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【暴走族を叩きつけた特撮ヒーローって誰?】人間でも容赦しない!日本特撮ヒーローの光と影の戦いとは?

二重作昌満博士(文学)/PhD(literature)

みなさま、こんにちは!

文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。

早いもので1月も半ばですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

さて、今回のテーマは「ニセモノ」です。物であれば名称やメーカーを偽り、本物のように売買され、人であれば名前や身分を偽り、さも本人のように暗躍するという・・・あの手この手で人々を騙す、ネガティブなイメージが強い「ニセモノ」。広辞苑によれば「似せてつくったもの。偽造品」と定義されています。

助けを求める人の心につけ込んで、身分を偽って利益を享受しようとする許し難い不届き者も現れるこの世の中・・・社会通念上、到底容認できる行為ではありませんが、正直者を翻弄しようとする道化のような詐欺師達は普遍的に存在するもの。

そんな「ニセモノ」達は私たちが生きる現実の世界だけでなく、フィクションの世界にも存在していました。特にウルトラマンや仮面ライダーシリーズ等、我が国が誇る国民的特撮ヒーロー番組の世界では、子ども達の憧れるヒーローになりすまし、悪事を働く者達も多数登場していたのです。

東映作品『仮面ライダー(1971)』には、主人公の仮面ライダー1号・2号に対抗し、彼らと戦う悪の秘密結社ショッカーは6人のにせ仮面ライダー(ショッカーライダー)を送り込んだ(筆者撮影)。
東映作品『仮面ライダー(1971)』には、主人公の仮面ライダー1号・2号に対抗し、彼らと戦う悪の秘密結社ショッカーは6人のにせ仮面ライダー(ショッカーライダー)を送り込んだ(筆者撮影)。

円谷プロ作品『ジャンボーグA(1973)』では、主人公のジャンボーグエース(右)に酷似したにせジャンボーグエース(左)が登場した。本物は剣術を得意とするのに対し、ニセモノはムチを使用(筆者撮影)。
円谷プロ作品『ジャンボーグA(1973)』では、主人公のジャンボーグエース(右)に酷似したにせジャンボーグエース(左)が登場した。本物は剣術を得意とするのに対し、ニセモノはムチを使用(筆者撮影)。

しかし、この特撮ヒーロー番組に登場したニセモノ達。どうも人を騙すだけことが目的ではないようで、ある者は復讐のためにヒーローの姿を借り、またある者は本物と戦いたいがためにヒーローの姿をしていた者もいたようです。

そこで今回は、日本の数ある特撮ヒーロー番組の中から、約50年に渡り長期的に派生作品が制作され続けてきたウルトラマンシリーズ、スーパー戦隊シリーズの2シリーズに登場した「ニセモノ」達に焦点を当てたいと思います。

※本記事は「私、ヒーローものにくわしくないわ」という皆様にも気軽に読んで頂けますよう、概要的にお話をして参ります。お好きなものを片手に、ゆっくり本記事をお楽しみ頂けますと幸いです。
また本記事における各原作者の表記ですが、敬意を表し「先生」という呼称で統一をしております。本記事を通じてはじめてアニメ・特撮ヒーロー番組に触れる方もいらっしゃいますので、ご配慮を頂けますと幸いです。

【暴走族をぶん投げた?!】少年の祈りを聞いたウルトラセブンが、怒りと憎しみの邪悪の巨人となった珍事件とは?

