【暴走族を叩きつけた特撮ヒーローって誰?】人間でも容赦しない!日本特撮ヒーローの光と影の戦いとは?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
早いもので1月も半ばですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回のテーマは「ニセモノ」です。物であれば名称やメーカーを偽り、本物のように売買され、人であれば名前や身分を偽り、さも本人のように暗躍するという・・・あの手この手で人々を騙す、ネガティブなイメージが強い「ニセモノ」。広辞苑によれば「似せてつくったもの。偽造品」と定義されています。
助けを求める人の心につけ込んで、身分を偽って利益を享受しようとする許し難い不届き者も現れるこの世の中・・・社会通念上、到底容認できる行為ではありませんが、正直者を翻弄しようとする道化のような詐欺師達は普遍的に存在するもの。
そんな「ニセモノ」達は私たちが生きる現実の世界だけでなく、フィクションの世界にも存在していました。特にウルトラマンや仮面ライダーシリーズ等、我が国が誇る国民的特撮ヒーロー番組の世界では、子ども達の憧れるヒーローになりすまし、悪事を働く者達も多数登場していたのです。
しかし、この特撮ヒーロー番組に登場したニセモノ達。どうも人を騙すだけことが目的ではないようで、ある者は復讐のためにヒーローの姿を借り、またある者は本物と戦いたいがためにヒーローの姿をしていた者もいたようです。
そこで今回は、日本の数ある特撮ヒーロー番組の中から、約50年に渡り長期的に派生作品が制作され続けてきたウルトラマンシリーズ、スーパー戦隊シリーズの2シリーズに登場した「ニセモノ」達に焦点を当てたいと思います。
※本記事は「私、ヒーローものにくわしくないわ」という皆様にも気軽に読んで頂けますよう、概要的にお話をして参ります。お好きなものを片手に、ゆっくり本記事をお楽しみ頂けますと幸いです。
また本記事における各原作者の表記ですが、敬意を表し「先生」という呼称で統一をしております。本記事を通じてはじめてアニメ・特撮ヒーロー番組に触れる方もいらっしゃいますので、ご配慮を頂けますと幸いです。
【暴走族をぶん投げた?!】少年の祈りを聞いたウルトラセブンが、怒りと憎しみの邪悪の巨人となった珍事件とは?
さて、最初にウルトラマンシリーズに登場したニセモノ達についてお話をしたいと思いますが、本題に入る前に少しだけウルトラマンシリーズについて解説をさせてください。
ウルトラマンシリーズは、株式会社円谷プロダクション制作の特撮ヒーロー番組『ウルトラマン(1966)』及び、特撮怪獣番組『ウルトラQ(1966)』を起点とするシリーズです。
1966年に『ウルトラマン』が放送され、身長40mの銀色の巨人が巨大な怪獣と戦い、最後は必殺光線(スペシウム光線)で怪獣を退治するという物語はたちまち子ども達の心を掴み、最高視聴率42.8%、平均視聴率36.8%を記録する大人気番組となりました。
大衆的な人気を博した『ウルトラマン(1966)』の放映終了後も、その次回作である『ウルトラセブン(1967)』、以降も『ウルトラマンタロウ(1973)』、『ウルトラマンティガ(1996)』、『ウルトラマンコスモス(2001)』とシリーズが続いていき、現在は『ウルトラマンブレーザー(2023)』が放送中です。
そんな約60年に渡る長いウルトラマンシリーズの歴史の中で、幾度もウルトラマン達に戦いを挑んできたのは、彼らの姿を模したニセモノ・・・即ちニセウルトラマン達でした。
最初の『ウルトラマン(1966)』にて、ウルトラマンと人間の間に構築された信頼関係を破壊するために宇宙人が化けた「ニセウルトラマン」が登場したのを皮切りに、以降のウルトラマンシリーズでも次々にニセウルトラマン達が登場していくようになります。
