金正恩「拷問部隊」から60万円を恐喝しようとした北朝鮮男性の末路
昨年8月、北朝鮮で起きた保安員(警察官)殺害事件。ある32歳の保安員が自宅マンション前で、物陰に潜んでいた何者かに撲殺されたのだ。当局は大々的な捜査に乗り出したが、被害者が悪徳保安員として恨みを買っていたこともあり、市民の協力を得られず捜査は難航している。
一方、この事件を利用して当局からカネを脅し取ろうとした男性が逮捕され、当局に逮捕されていたことが明らかになった。
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手口は「映画で」
平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、捜査が行き詰まっていた今年3月、順川(スンチョン)市保衛部(秘密警察)の庁舎の前庭で「指定の場所まで5000ドル(約56万9000円)を持ってくれば拳銃を返す」と書かれた手紙が発見された。
保衛部と言えば、公開処刑や政治犯収容所の運営を担う金正恩党委員長の「拷問部隊」であり、恐怖の象徴である。そんな組織に対してカネを要求するとは、金正恩氏を恐喝するも同然の行為と言える。
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これを極めて重く見た当局は、捜査の主導権を、保安署(警察署)から保衛部に移した。
拳銃盗難は、金正恩党委員長が出席する1号行事のセキュリティと関連する重要事案だ。それも首都・平壌にほど近い順川で起きただけあって、もし解決できなければ保衛部の幹部は革命化(更迭の上、都市から追放)だけでは済まされず、命すら危ぶまれる状況に追い込まれかねない。
尻に火がついた保衛部は、平安南道(ピョンアンナムド)の道民400万人を対象に、筆跡調査を行った。住民に左右の手で便箋に文字を書かせ、人民班長(町内会長)に取りまとめさせた。また、被害者が住んでいたAマンションの周辺地域の住民に対しては、厳しい家宅捜索を行なうなど、なりふり構わぬ捜査を行った。
その結果、今年4月に被害者の隣人の40代男性が逮捕された。遺体の第一発見者だったこの男性は酒の席で被害者の遺体について何らかの話をしてしまったのだ。運悪くその場に保衛部のスパイがいたことで、すぐさま身柄が拘束された。
保衛部の地下監獄に連行された男性は、凄惨な拷問を受けたと思われる。「被害者の遺体を探り、400ドル(約4万5000円)と拳銃を盗んだ」「拳銃の盗難が政治的な事件となり捜査が行われていたので、一儲けを企み手紙を書いて保衛部に投げ入れた」「手口は韓流映画を見て思いついた」などと自白した。
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男性はすぐさま処刑され、家族はある日の夜に忽然と姿を消した。町では「収容所送りにされた」との噂が出回っている。
一方、拳銃盗難事件は解決したが、本筋の保衛員殺人事件の容疑者は未だに逮捕されておらず、捜査が続けられている。