な虐待」が6%だそうです。

主要国の離婚率や離婚原因、要件を各種データやユニファイド・ロイヤーズのサイトから拾ってみると――。

ロシア4.8(婚姻率9.2)

ロシアでは貧困、アルコール・薬物中毒が主な離婚原因になっています。最初の5年で3分の1の婚姻生活が破綻、次の5年で4分の1が終わりを迎えるそうです。

米国3.2(同6.9)

配偶者に不貞や暴力など明白な落ち度がなくても離婚を請求できます。

中国2.8(同9.3)

韓国2.3(同6.4)

カナダ2.1(同4.4)

最低1年、別居しているか、不貞、虐待がある場合に限り、離婚が認められています。離婚原因の68%が金銭の問題です。

ドイツ2(同5)

一昔前まではアルコール中毒や不貞、家庭内暴力が離婚原因でしたが、今では「気持ちが離れた」「意思の疎通が十分でない」ことが多くなっています。

裁判所が「もはや婚姻生活の続行は不可能」と判断すれば離婚できます。合意の上、別居した場合、1年で離婚が認められ、合意のない別居の場合は3年を要します。

フランス1.9(同3.5)

英国1.8(同4.4)

日本1.7(同5)

イタリア1.6(同3.4)

日本の9割近くは協議離婚

日本では裁判離婚しか認めていない英国と違って協議離婚や調停離婚が認められています。

しかし合意がない場合は裁判離婚となり、民法に離婚の成立条件が定められています。(1)不貞(2)悪意の遺棄(3)生死不明(4)回復の見込みがない強度の精神病(5)婚姻を継続し難い重大な事由――。

日本では離婚届を提出するだけで離婚が成立します(協議離婚)。全離婚件数の 9割近くが協議離婚、1割が家庭裁判所による調停離婚です。協議離婚制度は世界的には非常に珍しいそうです。

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少子高齢化で女性の社会参加が進めば、日本の婚姻率はさらに下がり、離婚率は上がる恐れがあります。死亡数が出生数や婚姻件数より多い国の未来は決して明るくありません。

英国のEU離脱も日本の協議離婚制度を導入していれば、もう少しスムーズに進んでいたのかもしれません(これは冗談です)。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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