平田オリザ氏の「炎上」発言。本意は?
製造業に冷淡?
新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、様々な業界が休業や減収に追い込まれており、業界から国へ支援を求める声は後をたちません。そんな中、NHKのインタビューにおける劇作家平田オリザ氏の次の発言が物議を醸しています。
他者に対する寛容を訴えながら、製造業に対してあまりにも無理解ではないか。これを聞いて製造業の人は寛容になれるか。そういった意見がネットに噴出、取り上げたメディアもあるなど炎上の様相を示しています。このインタビューの前に平田氏が舞台演劇界の窮状を訴えていた時、それなりに同情的だった筆者でも、流石にこれは見過ごせない発言だと思います。
これに対して、発言の本意を誤解されているのではないか、という意見もありました。本意が伝わらずに言葉だけが拡散することは誰にでもありえます。そこで、過去の平田氏の言動を確認することで、平田氏の本意を知る手がかりになるかもしれないと調べてみました。ところが、その結果は平田氏が一貫して舞台演劇以外の産業、特に製造業に冷淡ではないのか? と考えざるを得ない状況になってしまいました。
平田氏の製造業認識
例えば、製造業に対する平田氏の認識が窺える発言に、以下のものがありました。
「製造業の方が失職すると再就職が難しい」「コミュニケーション能力の問題」と言いながら、その理由を世代の教育に求めていますが、それなら全産業にいるその世代に共通する原因になるはずで、なぜ製造業従事者を「コミュニケーション能力の問題」の例として挙げられたのでしょうか。また、この記事では「「私たちコミュニケーション教育の専門家の間では、「中高一貫、男子校、理系」をコミュニケーションの三重苦と呼んでいる」とも発言しており、平田氏は製造業や理系に対してなんらかの偏見を抱いているように見受けられます。
「鉄は国家なり」から「文化は国家」へ
しかしながら、アーティスト一個人が他業界を蔑視していたとしても、それにあまりとやかく言っても個人の自由なので仕方のないことです。ですが、平田氏は劇作家が本業ではあるものの、政治に大きく関わっていた時期があります。鳩山由紀夫政権時の2009年、平田氏は内閣官房参与に就任し、鳩山首相に文化行政や情報発信について助言する立場にありました。政策に影響を与えられる立場に就いていた訳ですが、就任中の読売新聞のインタビューに対し、こう発言しています。
平田氏は製造業から文化産業への政策シフトを訴えていたわけです。もっとも、製造業からサービス産業へのシフトというのは、先進国では一般的な現象であり、鳩山政権以前の自民党政権でもこの手の主張は珍しくありません。
しかし、このインタビューの翌月に出た文化庁の文化審議会文化政策部会の報告において表明された基本理念で、文化芸術の振興を国の政策の根幹に据えて、これまでの政策を抜本的に見直すと前置きし、かなり強い表現の言葉が出ています。
上記のように、かなり強い表現で、製造業から文化へ産業構造を変化させ、文化を「産業のコメ」にせよと主張しています。そして当時は事業仕分けによって、様々な事業にコスト削減・効率重視が求められていたにも関わらず、文化芸術の振興に関しては、それを行ってはならないと特権的地位を要求しています。様々な産業政策に逆風が吹いている中、文化だけは例外としているのです。この点は現在問題になっている平田氏の発言と共通しています。
この文化政策部会の委員に平田氏は入っていませんが、このような強い表現は鳩山首相、そして内閣官房参与である平田氏の意向を汲んだものだと朝日新聞は報じています。
また、この報告は文化振興を謳いながら、不可解な部分が存在します。製造業に代わる新たな「産業のコメ」になろうとしながら、具体的な重点施策の筆頭が、次のように舞台芸術分野になっているのです。
同じ文化産業への施策でも、メディアや映画といった分野の方が巨大であろうにもかかわらず、なぜか平田氏が関与している舞台芸術が筆頭です。また、日本が強力なコンテンツを有するマンガはメディア・映画分野に一括にされて言及もわずかで、日本が有力企業を多数抱え、今やGoogleやAppleといった巨大企業もしのぎを削っているゲーム産業については、報告で一言も言及されていません。
また、その重点施策の内容も舞台芸術以外の分野に関しては、具体性に乏しいことを朝日新聞の記事は指摘しています。このようにこの報告は舞台芸術びいきが強すぎる内容ですが、これはどういうことでしょうか。
寛容が求められるのは誰か
自業界を至上のものと捉えて活動する人は、業界の発展にとって重要な存在であることも事実です。しかし、政策に影響を与える立場にあった人間が、他産業を蔑ろにするような発言を行い、公的な報告書にまでそれを載せさせ、あまつさえ他業種を引き合いに支援を求めるのはいかがなものか。
平田氏が言うように、舞台芸術が危機的状況にあるのは事実でしょう。しかし、現実にはどの産業も苦しいのであって、その中で製造業を引き合いにして舞台芸術への救済を求めるのは筋が悪いでしょう。他業種を引き合いに出して主張すれば、その業種の人から反発を受けるのは当たり前の話ですし、過去に「製造業に自分の業界がとって代わる」と発言しているならば、製造業に携わる人の多くは好感を持つことはないでしょう。コミュニケーション専門家でもあるのにそこに考えが至らないのはどういうことでしょうか。
平田氏は他者に対する寛容を求めていますが、平田氏にもこれまで自身が蔑ろにしてきた人々に対する寛容が必要ではないでしょうか。