さて、最初にウルトラマンシリーズに登場したニセモノ達についてお話をしたいと思いますが、本題に入る前に少しだけウルトラマンシリーズについて解説をさせてください。

『ウルトラマン(1966)』に登場した初代ウルトラマン。陸海空から現れる怪獣達を相手にウルトラマンは戦い、最後は必殺光線・スペシウム光線で退治する。しかし時には罪のない怪獣をいたわる優しさもみせた。
『ウルトラマン(1966)』に登場した初代ウルトラマン。陸海空から現れる怪獣達を相手にウルトラマンは戦い、最後は必殺光線・スペシウム光線で退治する。しかし時には罪のない怪獣をいたわる優しさもみせた。

ウルトラマンシリーズは、株式会社円谷プロダクション制作の特撮ヒーロー番組『ウルトラマン(1966)』及び、特撮怪獣番組『ウルトラQ(1966)』を起点とするシリーズです。

1966年に『ウルトラマン』が放送され、身長40mの銀色の巨人が巨大な怪獣と戦い、最後は必殺光線(スペシウム光線)で怪獣を退治するという物語はたちまち子ども達の心を掴み、最高視聴率42.8%、平均視聴率36.8%を記録する大人気番組となりました。

『ウルトラマン(1966)』放送終了後、『ウルトラセブン(1967)』(写真中央左)をはじめとする派生作品が次々に放送され、『ウルトラマンタロウ(1973)』まで6人のウルトラマンが登場した。
『ウルトラマン(1966)』放送終了後、『ウルトラセブン(1967)』(写真中央左)をはじめとする派生作品が次々に放送され、『ウルトラマンタロウ(1973)』まで6人のウルトラマンが登場した。

大衆的な人気を博した『ウルトラマン(1966)』の放映終了後も、その次回作である『ウルトラセブン(1967)』、以降も『ウルトラマンタロウ(1973)』、『ウルトラマンティガ(1996)』、『ウルトラマンコスモス(2001)』とシリーズが続いていき、現在は『ウルトラマンブレーザー(2023)』が放送中です。

現在放送中の『ウルトラマンブレーザー(2023)』。従来のウルトラマン達とは異なり、野性味溢れる戦い方が特徴的。必殺光線を放たず、槍術や剣術で怪獣にとどめを刺す。地球語は話せない(筆者撮影)。
現在放送中の『ウルトラマンブレーザー(2023)』。従来のウルトラマン達とは異なり、野性味溢れる戦い方が特徴的。必殺光線を放たず、槍術や剣術で怪獣にとどめを刺す。地球語は話せない(筆者撮影)。

そんな約60年に渡る長いウルトラマンシリーズの歴史の中で、幾度もウルトラマン達に戦いを挑んできたのは、彼らの姿を模したニセモノ・・・即ちニセウルトラマン達でした。

最初の『ウルトラマン(1966)』にて、ウルトラマンと人間の間に構築された信頼関係を破壊するために宇宙人が化けた「ニセウルトラマン」が登場したのを皮切りに、以降のウルトラマンシリーズでも次々にニセウルトラマン達が登場していくようになります。

『ウルトラマン(1966)』第18話にて初登場したニセウルトラヒーローの元祖・ニセウルトラマン。凶悪宇宙人ザラブ星人が変身したニセモノで、地球人とウルトラマンの信頼関係を崩そうとした。
『ウルトラマン(1966)』第18話にて初登場したニセウルトラヒーローの元祖・ニセウルトラマン。凶悪宇宙人ザラブ星人が変身したニセモノで、地球人とウルトラマンの信頼関係を崩そうとした。

写真のニセウルトラセブン(左)とエースロボット(右)は、共に地球を狙う侵略者が製造したニセモノ。エースロボットは、新怪獣の力をテストするために創作されたロボットであり、登場約1分であっけなく倒された。
写真のニセウルトラセブン(左)とエースロボット(右)は、共に地球を狙う侵略者が製造したニセモノ。エースロボットは、新怪獣の力をテストするために創作されたロボットであり、登場約1分であっけなく倒された。

宇宙人がウルトラマンの姿と能力を分析して模造したロボットや、人間だけでなくウルトラマン同士でさえも仲違いさせるために宇宙人が変身した者等、そのバリエーションは様々。さらに厄介だったのは、彼らは相手を「騙す」だけでなく、ヒーローの姿を借りることで、本物のウルトラマン達を挑発する行為にも及ぶなど、心理戦にも長けていたのがニセウルトラマン達の特徴でした。

