半数以上が廃業? この半年「生き残った」飲食店が行った新たな試みとは【NYで屋内飲食再開】
NYで今日から屋内飲食再開
長く厳しい冬の到来を前に、ニューヨークでは現地時間の9月30日から、約半年ぶりに「屋内飲食」が許可された。
ただし、以下のような細かい条件付きだ。
- 開放できるのは店内キャパの25%まで
- テーブル同士は6ft(約2m)間隔を空ける
- 入り口での検温
- 営業は深夜0時まで
- 客の連絡先の把握
- バーサービスは禁止
- 屋外営業は引き続きOK、など
「飲食店の再開」これまで
当地は3月以降、新型コロナウイルスの感染爆発地となった。感染速度が落ち着いた6月以降、業種により段階的に経済活動の再開が進められてきた。
レストランやバーは州内に5万軒、市内には2万7000軒あると言われており、経済にもたらす影響は大きい。しかし店内はクラスターが発生しやすいことから、再開のタイミングは慎重に検討されてきた。
- ロックダウン以降、飲食店はデリバリーと持ち帰りのみが許可されている状況だった。
- 6月下旬に屋外営業(オープン・レストランツ)が市内で許可されて以降、店前のスペース(一部車道)にテーブルが置かれるようになった。(屋外営業の許可料は通常年間1万ドルだが、特例により規則を守れば許可なしで可になった)
今、これらの風景はすっかり「ニューノーマル」として街に馴染んでいる。
2020年ニューノーマルの風景
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今回やっと屋内営業が許可されたというわけだが、決してぬか喜びはしたくないと経営者らは慎重だ。
そもそも25%までの開放は、定員10人の店だと2人しか入ることができない。そのような営業で高い賃料や人件費を払い続け、儲けを出せるのか?
現在、屋内飲食の規制緩和を訴えている飲食店の経営者より、州を相手取り20億ドル(約2100億円)の訴訟が起こっている。
パンデミックで閉店した数は?
コロナ禍以前も空室率は決して低くなかったが、この6ヵ月で輪をかけて閉店、廃業跡地が目立つようになった。街を歩けば肌で感じることだ。
正確な現状の数字を把握するのは困難だが、ニューヨーク・タイムズがYelpから収集したデータによると、3月から8月までに閉店したスモールビジネスは2800軒で、その3分の1にあたる数がレストランやバーとされている。
飲食系ウェブマガジンのイーターによると、州内63.6%の飲食店経営者が、何らかの救済援助を受けなければ4ヵ月以内に閉店する可能性が「高い」または「やや高い」と回答。
「生き残った店」それぞれの試行錯誤
コンセプト変更したバー
ブルックリンのバー「The Montrose」は、至近にスポーツスタジアム(Barclays Center)がある好立地で、平日でも顧客であふれ返るほどの人気(だった)。
ジェネラルマネージャーのロベルト・クライストフォーロさんは飲食業界に身を置いて40年以上になるが、「これほど過酷な時期は初めて」とこの半年間を総括した。
厳しい懐具合ながらも廃業を免れ、かつかつ営業できていると言う。その理由を「新ルールに順応すべく、店のコンセプトを変えたから」と分析した。
バーにとって、コロナによる規制は厄介以外の何ものでもない。
まずデリバリーと持ち帰り営業が許可された時期も、メニューにはライトフェア(軽食)しかないので、店を閉めざるを得ず、売り上げはゼロ。
屋外営業の許可後、バーに課せられた規制
- カウンターサービスの禁止
- フードの提供
理由は、カウンターで立ち飲みをすると客同士が密集しやすいから。客はテーブルに着席し、ドリンクに加えフードも注文しなければならない。
ロベルトさんは再開後、屋外でランチやブランチを開始したが「もはやバーではなくただのレストランだから、店名も変えたい」と、ジレンマを滲ませる。
「市長や知事がスモールビジネスをダメにした。屋内25%はまったく話にならない。救済金は高が知れている。今も生き残っている店は、経営者の蓄え、ポケットマネーに頼っているのでは」
カフェ→食料品売り場に
世界最大のギリシャ系コミュニティがあるクイーンズ地区に、別のビジネスモデルを試行中の店がある。
ギリシャ系カフェ「Biskoti Bakery Cafe」はこの夏、大きな決断をした。不安定なレストラン事業からコンセプトを変え、地中海食料品店「Biskoti Food Market」に生まれ変わった。
