神戸市がスマートシティに?連携するバルセロナ市の現在
合意に至った際の神戸市・バルセロナ市のみなさん。
8月29日、このようなアナウンスが Sentilo のウェブサイトに掲載されました。
Sentiloというのはバルセロナ市が推進しているスマートシティ施策の中心にあるセンサープラットフォームの名称で、神戸市とバルセロナ市がスマートシティ施策において連携することが発表されました。現時点ではまだ神戸市からのプレスリリースがでていませんが、わかる範囲で情報をまとめてみます。
バルセロナがスマートシティ?
バルセロナときくと、ガウディ建築や地中海に面した観光地を思い浮かべる方も多いと思うのですが、実はヨーロッパの中でもイノベーションが進んでいる都市1位に選ばれた(2015年 Juniper Research)こともあるほどで、ここでいうイノベーションはいわゆるスマートシティ化を指しています。
スマートシティといったときに、日本では電気自動車の利活用や電力の有効利用・最適化を限定的にさして使われることもあるかと思います。エネルギー資源の調達に苦しんできた日本としてはそれはそれで大事なのですが、ここでいうスマートシティや、バルセロナでの施策はもっと包括的なものです。
バルセロナでは'City OS'というコンセプトを打ち出しています。
都市の構造をこのように、環境、インフラ、地区や建物、機能、環境、文化、情報、そしてそこに住む市民たち、と階層的に定義し、
領域として定義します。
それぞれの領域で何をやるか定義づけていきます(字が重なってて読みづらいですが)。
これを実現するためのコンセプトとしてのCity OSの概念モデルが以下のものです。左下あたりにあるのがSentiloというセンサープラットフォームです。センサーから取得されるリアルタイムデータと、オープンデータ、過去のデータ、その他外部データが一体的に扱われていることに注目ください。
市民や一般向けには当然ながらこれをこのままではなく、何が実現されるのか、という視点で提示されています。公開しているコンセプトビデオをみると、彼らが何を進めて何をしようとしているのか、かいま見ることができます。
「予見し、状況を予測し、意思決定し、反応する」「意思決定をリアルタイムに行い、そのことによって市を統治して市民の生活の質を向上させることができるし、もっとサービスを効率よく提供できる」とうたわれています。
そしてその中心的な役割を果たすのがこのSentiloプラットフォームで、ウェブサイトには「行政の組織の壁を壊し、領域を超えてデータを流通させ、都市をスマート化するためのツールとしても使われている。」といった説明もあります。
都市生態学庁
バルセロナ市には、その名も都市生態学庁という行政組織があり、都市の持続可能性に関する分析・調査を通してバルセロナ市や県の政策に対する提言を行う組織と定義づけられています。
一つの都市を一つの自然生態系のように捉えてマネージメントしています。センサーによるデータ取得が徹底しており、木々の一つひとつ、街中にある大型ゴミ箱一つひとつなどに細々と設置され、リアルタイムに全量データが収集され、活用されています。そして木々であれば、エリアごとに樹齢いくつの木が何本あるので、環境にもたらす影響(二酸化炭素の吸収量など)はこのくらいだというのを計算し、その影響を数値化・可視化し、行政の施策につなげます。また、商業施設、公的機関を地図上にプロットし、地区ごとに多様さを評価するシステムがあります。
それぞれについて、専用のソフトウェアを開発して、データ集計や分析、可視化をしていました。
これらの集まってくる情報を元に、都市を評価する指標を策定しています。コンパクトさと機能性、複雑性、効率さ、社会的包含(弱者を見捨てない)といった4つのテーマから7つのスコアへ、そこには41の指標がありました。
ほかにも
格子状の道路を根本的に再編しなおしたスーパーブロックや、バス路線の再編など、City OS化とほぼ同時期に一体的に進んだ興味深いプロジェクトがたくさんあるのですが、話が発散してしまうのでここでは省略します。
面白いのは
これらの仕組みをオープンソースとして積極的に海外の都市と直接やり取りをしているということ。
スペイン・カタルーニャ州の多くの市で導入されている以外に、ドバイ(ドバイ首長国の首都)で導入済みで、さらに、モンテビデオ(ウルグアイの首都)やブリュッセル(ベルギーの首都)も関心を示しているとのこと。直接「都市外交」とも呼べそうなネットワーク作りに励んでいて、今回の神戸市との提携もその中の一つと位置づけられそうです。ただ、たとえば同じスペインのマドリッドでは採用されていません。
なぜこのようなことをするのか、ということを考えるときに背景として、カタルーニャ州のスペインの中での立場もこうした施策の推進に影響しているのかもしれません。
1930年代から70年代にかけて、フランコ独裁時代に地域ナショナリズムは抑圧され、カタルーニャ州でも公の場でカタルーニャ語の使用が禁じられていたそうなんですね。
スペイン全体の経済をカタルーニャ州で(特に欧州債務危機後)支えているという意識と、カタルーニャ州の独立を問う選挙がここ数年で二回ありましたのでいつの日かスペインからの独立を虎視眈々と狙っている意識、がこういった尖った都市施策を推進する背景にあるのかもしれません。
そして都市のAI化へ...?
ケヴィン・ケリーが「<インターネット>の次に来るもの」で述べているように、AIが21世紀の電力のようなインフラとなり、社会全体の仕組みをガラッと変えてしまう可能性を秘めているなら、都市の機能やインフラ、役割も再定義なされていくのでしょう。その前段として、センサーで環境データの全量取得が必要になってくるわけで、プライバシーやコスト、合意形成などの問題孕みつつも、バルセロナのような都市では仕組みと施策をどんどん突き進んでいく、という印象をうけました。社会課題の待ったなしの解決が叫ばれる日本で、どちらかというとトップダウン・付加価値創造型のやり方であるCity OS/Sentiloプラットフォームを受け入れた神戸市ではじまる今後のストーリーに注目したいと思います。