安保法制で自衛隊が北朝鮮の潜水艦を沈める日
安全保障関連法案が17日、参議院の特別委員会で自民・公明両党と次世代の党などの賛成多数で可決された。与党側は、18日にも参議院本会議で可決して成立を図る方針。
安倍晋三首相は、新たな安保法制が必要となる根拠のひとつとして北朝鮮の問題を挙げている。
たとえば6月26日の衆議院特別委員会では、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国軍、ロシア軍の動向に言及しつつ、「こうした中におきましては、まさに各国が協力をしていかなければならないわけであります。協力をしていくことによって、法の支配を確かなものとし、紛争を未然に防いでいく、そのための抑止力を確かなものとしていかなければならない」などと述べている。
しかし残念なことに、国会では政府の目指す新たな安保法制がどのように北朝鮮情勢に作用し、どのような理屈で北朝鮮の脅威を抑え込むことになるのかといったような、具体的な議論がほとんど交わされていないように見える。
このままただ漠然と、「集団的自衛権の行使を可能にして米軍との関係を深めれば、北朝鮮も迂闊に手出しできないだろう」と構えるのは、日本にとってむしろ危険だと私は考える。何しろ北朝鮮は、日本と同じく米国と強固な関係にある韓国の海軍艦艇を撃沈してしまうような国なのだ。また、韓国軍は米軍との結びつきを一層強め、北朝鮮に対する通常戦力における優位を確かなものにしているが、危機は減少するどころかむしろ増している。
その理由は、安倍氏の語る「法の支配」、すなわち既存のルールに対して破壊的な挑戦を行うことに、北朝鮮の戦略の基礎があるからだ。
たとえば、核不拡散条約(NPT)は結局、北朝鮮の核開発を抑え込むことができなかった。それどころか、「いつでも米国にぶち込んでやるぞ」と、耳を疑うようなことを平気で言っているくらいだ。
日本も気をつけなければ、北朝鮮によって安保法制をむしろ“ねらい撃ち”され、戦争の危機に引きずり込まれることになりかねない。
その最初のターゲットになるのは、海上自衛隊になる可能性が高いように思える。これは、海自の艦艇が北朝鮮に沈められるという意味ではない。むしろその逆の構図が生まれることを心配しているのだ。なぜなら安保法制が成立することで、海自が北朝鮮の潜水艦に先制攻撃をしかけるべき状況が発生しかねないからだ。
東アジアから北朝鮮の軍事的脅威を取り除くことは、あの国の民主化なくしては不可能だ。
いまからでも遅くはない。日本の政治はもっと広い視野を持って、新たな安保戦略を考えるべきだ。