元号が平成に変わると、赤いウルトラマンに対し黒いニセモノヒーロー達が次々と暗躍するようになる。ウルトラマンシャドー(左)は本物を一度は倒す強力な戦力に留まらず、戦意喪失にまで追い込んだ。
元号が平成に変わると、赤いウルトラマンに対し黒いニセモノヒーロー達が次々と暗躍するようになる。ウルトラマンシャドー(左)は本物を一度は倒す強力な戦力に留まらず、戦意喪失にまで追い込んだ。

そんな数あるニセウルトラマン達の中で、とりわけ異彩を放っていた存在が一人いました。彼の名は「妄想ウルトラセブン」。

「見た目、セブンと何ら変わんないし、そもそも妄想ってどういうことよ?」

そうお感じの方も多いかと思います。私も「妄想」なんて言葉さえ知らない幼少期に彼の姿を初めて見たとき、ウルトラセブンその人の姿で町を破壊する、逃げ惑う人を追い回す衝撃映像にかなり困惑した記憶がありますが・・・。

この妄想セブン、その正体は暴走族にはねられたサッカー少年の怨念が生み出した存在でした。自分をはねた暴走族に対する恨みや憎しみが、少年がお守りにしていたウルトラセブンの人形に宿って巨大化してしまったのです(怨念の力って凄い・・・!)。

妄想ウルトラセブンはウルトラセブンの人形に、サッカー少年の怨念が宿り巨大化したもの。古来より人形は「人を呪い殺す」道具としても用いられてきたようだが、ウルトラマン人形も例外ではなかったようだ。
妄想ウルトラセブンはウルトラセブンの人形に、サッカー少年の怨念が宿り巨大化したもの。古来より人形は「人を呪い殺す」道具としても用いられてきたようだが、ウルトラマン人形も例外ではなかったようだ。

素体が人形であるが故に、ウルトラセブンそっくりな彼。しかし、暴れる彼を止めたのもやはりウルトラマンでした。荒ぶるウルトラセブンとウルトラマンとの戦いを少しだけ覗いてみましょう。

妄想ウルトラセブンが登場したのは、ウルトラマンシリーズ第9作『ウルトラマン80(1980)』(本作第44話「激ファイト!80VSウルトラセブン」)。

『ウルトラマン80(1980)』の主人公・ウルトラマン80。歴代ウルトラマンにとって名誉ある称号である「ウルトラ兄弟」の候補生として地球にやって来た。なんと全50話、無敗のウルトラマンでもある。
『ウルトラマン80(1980)』の主人公・ウルトラマン80。歴代ウルトラマンにとって名誉ある称号である「ウルトラ兄弟」の候補生として地球にやって来た。なんと全50話、無敗のウルトラマンでもある。

本作の主人公であるウルトラマン80(エイティ)は、ウルトラセブンやウルトラマンタロウ等、歴代ウルトラマン達の後を継いで地球を守る新たなウルトラマン。ウルトラマンとして活躍する傍ら、特捜チームUGMの隊員という地球を守る職務に就き、さらに中学校の教師としても働くという、三足のわらじを履いたヒーローでもありました。

2010年にバンダイビジュアルより発売された『ウルトラマン80 DVD30周年 メモリアルBOX』全2巻。本作は全50話が放送された(筆者撮影)。
2010年にバンダイビジュアルより発売された『ウルトラマン80 DVD30周年 メモリアルBOX』全2巻。本作は全50話が放送された(筆者撮影)。

彼が戦うのは、人間の心の中にある醜い心や汚れた気持ち(マイナスエネルギー)が生み出す怪獣達。中学校教師でもある80は、単に怪獣を倒すだけでなく、怪獣を生み出してしまった少年達の心にも寄り添い、教え導いていくことにも心を燃やしていました。