宇宙人がウルトラマンの姿と能力を分析して模造したロボットや、人間だけでなくウルトラマン同士でさえも仲違いさせるために宇宙人が変身した者等、そのバリエーションは様々。さらに厄介だったのは、彼らは相手を「騙す」だけでなく、ヒーローの姿を借りることで、本物のウルトラマン達を挑発する行為にも及ぶなど、心理戦にも長けていたのがニセウルトラマン達の特徴でした。
そんな数あるニセウルトラマン達の中で、とりわけ異彩を放っていた存在が一人いました。彼の名は「妄想ウルトラセブン」。
「見た目、セブンと何ら変わんないし、そもそも妄想ってどういうことよ?」
そうお感じの方も多いかと思います。私も「妄想」なんて言葉さえ知らない幼少期に彼の姿を初めて見たとき、ウルトラセブンその人の姿で町を破壊する、逃げ惑う人を追い回す衝撃映像にかなり困惑した記憶がありますが・・・。
この妄想セブン、その正体は暴走族にはねられたサッカー少年の怨念が生み出した存在でした。自分をはねた暴走族に対する恨みや憎しみが、少年がお守りにしていたウルトラセブンの人形に宿って巨大化してしまったのです(怨念の力って凄い・・・!)。
素体が人形であるが故に、ウルトラセブンそっくりな彼。しかし、暴れる彼を止めたのもやはりウルトラマンでした。荒ぶるウルトラセブンとウルトラマンとの戦いを少しだけ覗いてみましょう。
妄想ウルトラセブンが登場したのは、ウルトラマンシリーズ第9作『ウルトラマン80(1980)』(本作第44話「激ファイト!80VSウルトラセブン」)。
本作の主人公であるウルトラマン80(エイティ)は、ウルトラセブンやウルトラマンタロウ等、歴代ウルトラマン達の後を継いで地球を守る新たなウルトラマン。ウルトラマンとして活躍する傍ら、特捜チームUGMの隊員という地球を守る職務に就き、さらに中学校の教師としても働くという、三足のわらじを履いたヒーローでもありました。
彼が戦うのは、人間の心の中にある醜い心や汚れた気持ち(マイナスエネルギー)が生み出す怪獣達。中学校教師でもある80は、単に怪獣を倒すだけでなく、怪獣を生み出してしまった少年達の心にも寄り添い、教え導いていくことにも心を燃やしていました。
まさかそんな彼が、あのウルトラセブンと一戦を交えることになろうとは、彼は知るよしもなかったことでしょう。ウルトラマン80が妄想ウルトラセブンと戦うことになった経緯とは・・・。
ある日、暴走族(サターン党)にはねられた直人少年は重傷を負ってしまいます。即病院へ運ばれ、入院している直人少年の容体は悪化。暴走族に襲われ、自分が大好きなウルトラセブンになって暴走族に復讐する夢をみていた直人少年は、無意識の中で祈ります。
「ウルトラセブン。聞いて!お願い!僕の命をあげるよ。だから、悪い暴走族をやっつけて!」(直人少年)
すると直人少年の祈りに応えるかのように、枕元にあったセブンの人形が病院を抜け出し、町中で巨大化します。セブンは直人少年をはねた暴走族の前に現れます。
「ァァァァァァァァァァァァァァ・・・・!!」(妄想ウルトラセブン)
暴走族を目の前にしたセブンは暴走。町を躊躇なく破壊し、車を踏みつけながら、逃げる暴走族を目指して歩を進めます。さらに逃げる暴走族の一人を捕まえ、バイクごと地面に叩きつけるという行為にも出ます。
仲間をひとり、またひとりと失いながらも、執拗に追いかけてくるセブンに暴走族も恐怖します。正義を成すべきウルトラセブンが、今や躊躇なく自分達を本気で殺しにかかっているのですから・・・子どもを悪戯にはねた報いとはいえ当然です。
「許してくれよぉ、許してくれよぉ、勘弁してくれよぉ!」(暴走族)
