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グーグル、アマゾンに続きテスラも自前の半導体チップを開発

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

電気自動車メーカーのテスラモーターズが自動運転用の半導体AIチップを自分で作る、と同社CEOのイーロン・マスク氏が語ったという報道が相次いだ(参考資料1)。自動運転に必要なAI(ディープラーニング)ソフトを載せたチップを開発するためだ。また、Linked Inを見るとアップルが半導体の設計・検証者を198職種で募集している(参考資料2)。米国では、半導体業界にもウーバー化が押し寄せてきている。つまり、これまで半導体を使う側だった企業が自分で作りたいと考えるようになってきたのだ。もちろん、グーグルは第2世代のAIチップを開発中であるし、アマゾンも買収したAnnapurna社が半導体設計者を募集している。

海外では、ITサービス業者もIT機器メーカー、クルマメーカーまでもが半導体チップを設計し始めた。これに対して日本は、半導体産業=斜陽産業、という図式から逃れられず、いまだに間違った認識を持っている。2017年の半導体産業は、メモリバブルのおかげで、年率20%増という驚異的な成長を示す。2016年の3390億ドルから4087億ドルという、700億ドル近い差である。8兆円弱の新規市場が1年でできたようなものだ。

ただし、メモリを除く半導体産業の成長率は2017年には9%程度であり、堅実な高成長を遂げている。メモリは、DRAMは75%成長、NANDフラッシュは45%成長と大きく伸ばしたが、需要に対して供給が追い付かず、単価が上がったために売り上げが増えた。生産能力はわずか3%程度しか伸びていない。DRAMの生産能力は2018年もそれほど大きくならず、単価はいまだに増加傾向にある。市場関係者は2018年の中ごろには単価が落ち着くとみている。NANDフラッシュはDRAMほど単価が上がらなかったが、新しい集積度向上技術である3次元構造のNANDチップの量産が軌道に乗れば単価は上がらず生産量は伸びていくことになりそうだ。

メモリ以外のシステムLSIあるいはSoC(システムオンチップ)の世界では、Intelを除き、水平分業が確立している。ファブレスメーカーはクアルコム、ザイリンクス、メディアテック、AMD、Nvidiaなどがおり、工場を持ち製造できるファウンドリ(製造専門の請負業者)サービス業者には台湾のTSMCやUMC、米グローバルファウンドリーズ(GF)、イスラエルのタワージャズセミコンダクタ、中国のSMICなどに加え、最近はサムスンも出てきた。

半導体チップは工場を持たなくても設計データ(マスクデータ)があれば、誰でもチップを持てるのである。テスラやグーグルが自分の独自チップを持てるようになったのは、このためだ。しかも水平分業は、設計側でさらに進んでおり、クルマが自分でシステムLSIを設計する必要もない。「こんなチップが欲しい」という全体システムのコンセプトと仕様さえ持っていれば、設計してくれるデザインハウスがいる。LSI設計ではVHDLやVerilogという独特の言語で論理設計をプログラムしていかなければならないが、このLSI言語を使ってプログラムしてくれる業者がデザインハウスだ。だから自分で例えば、クルマの前にいる物体がクルマなのか人なのか、自転車なのか、あるいは建物なのか、を一瞬で判断する機能をディープラーニングや機械学習で覚えさせるためのAI機能を、自分のクルマ用に半導体チップを使えば一瞬で判断する推論チップを手に入れることができるのである。

残念ながら、日本は長い間、メモリでは威力を発揮できる垂直統合にしがみついてきたため、水平分業の便利さに気が付かなかった。垂直統合は、昔ながらの大量生産可能なメモリには向いていたが、少量多品種のシステムLSIには全く向かない。日本はメモリからシステムLSIに舵を切ったのにもかかわらず、垂直統合にこだわり続けた。工場の生産能力は余って仕方がなかった。赤字になるのは無理もない。

工場は持たなくても自前のチップを作れることにいち早く気が付いたアップルは、iPhone用のプロセッサチップだけは自社開発の道を選んだ。アップルは最初はマッキントッシュパソコンを設計製造するため半導体を外から購入してきたが、iPhoneから自前のチップを採用するようになった。アップルのプロセッサチップにはCPUの他に、絵を描くためのグラフィックスチップ(GPU)や動画の圧縮・伸長を行うためのエンコーダ/デコーダ回路、画像をきれいに見せるための画像処理プロセッサ、デジタルフィルタや積和演算用のDSPなど、いろいろな回路機能を集積しているため、SoCあるいはアプリケーションプロセッサと呼んでいる。

そのアップルが今度は本格的な半導体メーカーを目指す。GPUと電源IC(パワーマネジメント)は自前に切り替えた。このため設計者、検証者、アナログ・ミクストシグナルなどのエンジニアを大募集している。

なぜ半導体チップを持ちたがるのか。チップこそ、他社とは違う特長を出すための差別化技術だからである。日本の電機メーカーも早くこのことに気が付かなければいつまでも世界の負け組から脱出できない。電機メーカーの幹部に聞いてみたが、未だに気が付いていなかった。残念だ。

参考資料

1. 例えば、T. Simonite, “Musk Says Tesla Is Building Its Own Chip for Autopilot,” Wired, December 8, 2017

J. Vincent, “Elon Musk Says Tesla Is Working on Custom AI Chips,” The Verge, December 8, 2017

D. Etherington, “Tesla Said To Be Working On Its Own Self-Driving AI Chips with AMD

2. Apple 198 jobs for chip design, Linked In

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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