【戦時の献立】毎日2割の節米を!國策変わり御飯『馬鈴薯めし』とは?(昭和15年2月11日)
「もし戦時中に料理ブログがあったら?」
日中戦争から太平洋戦争にかけての“戦時中”と言われる時期も、休まず出版された婦人雑誌がありました。
そこに掲載されたレシピを忠実に調理し、ちょうどその頃に起きた出来事や些細な日常を交えながら、戦争中の食事について深掘りします。
料理を作るのは、暇な日曜日に夕めしを作ることにした「私」。
今日の献立は馬鈴薯飯(ばれいしょめし)
昭和15年2月号の婦人倶楽部を見てみると、美味しい國策変わり御飯としてこの「馬鈴薯飯」が紹介されています。
そして献立の説明にはこんな呼びかけも書かれています。
興亜の聖業というのは、日中戦争のことを指しています。
当時の政府は、この戦争は侵略目的ではなく、欧米の支配からアジア諸国を解放し、強いアジアを作り上げるための戦争であるという大義名分を掲げていたため、雑誌などでもこのような表現が使われています。
当時の日本の台所事情は、長引く日中戦争によって物資が不足したり、日本の植民地下に入っていた朝鮮で干ばつが起きて移入米が入って来なかったり、米不足が深刻化していました。
前年の11月には米穀搗精等制限令(べいこくとうせいとうせいげんれい。いわゆる白米禁止令)が出され、米は七分づきまでと決められたくらいです。政府は、胚芽などを残した米を国民に食べさせることで、少しでも満腹感を得られるようにし、米の消費を抑えたかったた訳です。
こういった事情に当時の婦人雑誌も歩調を合わせ、さまざまな節米献立を紹介していました。
節米献立の代表的なものといえば、①米の代わりになる物(麺など)を使って調理する代用献立、②米に他の物(芋や野菜)を混ぜてかさを増やす増量献立があります。
今回の馬鈴薯飯は②の増量献立。その名の通り、じゃがいもを使って、少ない米で満腹になれる料理です。
◇では、ここから先は昭和15年2月11日だと思ってご覧ください
昭和15年2月11日、日曜日。日没から霧濃くなるが、日中は快晴。
今日は紀元2600年の節目の日なり。
家の庭から、真っ白な衣をまとった富士山が見えるが、今朝はいつもよりシャッキリとよく見える。めでたきことこの上なし。
夕めしは家内の婦人雑誌から馬鈴薯飯を選んだ。
本来であれば食卓を豪華に彩りたいところであるが、いかんせん節米の時である。
とは言え、めでたい気分なのだから、馬鈴薯でかさ増しした七分づきの飯でも、充分御馳走なのである。
ではこしらえていこう。
【紀元2600年】とは…
日本書紀の記載から、初代天皇である神武天皇の即位した西暦紀元前660年を元年とする考え方。
昭和15年が即位2600年にあたるということで、日本各地で記念行事が行われた。即位日とされる2月11日は現在も建国記念の日となっている。
材料は…
- 胚芽米または七分づき米 6合
- 馬鈴薯 200匁(750g)
- 水 一升一合(1.98リットル)
- 塩 大さじ2
まずは米の下準備から
米は5人前で6合のようだが、うちは私と家内2人だけだから2合にしておく。
献立によると、米はあまり洗わない方がよいと書かれている。
なぜなのか家内に聞くと、しばらく無言で首を傾げていたが、白米と同じ調子で洗うと胚芽が取れてしまうからではないかと言っていた。
なるほど、せっかくの胚芽が取れてしまっては元も子もない。
さっとかき回して、2度ほど水をかえて、ざるにあげて3-4時間ほどおこう。
馬鈴薯はさいの目切りに
米2合に対して、馬鈴薯は70匁用意した。これを四分ほどの大きさのさいの目切りにする。
米を土鍋で炊く
米と馬鈴薯を土鍋に入れたら、そこへ水3合半ほどと、塩大さじ2/3杯ほどを入れる。
献立によると、馬鈴薯が水分を含んでいるので水は少なめで良いのだそうだ。
まずは強火にかけ、湯が沸いてきたら蓋をして、弱火で15分炊き上げる。
15分経ったら、少し蓋を開けてみる。
水気がなくなっていれば大丈夫だ。
あとは蓋をしたまま、20分間蒸らすだけである。
馬鈴薯飯の完成なり
では、いただきます。
これはなかなかやれる。ちょっと米の芯が残っているのはご愛嬌である。
確かに馬鈴薯のお陰で、少ない飯でも食べ応えがある。
炊き込み飯といえば出汁で炊くのが一般的だが、こうして塩味に仕上げるのもうまい。馬鈴薯に良く合っている。
そして同じ芋でも、さつまいもを入れて炊いた時のような甘ったるさがない。あの甘さが苦手な人にも、うってつけの献立であろう。
家内はというと、馬鈴薯のシャキシャキした歯応えも楽しいと言っていた。充分やれたようで何よりである。
それにしても、今日はどこもかしこもお祭り気分であった。
二重橋前には学生であろうか、若い女性たちも旗を振りながら大勢集まっていた。
100年に一度のよき節目の日である。バンザイバンザイと、高揚するのは無理もない。
ごちそうさま。またうまいものを作ろうと思う。
◇動画もご覧いただけると有り難し!
詳しい作り方を動画で見たいという方はこちらをどうぞ。
Sake Drinker Diary では戦時中にまつわる動画を配信しています。
動画に興味を持った方、なぜ Sake Drinker という名前なのか気になった方、Youtubeチャンネルを覗いて下さると有難し!
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