平和の使者であるはずのウルトラセブンが町を破壊して進撃する・・・。これには人々も動揺を隠せません。地球を守る特捜チームであるUGMも、信じてきたウルトラセブンが街を破壊する惨状に呆然とします。
「あぁぁぁ・・・本当だ、ウルトラセブンが暴れてる。(中略)セブン!お願いだ!もう暴れるのやめてくれ!あなたは正義の味方でしょう!」(UGM隊員)
たとえ相手がセブンでも、同じウルトラマンとしてこれ以上の破壊を許すわけにはいかない。ウルトラマン80がセブンの前に登場します。復讐を邪魔するものは許さないとばかりに、80にさえ襲いかかってくるセブン。しかし、80は本物のセブンにはない「ある特徴」を見抜いていました。
それは、セブンが自動車をまるでサッカーボールのように蹴り上げて80に当てようとする戦法をとってきたことでした。そのキックフォームが、事件の根底である暴走族によって入院中の直人少年と酷似していたこと、さらにUGM隊員が直人少年の枕元にあるはずのセブンの人形がなくなっていることを80に伝えたことで、暴れていたセブンは本物ではなく、セブンの人形に直人少年の生き霊が宿った存在であることが発覚します。
「80。なぜ邪魔をするんだぁ・・・僕は、僕のセブンと一緒に、悪い奴らをやっつけているのに。80は正義の味方じゃないかぁ・・・」(直人少年)
そこで80は、セブン(直人少年)の説得にかかります。
「直人くん。君は君以外の、ウルトラセブンを慕う少年達の心を傷つけるつもりか?ウルトラセブンは、平和の守り神ではないのか?」(ウルトラマン80)
これを聞いたセブンが動揺したのを契機に、80はセブンを鎮める光線を発射します。セブンは倒れ、病室の直人少年も安らかに眠ります。
命からがら生き残った暴走族も反省し・・・UGMの隊員に泣きつきます。
「ごめんなさい。もう悪いことはしません!怖かった。怖かった。オートバイも辞めます!辞めます!足洗います!勘弁してください!」(暴走族)
80は魂の抜けたセブンの巨体を抱え、空へと飛び去ります。
80のつらい戦いはこうして幕を閉じたのでした。
後日、矢的猛(ウルトラマン80)が観戦したのは、元気になってサッカーの試合で活躍する直人少年の姿だったのでしたー。
【仲間割れさえしなければ本物に勝てた?】悪のスーパー戦隊ここにあり!邪電戦隊ネジレンジャーとは何者か?
ここまで先述してきたように、ウルトラマンシリーズではたくさんのニセウルトラマン達が登場しました。
・・・しかし、それは他の特撮ヒーロー番組でも同様で、東映制作の特撮ヒーロー番組である「スーパー戦隊シリーズ」でも、ニセモノのヒーロー達が多数登場しました。その中でも究極ともいえる存在であったのが、邪電戦隊ネジレンジャー。
彼らの話に入る前に、まず少しだけスーパー戦隊シリーズについてご紹介させてください。
スーパー戦隊シリーズは、漫画家・石ノ森章太郎先生と八手三郎先生が原作の、カラフルなコスチュームを纏った5人のチームヒーローを主人公にした、東映製作の特撮ヒーロー番組のことです。1975年に第1作『秘密戦隊ゴレンジャー』が放送されて以降、『太陽戦隊サンバルカン(1981)』、『電磁戦隊メガレンジャー(1997)』、『忍風戦隊ハリケンジャー(2002)』、『海賊戦隊ゴーカイジャー(2011)』等、シリーズが継続され、現在放送中の『王様戦隊キングオージャー(2023)』まで全47作品が製作されました。
また、2024年にはシリーズ第48作『爆上戦隊ブンブンジャー』が放送開始予定です。
そんな長いスーパー戦隊シリーズの歴史の中で、本記事の主人公である邪電戦隊ネジレンジャーが登場したのは、シリーズ第21作『電磁戦隊メガレンジャー(1997)』でした。