ウルトラマン80にとって、ウルトラセブンはよく知る大先輩。ニセモノとはいえ、本人そっくりかつ邪悪な奇声を上げる存在を相手に、さぞかし戦いにくかったに違いない(筆者撮影)。
ウルトラマン80にとって、ウルトラセブンはよく知る大先輩。ニセモノとはいえ、本人そっくりかつ邪悪な奇声を上げる存在を相手に、さぞかし戦いにくかったに違いない(筆者撮影)。

まさかそんな彼が、あのウルトラセブンと一戦を交えることになろうとは、彼は知るよしもなかったことでしょう。ウルトラマン80が妄想ウルトラセブンと戦うことになった経緯とは・・・。

ある日、暴走族(サターン党)にはねられた直人少年は重傷を負ってしまいます。即病院へ運ばれ、入院している直人少年の容体は悪化。暴走族に襲われ、自分が大好きなウルトラセブンになって暴走族に復讐する夢をみていた直人少年は、無意識の中で祈ります。

「ウルトラセブン。聞いて!お願い!僕の命をあげるよ。だから、悪い暴走族をやっつけて!」(直人少年)

すると直人少年の祈りに応えるかのように、枕元にあったセブンの人形が病院を抜け出し、町中で巨大化します。セブンは直人少年をはねた暴走族の前に現れます。

「ァァァァァァァァァァァァァァ・・・・!!」(妄想ウルトラセブン)

暴走族を目の前にしたセブンは暴走。町を躊躇なく破壊し、車を踏みつけながら、逃げる暴走族を目指して歩を進めます。さらに逃げる暴走族の一人を捕まえ、バイクごと地面に叩きつけるという行為にも出ます。

仲間をひとり、またひとりと失いながらも、執拗に追いかけてくるセブンに暴走族も恐怖します。正義を成すべきウルトラセブンが、今や躊躇なく自分達を本気で殺しにかかっているのですから・・・子どもを悪戯にはねた報いとはいえ当然です。

「許してくれよぉ、許してくれよぉ、勘弁してくれよぉ!」(暴走族)

平和の使者であるはずのウルトラセブンが町を破壊して進撃する・・・。これには人々も動揺を隠せません。地球を守る特捜チームであるUGMも、信じてきたウルトラセブンが街を破壊する惨状に呆然とします。

「あぁぁぁ・・・本当だ、ウルトラセブンが暴れてる。(中略)セブン!お願いだ!もう暴れるのやめてくれ!あなたは正義の味方でしょう!」(UGM隊員)

たとえ相手がセブンでも、同じウルトラマンとしてこれ以上の破壊を許すわけにはいかない。ウルトラマン80がセブンの前に登場します。復讐を邪魔するものは許さないとばかりに、80にさえ襲いかかってくるセブン。しかし、80は本物のセブンにはない「ある特徴」を見抜いていました。

それは、セブンが自動車をまるでサッカーボールのように蹴り上げて80に当てようとする戦法をとってきたことでした。そのキックフォームが、事件の根底である暴走族によって入院中の直人少年と酷似していたこと、さらにUGM隊員が直人少年の枕元にあるはずのセブンの人形がなくなっていることを80に伝えたことで、暴れていたセブンは本物ではなく、セブンの人形に直人少年の生き霊が宿った存在であることが発覚します。

「80。なぜ邪魔をするんだぁ・・・僕は、僕のセブンと一緒に、悪い奴らをやっつけているのに。80は正義の味方じゃないかぁ・・・」(直人少年)

そこで80は、セブン(直人少年)の説得にかかります。

「直人くん。君は君以外の、ウルトラセブンを慕う少年達の心を傷つけるつもりか?ウルトラセブンは、平和の守り神ではないのか?」(ウルトラマン80)

