「蛇口だけの水道、水洗NGのトイレ」金正恩住宅のトンデモ実態
北朝鮮の地方で建設が進められている農村住宅。この住宅に絡んでは様々な問題が起きている。最も典型的な例として、工期に合わせることばかり優先する「速度戦」が招く手抜き工事だ。
それ以外にも、入居者からは住宅の問題に関して様々な不満の声が聞かれると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
両江道(リャンガンド)の情報筋によると、2019年から去年までの間に兵役を終えて地元に戻り結婚したものの、住む家がなく実家やきょうだいの家に住んでいた人々が、できたばかりの住宅に入居した。
決して広くない家での同居からようやく解放され喜んでいるかと思いきや、逆に「農村の実情を無視している」(情報筋)と不満の声が上がっている。
(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設…でもトイレ最悪で死者続出)
農村では、裏庭で作物を栽培したり、家畜を飼ったりするのが普通だ。今回建てられた家は2階または3階建ての集合住宅であるため、そうした土地がないのだ。
「個人の畑や畜産の空間を全く考慮していない典型的なプロパガンダ用住宅だ」(情報筋)
今回建てられた住宅は、平壌都市設計事業所が設計して、金正恩総書記が批准した標準型住宅で、全国的に同じ構造のものが建てられている。畑や家畜を飼う空間がないことに加え、壁の厚さも決められており、両江道の気候に合っていないのも問題だ。
地域によって冬に氷点下36度まで下がる両江道では、住宅の外壁は45センチから50センチというのが一般的だが、今回建てられた住宅の外壁は35センチから40センチしかないというのが、現地の別の情報筋の説明だ。また、外壁がセメントというのも不人気だ。
「セメントで建てられた集合住宅は、保温効果が低く、冬の寒さに耐えられない」(情報筋)
情報筋は断熱材の有無には触れていないが、首都・平壌の特権階級が住む高級マンションを除けば、断熱材が入っていないのが一般的だ。今回建てられた住宅も、雨風をしのげるだけで、断熱のことは全く考慮されていない。
「薪は足りず、壁も薄いので、新築の住宅に入居した人々は、寒さに震える覚悟をしっかりしなければならないだろう」(情報筋)
問題はそれだけではない。
各部屋には水道の蛇口とトイレがあるが、そもそも村には水道管が通っておらず、水源地も整備されていないため、無用の長物だ。結局、近隣を流れる川で水を汲んでくるしかないのだ。水道設備の整っている都会の状況に合わせた住宅であるため、設置しても何の意味のない水道の栓やトイレが設置されてしまっているのだ。
また、畑に撒く堆肥を作るために、毎年「堆肥先頭」で人糞を集めるキャンペーンが行われる。そんな貴重なものをトイレで流してしまうわけにはいかず、結局は村の公衆トイレを使うしかない。排泄物を水に流すことすら、都会に住むごく一部の人にしか許されない特権なのだ。
一方で、平屋の住宅に入居することになった人々は、まだマシだと胸を撫で下ろしている。
こちらはセメントではなく、土でできたレンガで建てられている。耐久性に問題があり、水害などに弱いが、断熱効果には優れている。また、平屋であるため畑や家畜小屋の空間もあり、生活に有利なのだ。
現地の実情を考慮せず問題になることは、今までも繰り返されてきた。例を挙げるとチュチェ(主体)農法だ。
北朝鮮の気候は、地域により3タイプに大別できる。「冬は降水量が少なく寒く、夏は降水量が多くて暑い西海岸」、「冬は相対的に温暖で降水量の多い東海岸」、「年中降水量が少なく、夏は清涼で冬は極寒の北部山間地」――である。地域によりかなり異なっているが、どこでも故金日成主席が命じた通りの農法が強いられる。それが食糧生産に悪影響を及ぼしているが、最高指導者の指示に背けば政治犯扱いされるため、農民は従わざるを得ないのだ。
今回の住宅も、金正恩氏の批准を受けた計画であるため、勝手にカスタマイジングすることはできない。このような硬直した体制が、北朝鮮の発展を妨げているのだ。