以前のカフェには店内で焼いたパン、ケーキ、料理メニューを置いていたが、新形態の店ではテーブルを屋外に移し、料理メニューを廃止。ほかは輸入食材のマーケットに切り替えた。
「何の援助もなければ3分の2が廃業するだろうという予想は、リアリティがある数字」と、ジェネラルマネージャーのスーニー・ドゥ・フォンテュネさん。
「もはやアダプト(適合、順応)なくして世の変化に対応できません」
昨年9月にオープンしたが半年でロックダウン。援助金(PPPローンなど)は開業1年未満のため申請不可と、多難続きだ。
売り上げは昨年比で80~85%下がり、95%の従業員をレイオフせざるを得なかった。屋外飲食が許可されて多少売り上げが戻ったが、それでも昨年比で30~35%低いという。
「25%の4、5テーブル置いても採算は取れない」。そこで浮かんだアイデアが「今年あらゆる業種が大打撃を受けた中、これだけはサバイブした」食材マーケットだった。
「今はトランジション(移行)の時期。今後の売り上げは未知数だが、高品質を求めやすい価格で売るマーケットと焼きたての洋菓子を提供するカフェという混合コンセプトで、勝算は十分あると思う」と自信をにじませた。
売り上げUPした例も
レストラン経営者、Aさんは匿名を条件にある驚きの事実を教えてくれた。
「ロックダウン直後の2週間は売り上げが50%下がったが、諦めずに必死で営業を続けた。その後少し戻り一定水準を保ち、8月には好転。昨年同時期対比で110%アップの状態」
勝因を分析してもらったところ、デリバリーの売り上げが大きいと言う。3月以降何が起こったかというと、他店がクローズし始めたので多くの客が流れてきてデリバリーを利用してくれるようになったそうだ。
この店はもともとデリバリーをしており、新規則に素早く対応できたケースだ。しかしデリバリーのなかった店はシステム導入などで二の足を踏み、着手しなかったりスタートダッシュが遅れたケースも。
「私の周りでも売り上げが上がった店があると聞く。小規模店には(広い)屋外営業を開始した途端、売り上げがアップしたところも。逆に寿司バーや地下、2階の店は大変そうだが」
この半年間、新ルールにアダプトできた店とできなかった店で大きく差が開いているようだ。
アジャストと助け合い
「大変な状況には変わりないが、最悪な時期は乗り越えた」と言うのは、日本食レストラン「和参」の共同オーナー、小泉聡之(としゆき)さん。
「やれることを全部、必死でやっていこう」の精神で、無条件で1万ドル(約100万円)を支給してくれるEIDLや人件費や賃料をカバーしてくれるPPPから援助を受け、この半年を切り抜けた。
最近は少し余力が出たので、新形態の飲食ビジネスもスタートさせると意気込む。
日本食店でもデリバリー顧客が増えたと言う。「特に、他店から流れてきた新規客です」。デリバリー客が次に繋がるよう、配達袋には感謝のメッセージと、次回使えるクーポン券を添えてきた。
「変化へのアジャストと助け合いは、パンデミック中のキーワードだと今、改めて思う」と小泉さんは言う。
家賃は大家から一部払いで許可された。もしも閉店したら大家の家賃収入はゼロになるため、協力的な姿勢で向き合ってくれているそうだ。また、下町ならではの人情の温かさで、地域の中小企業援助団体も協力的と言う。5年前の開店時から近隣の要の人を紹介してくれ、今年も互いに情報交換を欠かさない。
「人に助けてもらっているからこそ、儲け度外視でこれからも近隣の公立校や老人団体などに、飲食サービスを通じてお返しをしていきたい」
パンデミック中の飲食店タイムライン
3月16日
州内のバーが閉店。レストランは店内飲食禁止。(持ち帰りとデリバリーのみ可。アルコールは瓶や缶の販売可)
3月22日
ロックダウン(自宅待機、在宅勤務)開始。エッセンシャルな業種以外閉鎖。
6月22日
屋外営業(Open Restaurants)再開
7月4日~10月末
週末の道路一部開放(Open Streets)
9月30日
屋内営業(最大収容人数の25%まで)再開
11月1日
屋内営業(最大収容人数の50%まで)再開か?
- 州内では現在陽性率が微増しているので変更の可能性あり。
(Interview, text and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止