運転免許証の返納を促進させるためには何が重要だと思われているのだろうか
・どのような状況でも運転免許証の返納はしないと考えている人は7.0%。
・スムーズに運転免許証の返納が行われるためにもっとも重要だと考えられている施策は「電車やバスなどの公共交通機関の運賃割引・無償化」。64.9%が同意。
・各種施策を求める声は30~50代で大きなものに。地域別では大よそ人口密集地域よりも地方の方が望む声は大きい。
高齢者の運転による交通事故が問題視される中で、運転免許を有する人に対する自主的な返納制度が注目を集めている。この制度利用を促進させるため、どのような施策が重要だと思われているのだろうか。内閣府大臣官房政府広報室が2018年1月に発表した「運転免許証の自主返納制度などに関する世論調査」(※)の結果から確認する。
今調査対象母集団では2/3近くの人が自分の身体能力の低下などを感じた時に運転免許証を返納しようと考えている。その一方で7.0%は(どのような状況となっても)運転免許証の返納はしないとしている。
運転免許証の返納をすると自動車という移動手段が利用できなくなるため、日常生活に支障が生じる、だから返納は難しいとの意見もある。身体能力の衰えで利用できないのならば、それは病人が適切に治療を受けるために入院するのと同じ発想で、自動車を使わなくても済む環境に身を置くようにすればよいまでの話なのだが、それを望まない人も多くいるのが現実。また仕事で自動車を用いる人は、返納は仕事を辞めることを意味するので、それも難しい。
では運転に自信を持てなくなった人が、安心して運転免許証を返納できるようにする、よりスムーズに返納が可能となるようにするには、どのような施策が有効だと考えられているだろうか。
もっとも多い意見は、電車やバスなどの公共交通機関の運賃割引・無償化で64.9%。移動手段を失うことになるので、その代替手段の利用を促進してもらうため、コスト面での優遇措置を取るべきだとするものだ。社会全体におけるリスクを軽減するために個人の自由が奪われるのだから、その代替手段の利用には社会がサポートをする必要があるとの考えに基づくもの。また、このような施策を取らないと、利便性だけで無くコスト面でも自動車よりは劣る公共交通機関への切り替えにはなびかないだろうとの思惑もある(コスト面に限れば、メンテナンス代や燃料代、車庫代、車検代まで合わせると、公共交通機関と自動車の利用のどちらが低コストとなるのかは微妙なところだが)。
次いで地域における電車などの公共交通機関の整備が59.4%。実のところ意図としてはトップの公共交通機関の運賃割引・無償化と大きな違いは無い。要は自動車の代替として公共交通機関を使うようになるとしても、それ自身が無ければ使いようが無いからだ。むしろ逆に、公共交通機関が不便だから自動車を使っている環境の人も少なからずいるのは容易に想像ができる。
買物宅配サービスの充実は買物困難者問題とも深く関わり合いのある選択肢。徒歩では買物ができる店に行けない場所(距離的に到達できても、荷物を持ち帰るのが困難な場合も含む)に住んでいるために自動車を使っているが、自動車が使えなくなれば買物困難者となってしまう、だから運転免許証の返納を促進するためには、生活の困難さが解決できるよう、商品を宅配してくれるサービスを充実してほしいとするものだ。
これを回答者の年齢階層別に見たのが次のグラフ。
29歳までは大よそ回答率は低めで、年とともに高くなっていく。大よその項目では30代から50代が高めに出ており、近い将来自分自身が決断を迫られるであろう運転免許証の返納に際する不便さに、色々と考え、要求を思い浮かべていることが分かる。
他方60代以降になると複数選択肢で回答率は低めとなる。70歳以降は「特に無い」「分からない」の回答率が高いために具体的な選択肢の回答率が圧迫されているのも要因だが、60代で公共交通機関の整備や買物宅配サービスの充実、医師や看護師などによる巡回サービスの充実の回答率が50代までと比べて急激に落ちているのは、自分自身の実情を見極めた上での判断だろうか。その観点で考えると、公共交通機関の運賃割引・無償化は、運転免許証返納の上で、大いに望まれていることになる。
回答者の居住地都市規模別では納得の行く結果が出ている。なお都市区分は「大都市」は東京都区部や政令指定都市、「中都市」は人口10万人以上の都市、「小都市」は人口10万人未満の市、「町村」は町や村である。
当人の移動や生活手段の補てん的施策は人口密集地域よりも地方の方が望む声は大きい。自動車が使えなくなった後、徒歩(あるいは自転車が使える人もいるかもしれないが)では難儀する人は、人口密集地域よりも地方の方が多いのは容易に想像ができる。都市部のように地方においても、半径1キロ以内にコンビニもスーパーも薬局も郵便局も病院も鉄道駅もバス停もすべて揃っているとは限らない。東京都区部で特に低い値が出ているのは、徒歩で十分生活水準が維持できる、運転免許証を返納しても生活には困らないとの判断をする人が多いからだろう。
見方を変えれば今結果から運転免許証の返納問題において、普段の生活に自動車を用いている以上、その返納は難しいとする意見は都市よりも地方に多いとの説が裏付けられたことになる。もっともこれらの施策はいずれも自治体に財政上の負担を強いることになるため、財政面での困難を有している地方には、より厳しい現実を突きつけられたに違いない。
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※運転免許証の自主返納制度などに関する世論調査
2017年11月16日から26日にかけて、日本国内で日本国籍を有する18歳以上の中から層化2段無作為抽出法によって選ばれた3000人に対し、調査員による個別面接聴取法によって行われたもので、有効回答数は1839人。男女比は852対987、年齢階層比は18~19歳30人・20代138人・30代202人・40代348人・50代263人・60代370人・70歳以上488人。
(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。