「共産砲」が入管を直撃!「診療中に飲酒の医師」隠ぺいと虚偽答弁の疑惑で、齋藤法相の責任追及
大阪出入国在留管理局(大阪入管)の常勤医師が酒に酔った状態で診察していた問題で、今月6日、共産党の仁比聡平参議院議員は、独自入手した内部文書を記者団に公表した。仁比氏は、本件を齋藤健法務大臣が今年2月下旬の時点で知りながら、国会質疑等で報告しなかったことを批判。また、問題の医師が今年1月21日から出勤していないにもかかわらず、入管法改定案に関連して、出入国在留管理庁(入管)や齋藤法務大臣が「収容施設での医療体制を改善した」としたことを、「虚偽だ」と批判した。
〇大阪入管の内部文書の内容は?
週刊文春によるスクープは俗に「文春砲」と呼ばれるが、今回は、さしずめ、「共産砲」といったところか。大阪入管の常勤医師が今年1月、酒に酔って診療していた問題で、仁比議員は6日の会見で、大阪入管の内部文書を公表した。それによると、今年1月20日の午後、問題の医師が落ち着きや冷静さを書いた状態で、明らかに普段と異なる様子であったため、アルコール検査を実施したところ、呼気1リットルあたりのアルコール濃度が、0,36ミリ*という、高い濃度を示したのだという。検査の際、問題の医師は意味不明な発言や、検査へ反発する言動を繰り返した挙句、業務を中断、退勤させられたのだという。
*参考までに、呼気1リットルあたり0.25ミリグラム以上のアルコール濃度は、酒気帯び運転の中でもより深刻とされ、免許取り消し2年以上となる。酒気帯び運転の運転者への刑事罰は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」。
〇法務大臣の隠ぺいと嘘
人の命にもかかわる医療従事者が勤務中に飲酒していたこと自体、大問題であるが、それだけにとどまらない。齋藤法務大臣は、今年2月下旬には、この問題の報告を受けていたと、ここ数日での国会質疑や会見等で認めている。それならば、何故、本件の第一報(今月1日付の読売新聞)で発覚するまで、公表しなかったのか。筆者が6日朝の会見で、齋藤法務大臣に質問したところ、「(問題の医師との)裁判になるかもしれないので、慎重に事実確認をしている」との回答だったが、だとしても公表が遅すぎる。その場にいた、東京新聞の望月衣塑子記者は「(刑事事件等の)逮捕では、容疑者が否認していても公表する。おかしいではないか」と追及したが、齋藤法務大臣は答えなかった。
入管の医療体制の改善は、入管法改定案の前提の一つとされている。名古屋入管に不当に収容された挙句、著しい健康状態の悪化を放置されたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が2021年3月に亡くなったことを受け、入管は各地の施設に常勤医師を配置するなどの医療体制の改善をアピールしてきた。実際、4月19日の衆院法務委員会では、齋藤大臣は、
「入管庁では、これまで、(ウィシュマさん事件の)調査報告書で示された改善策を中心に、組織、業務改革に取り組んできたところ、こうした取組により、常勤医師の確保等の医療体制の強化や職員の意識改革の促進など、改革の効果が着実に表れてきている」
と答弁。また、5月9日の参院法務委員会でも、
「被収容者の生命と健康を守ることを最優先に考え、行動することを心構えとする緊急対応マニュアルの策定とか、そういうものを行いながら職員の意識の改革を行ってきている」
と述べている。さらに、入管庁が今年4月にまとめ、国会議員達に配布した資料にも、大阪入管に常勤医師が1人いることになっているが、実は、この常勤医師とは、今回問題となっている診療中に飲酒した医師であり、1月21日以降、出勤していないのだ。
〇ウィシュマさん遺族も大臣を批判
これについて前出の仁比議員は、6日の会見で「大臣が国会の答弁の中でこの事実は明らかにせず、結果として隠蔽を続けてきたことについて、(法務)委員会での徹底した審議を行わずに(杉久武参院法務委員長が)職権採決を強行することはあり得ない」と憤り、「大阪に常勤医師が今も働いていて被収容者の健康を慮っているかのような説明は虚偽答弁だ」「大臣は猛省すべきであって 訴訟上のリスクを考えたなどというのは全く弁解にならない」と批判した。
この大阪入管での医師の飲酒やその後の実体のない勤務については、ウィシュマさんの遺族もコメント。ウィシュマさんの妹ワヨミさん(30)は「姉が満足な医療を受けられずに亡くなり、入管は医療体制を改善すると約束したはずなのに、また失敗を繰り返すのか」「このような状態で法案を採決するべきではない」と述べ、同じく妹のポールニマさん(28)も「医療体制が改善したとの主張は全くの嘘だった」と、齋藤法務大臣を批判した。
〇議会制民主主義に対する背信
齋藤法務大臣や、西山卓爾入管次長は、これまで法案審議の中で幾度もウィシュマさんの名をあげ、反省し改善策を取っているかのような答弁をしてきた。ところが、大阪入管の医師の飲酒や、その後、勤務実体がないにもかかわらず、大阪入管に常勤の医師がいて医療体制が改善されたかのような説明をしてきたことは、野党の議員のみならず、与党側の議員達をも欺いたことになる。重要な事実が隠蔽され、虚偽の情報で法案が審議され採決されることは、入管法改定案の是非にとどまらず、議会制民主主義そのものへの背信行為だ。既に、法案を採決した衆議院でも、鎌田さゆり衆議院議員(立憲)は「審議をやり直すべきだ」と憤っているが、無理もない。政府与党は、明日8日の参院法務委員会で入管法改定案の採決を目指すかまえだが、国会議員としての矜持があるならば、採決の前に、大阪入管の医師をめぐる一連の問題に対し、正面から向き合うべきだろう。
(了)