これを聞いたセブンが動揺したのを契機に、80はセブンを鎮める光線を発射します。セブンは倒れ、病室の直人少年も安らかに眠ります。

命からがら生き残った暴走族も反省し・・・UGMの隊員に泣きつきます。

「ごめんなさい。もう悪いことはしません!怖かった。怖かった。オートバイも辞めます!辞めます!足洗います!勘弁してください!」(暴走族)

80は魂の抜けたセブンの巨体を抱え、空へと飛び去ります。

80のつらい戦いはこうして幕を閉じたのでした。

後日、矢的猛(ウルトラマン80)が観戦したのは、元気になってサッカーの試合で活躍する直人少年の姿だったのでしたー。

【仲間割れさえしなければ本物に勝てた?】悪のスーパー戦隊ここにあり!邪電戦隊ネジレンジャーとは何者か?

ここまで先述してきたように、ウルトラマンシリーズではたくさんのニセウルトラマン達が登場しました。

・・・しかし、それは他の特撮ヒーロー番組でも同様で、東映制作の特撮ヒーロー番組である「スーパー戦隊シリーズ」でも、ニセモノのヒーロー達が多数登場しました。その中でも究極ともいえる存在であったのが、邪電戦隊ネジレンジャー。

彼らの話に入る前に、まず少しだけスーパー戦隊シリーズについてご紹介させてください。

スーパー戦隊シリーズは、漫画家・石ノ森章太郎先生と八手三郎先生が原作の、カラフルなコスチュームを纏った5人のチームヒーローを主人公にした、東映製作の特撮ヒーロー番組のことです。1975年に第1作『秘密戦隊ゴレンジャー』が放送されて以降、『太陽戦隊サンバルカン(1981)』、『電磁戦隊メガレンジャー(1997)』、『忍風戦隊ハリケンジャー(2002)』、『海賊戦隊ゴーカイジャー(2011)』等、シリーズが継続され、現在放送中の『王様戦隊キングオージャー(2023)』まで全47作品が製作されました。

また、2024年にはシリーズ第48作『爆上戦隊ブンブンジャー』が放送開始予定です。

「5人揃って、ゴレンジャー!」スーパー戦隊シリーズ第1作『秘密戦隊ゴレンジャー(1975)』(筆者撮影)
「5人揃って、ゴレンジャー!」スーパー戦隊シリーズ第1作『秘密戦隊ゴレンジャー(1975)』(筆者撮影)

「輝け! 太陽戦隊サンバルカン!!」スーパー戦隊シリーズ第5作『太陽戦隊サンバルカン(1981)』(筆者撮影)
「輝け! 太陽戦隊サンバルカン!!」スーパー戦隊シリーズ第5作『太陽戦隊サンバルカン(1981)』(筆者撮影)

「イッツ!モーフィン!」スーパー戦隊シリーズ第36作『特命戦隊ゴーバスターズ(2012)』(筆者撮影)
「イッツ!モーフィン!」スーパー戦隊シリーズ第36作『特命戦隊ゴーバスターズ(2012)』(筆者撮影)

「王鎧武装!!」スーパー戦隊シリーズ第47作『王様戦隊キングオージャー(2023)』(筆者撮影)
「王鎧武装!!」スーパー戦隊シリーズ第47作『王様戦隊キングオージャー(2023)』(筆者撮影)

そんな長いスーパー戦隊シリーズの歴史の中で、本記事の主人公である邪電戦隊ネジレンジャーが登場したのは、シリーズ第21作『電磁戦隊メガレンジャー(1997)』でした。

「気のせいかな・・・お前をすぐそばに感じるのは」高校生で構成された『電磁戦隊メガレンジャー(1997)』(筆者撮影)
「気のせいかな・・・お前をすぐそばに感じるのは」高校生で構成された『電磁戦隊メガレンジャー(1997)』(筆者撮影)