本作は5人の高校生で構成される電磁戦隊メガレンジャーが、悪の組織・邪電王国ネジレジアから地球を守る物語。毎週メガレンジャーがネジレジアの送り込む怪人をやっつける展開が毎週放送されるわけですが、度重なる失敗に業を煮やしたネジレジアは、打倒メガレンジャーのために、彼らもメガレンジャーのような悪の戦隊をつくり出します。
その悪の戦隊こそ、邪電戦隊ネジレンジャーでした。
このネジレンジャー、メガレンジャーに対抗するために悪の司令官が製造したものでした。故にメガレンジャーに倣い、赤(ネジレッド)、黒(ネジブラック)、青(ネジブルー)、黄(ネジイエロー)、桃(ネジピンク)の5人で構成されています。さらにチームを結成している傍ら、ひとりひとりが怪人であり、変身を解き正体を現わしてもメガレンジャー5人と十分戦えるという強い集団でした。彼らの初登場時は、敵対するメガレンジャーそっくりの姿で現れ、その後はネジレンジャーの姿となって本物を追い詰めていきます。
戦力に関しては本物を圧倒する力量で全く申し分ないのですが、彼らに大きく欠けていたのは「チームワーク」でした。互いを思いやる団結した友情が大きな強さであったメガレンジャーに対し、とにかくメンバー同士の仲が悪かったのです。
・・・というのも、ネジレンジャーは「自分と同じ色のメガレンジャーを倒す」という習性が個々にプログラムされており、この習性に基づいて動いているために、お互い協力する意思は皆無。互いの戦闘を妨害するなど、メンバー同士で足の引っ張り合いをすることさえありました。
その結果ネジレンジャーは、メガレンジャーにこの習性を察知されてひとり、またひとりと次々に倒されていき、最終的には本物であるメガレンジャー達が勝利します。
メガレンジャーに倣い、団結していればもしかしたら本物に勝てたかもしれない彼らですが、そんな彼らも母組織であるネジレジアにとっては捨て駒でした。冷酷な司令官に最後まで利用された挙げ句、ライバル視していたメガレンジャー達に倒されてしまうという展開も、どこか切なさを感じるものでしたー。
・・・そんなネジレンジャーですが、日本での『電磁戦隊メガレンジャー(1997)』の放送終了後、活躍の場を米国へと移します。『メガレンジャー』は日本での放送終了後、『パワーレンジャー・イン・スペース(Power Rangrs In Space)』と題してアメリカでも放送され、自らを「サイコレンジャー(Psycho Rangers)」と名乗り、番組を視聴する米国の子ども達に強烈なインパクトを与えることになります。
とにかく自分たちはメガレンジャーよりも速いだ強いだ賢いだで、米国版でも相変わらずメガレンジャーをライバル視していましたが、日本版に倣い、最終的にメガレンジャーに倒されます。しかし彼らの活躍は本作だけに留まらず、次回作への登場や、彼らを主人公にしたスピンオフコミックの刊行等、日本では見られなかった彼らの次なる展開も現在まで行われ続けています。
このように邪悪なニセモノ戦隊であり、捨て駒でもあった悲しき宿命を背負っていたネジレンジャーですが、唯一無二の悪の戦隊として米国のファンの間で認知されてきました。悪の道を歩んできた彼らは、異国の地で今後どのような活躍を見せていくのか期待です。
いかがでしたか?
今回は「ニセモノ」をテーマに、日本の特撮ヒーロー番組に登場したニセモノ達に焦点を当ててきました。今回ご紹介したニセモノ達以外にも、ウルトラマンシリーズやスーパー戦隊シリーズには魅力的なニセモノ達が数多く登場していますので、宜しければチェックしてみてくださいね。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
・菅家洋也、「講談社シリーズMOOK スーパー戦隊シリーズMOOK スーパー戦隊 Official Mook 20世紀 1997 電磁戦隊メガレンジャー」、株式会社講談社