Yahoo!ニュース

「高齢者にイチロー体操を」定年後、ガンを乗り越えたイチローファンが抱く夢とは?#dearICHIRO

山崎エマドキュメンタリー監督

〜イチローファン物語 第9弾〜

「イチローさん 45歳までやりましたけど、怪我しないんですね。怪我しない体を作ることが大事」。熱狂的なイチローファンである村本健二さん(68歳)は、ボランティアで子供たちにレスリングの指導をしている。イチローさんを例に話をすると、子供たちも、その保護者も前のめりになって聞くという。

「命が全部イチローさん」。仲間からそう知られている村本さんの自宅にはイチロー部屋がある。イチロー関連のグッズがズラリ。グッズを集める理由として、自身のアスリート人生を振り返る。学生時代からレスリングの選手としてそこそこの成績を残すも、頂点は極められなかった。「ナンバーワンになれないんだったらオンリーワンになるぞ っていうのが、集めだしたきっかけかもしれない」。

「自分の場合、スポーツでしか社会に貢献できないと思ってる」。そう語る村本さんは、公務員として、市民スポーツの普及に取り組んだ。「自分たちが年寄りになった時には必ず高齢化社会になる。だからその時の(ために)勉強をさせてほしい」と年配の方々と接し、総合体育館やスポーツセンターでの活動に力を注った。

その傍ら、公務員としての他の業務は苦手で、憂鬱な日々を過ごすことも。そこで勇気をもらったのがメジャーに挑戦したイチローだという。「イチローさんの試合は午前11時から。(心が)重いな、と思った時にまた打った、また打ったって。そうすると元気になっていく」。気づけばシアトルをはじめ、全米に通ってイチローの応援をしていた。サインをもらった時には、「もう死んでもいい」と思ったそうだ。

イチローグッズやイチロー応援旅行の影響で「貯金がどんどんなくなっていった」と苦笑いする奥様。でも「病気をしなかっただけ(イチロー)にかけられたことは、それでOKかな」と暖かい理解を示していた。

だが、そんな元気な村本さんに今年、ガンが見つかった。人生初の手術を経験し、レスリングからも離れることに。イチローの引退のタイミングで見つかった病気。「これが、イチローロスだったのかな」とポツリ。

夏には、「どうしても孫を連れてシアトルに行きたい」と医者の許可をもらい渡米。前よりも古く見えた球場を前に、涙を流したという。気づけば、イチローがメジャーにきてから19年間も経っていた。自分も19年も歳をとっていたことを、初めて感じた。「19年間 歳とるっていうことをイチローさんは忘れさせてくれてたんです」

秋。ガンを克服した村本さんは新たな夢を抱いていた。それは、「高齢者のためのイチロー体操」。イチローが試合前や打席前に儀式のように行ってきたストレッチには、「いつまでも現役」でいられるためのヒントが多く隠されているという。スポーツを通しての社会貢献に徹し、高齢者の運動のあり方を研究してきた村本さんだからこそ、このタイミングで思いつく夢なのだろう。

「イチローさんへの思いを、普段そんなに喋れるわけじゃないから、神様だけには強い思いを…」と、通い続けたある神社を参拝する村本さん。その彼の姿を見て、この「イチローファン物語」シリーズを通して、村本さんのようなイチローファンの秘めた思いを発信する意味を、改めて感じた。
 
私たちファンは、イチローの行動や言葉に自分たちの「思い込み」を上乗せし、それぞれの土俵で生かしてきた。それは、イチロー本人が知るはずもない、大きな社会貢献。野球の世界を飛び越えて、あらゆる業界で、そして日本各地で広がってきた現象だと思う。

イチローさんありがとう!結局は毎回、その言葉を伝えたい。
イチローファン物語、次回に続きます。

クレジット

監督・編集 山崎エマ
プロデューサー エリック・ニアリ
オンライン 佐藤文郎

協力 フィギュアフォークラブ MLB Cafe TOKYO

制作 シネリック・クリエイティブ

ドキュメンタリー監督

日本人の母とイギリス人の父を持つ。19才で渡米しニューヨーク大学卒業後、エディターとしてキャリアを開始。長編初監督作品『モンキービジネス:おさるのジョージ著者の大冒険』ではクラウドファンディングで2000万円を集め、2017年に世界配給。夏の甲子園100回大会を迎えた高校野球を社会の縮図として捉えた『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』は、2020年米スポーツチャンネルESPNで放送し、日本でも劇場公開。最新作『小学校〜それは小さな社会〜』では都内の小学校の一年に密着。その他、NHKと多くの番組も制作。日本人の心を持ちながら外国人の視点が理解できる立場を活かす制作を心がけている。

山崎エマの最近の記事