メガレンジャーのモチーフは「デジタル」。スーパーパソコンやデジタル衛星、デジタルテレビにデジタルカメラ、デジタル携帯電話と、デジタル機器の能力を宿してメガレンジャーは悪の組織と戦った。
メガレンジャーのモチーフは「デジタル」。スーパーパソコンやデジタル衛星、デジタルテレビにデジタルカメラ、デジタル携帯電話と、デジタル機器の能力を宿してメガレンジャーは悪の組織と戦った。

本作は5人の高校生で構成される電磁戦隊メガレンジャーが、悪の組織・邪電王国ネジレジアから地球を守る物語。毎週メガレンジャーがネジレジアの送り込む怪人をやっつける展開が毎週放送されるわけですが、度重なる失敗に業を煮やしたネジレジアは、打倒メガレンジャーのために、彼らもメガレンジャーのような悪の戦隊をつくり出します。

邪電王国ネジレジアの行動体長、ユガンデ(左)。誇り高く好戦的な戦士で、幾度も体を強化してメガレンジャーに挑んだ。バーニングユガンデ(右)はメガレンジャーを窮地に追い込んでいる。
邪電王国ネジレジアの行動体長、ユガンデ(左)。誇り高く好戦的な戦士で、幾度も体を強化してメガレンジャーに挑んだ。バーニングユガンデ(右)はメガレンジャーを窮地に追い込んでいる。

その悪の戦隊こそ、邪電戦隊ネジレンジャーでした。

このネジレンジャー、メガレンジャーに対抗するために悪の司令官が製造したものでした。故にメガレンジャーに倣い、赤(ネジレッド)、黒(ネジブラック)、青(ネジブルー)、黄(ネジイエロー)、桃(ネジピンク)の5人で構成されています。さらにチームを結成している傍ら、ひとりひとりが怪人であり、変身を解き正体を現わしてもメガレンジャー5人と十分戦えるという強い集団でした。彼らの初登場時は、敵対するメガレンジャーそっくりの姿で現れ、その後はネジレンジャーの姿となって本物を追い詰めていきます。

戦力に関しては本物を圧倒する力量で全く申し分ないのですが、彼らに大きく欠けていたのは「チームワーク」でした。互いを思いやる団結した友情が大きな強さであったメガレンジャーに対し、とにかくメンバー同士の仲が悪かったのです。

強力な戦力を有しているにも関わらず、互いを思いやるチームワークは皆無のネジレンジャー。仲間を見捨てて逃げ出すことさえあった。ネジイエロー(右)の人間態を演じたのは、子役時代の大島優子氏。
強力な戦力を有しているにも関わらず、互いを思いやるチームワークは皆無のネジレンジャー。仲間を見捨てて逃げ出すことさえあった。ネジイエロー(右)の人間態を演じたのは、子役時代の大島優子氏。

・・・というのも、ネジレンジャーは「自分と同じ色のメガレンジャーを倒す」という習性が個々にプログラムされており、この習性に基づいて動いているために、お互い協力する意思は皆無。互いの戦闘を妨害するなど、メンバー同士で足の引っ張り合いをすることさえありました。

「自分と同じ色のメガレンジャーを倒す」というネジレンジャーの習性から、ネジブルーはメガブルーを狙う。しかしこの習性をメガレンジャーに利用され、次々とネジレンジャー達は倒されていった(筆者撮影)。
「自分と同じ色のメガレンジャーを倒す」というネジレンジャーの習性から、ネジブルーはメガブルーを狙う。しかしこの習性をメガレンジャーに利用され、次々とネジレンジャー達は倒されていった(筆者撮影)。

その結果ネジレンジャーは、メガレンジャーにこの習性を察知されてひとり、またひとりと次々に倒されていき、最終的には本物であるメガレンジャー達が勝利します。

メガレンジャーに倣い、団結していればもしかしたら本物に勝てたかもしれない彼らですが、そんな彼らも母組織であるネジレジアにとっては捨て駒でした。冷酷な司令官に最後まで利用された挙げ句、ライバル視していたメガレンジャー達に倒されてしまうという展開も、どこか切なさを感じるものでしたー。

・・・そんなネジレンジャーですが、日本での『電磁戦隊メガレンジャー(1997)』の放送終了後、活躍の場を米国へと移します。『メガレンジャー』は日本での放送終了後、『パワーレンジャー・イン・スペース(Power Rangrs In Space)』と題してアメリカでも放送され、自らを「サイコレンジャー(Psycho Rangers)」と名乗り、番組を視聴する米国の子ども達に強烈なインパクトを与えることになります。

ネジレンジャー(英語名:サイコレンジャー)は米国でアクションフィギュアが発売されている。なんと日本では彼らの人形はメガレンジャー放送当時発売されておらず、筆者にとってかなり羨ましい状況だった・・・。
ネジレンジャー(英語名:サイコレンジャー)は米国でアクションフィギュアが発売されている。なんと日本では彼らの人形はメガレンジャー放送当時発売されておらず、筆者にとってかなり羨ましい状況だった・・・。

とにかく自分たちはメガレンジャーよりも速いだ強いだ賢いだで、米国版でも相変わらずメガレンジャーをライバル視していましたが、日本版に倣い、最終的にメガレンジャーに倒されます。しかし彼らの活躍は本作だけに留まらず、次回作への登場や、彼らを主人公にしたスピンオフコミックの刊行等、日本では見られなかった彼らの次なる展開も現在まで行われ続けています。

『メガレンジャー』(左)は日本での放送終了後、『パワーレンジャー・イン・スペース』(右)として米国をはじめ英語圏で放送された。本作ではもちろん、ネジレンジャーも登場する(筆者撮影)。
『メガレンジャー』(左)は日本での放送終了後、『パワーレンジャー・イン・スペース』(右)として米国をはじめ英語圏で放送された。本作ではもちろん、ネジレンジャーも登場する(筆者撮影)。

米国版スーパー戦隊シリーズ「パワーレンジャー」シリーズは、アメリカンコミックとして次々とスピンオフ作品が発表されており、ネジレンジャーが主人公のコミック(中央)も刊行されている(筆者撮影)。
米国版スーパー戦隊シリーズ「パワーレンジャー」シリーズは、アメリカンコミックとして次々とスピンオフ作品が発表されており、ネジレンジャーが主人公のコミック(中央)も刊行されている(筆者撮影)。

このように邪悪なニセモノ戦隊であり、捨て駒でもあった悲しき宿命を背負っていたネジレンジャーですが、唯一無二の悪の戦隊として米国のファンの間で認知されてきました。悪の道を歩んできた彼らは、異国の地で今後どのような活躍を見せていくのか期待です。

いかがでしたか?

今回は「ニセモノ」をテーマに、日本の特撮ヒーロー番組に登場したニセモノ達に焦点を当ててきました。今回ご紹介したニセモノ達以外にも、ウルトラマンシリーズやスーパー戦隊シリーズには魅力的なニセモノ達が数多く登場していますので、宜しければチェックしてみてくださいね。

最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。

・菅家洋也、「講談社シリーズMOOK スーパー戦隊シリーズMOOK スーパー戦隊 Official Mook 20世紀 1997 電磁戦隊メガレンジャー」、株式会社講談社

博士(文学)/PhD(literature)

博士(文学)。日本の「特撮(特殊撮影)」作品を誘致資源とした観光「特撮ツーリズム」を提唱し、これまで包括的な研究を実施。国内の各学術学会や、海外を拠点とした国際会議へも精力的に参加。200を超える国内外の特撮・アニメ催事に参加してきた経験を生かし、国内学術会議や国際会議にて日本の特撮・アニメ作品を通じた観光研究を多数発表、数多くの賞を受賞する。国際会議の事務局メンバーのほか、講演、執筆、観光ツアーの企画等、多岐に渡り活動中。東海大学総合社会科学研究所・特任助教。

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