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沖縄県の医療が急速に逼迫 新型コロナの「緩やかな感染拡大」は誤認か

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

新型コロナが「5類感染症」に移行してから、「やれやれこれでコロナ禍も終わった」と思っている人が多いかもしれません。私も、どこかそういう期待を持ちながら、コロナ禍前の診療モードに移行しようとしていたのですが、無視できないほど感染者が増えてきました。

第9波の実態が把握できない

マスメディアでは「緩やかな感染拡大」と報道されていますが、全数把握ではなく定点把握に移行しているので、実際はすでに「急速な感染拡大」が起こっている懸念があります。

また、「5類感染症」に移行したことで、検査を受けていない感染者が水面下に相当数存在すると考えられています。

これに加えて、非常に地域差が大きく、現在の波の実態を掴みにくくしています。

沖縄県の医療逼迫

このウイルスがいやらしいのは、その高い感染性です。重症度はそこまで高くありませんが、ワクチン接種終了から時間が経過した高齢者で、再び肺炎を目にするようになりました。

全国で最も新型コロナの感染者数が多いとされるのが沖縄県で、定点医療機関あたりの感染者数も28.74人と全国最多を記録しています(図1)(15時30分追記)。また、6月8日から医療フェーズ5になっていますが、この現状はあまり報道されていません。

図1.6月22日時点での沖縄県の定点医療機関あたりの新型コロナ感染者数(筆者作成)
図1.6月22日時点での沖縄県の定点医療機関あたりの新型コロナ感染者数(筆者作成)

何人かの沖縄県の医師に聞いたところ、体感としては過去の医療逼迫と似た水準とのことです(図2)。沖縄県独自の入院情報共有システム(O-CAS)によれば、県内で逼迫水準を大きく超える500人の入院患者が発生しています。

図2.沖縄県が直面している医療逼迫(筆者作成、イラストはシルエットイラスト、イラストACより使用)
図2.沖縄県が直面している医療逼迫(筆者作成、イラストはシルエットイラスト、イラストACより使用)

また、沖縄県では医療従事者の感染が増えており、これが人的資源の枯渇を招いています。手術や検査が止まっている医療機関も出てきました。

宿泊療養施設もなくなり、発熱したらとりあえず病院へ直行しますが、高次医療機関の受診が必要そうであれば逼迫している中核病院へ送るという、厳しいバトンパスがおこなわれています。それゆえ、総合病院の救急外来の待合室は混雑しています。しかしこれももはや回らないということで、救急外来を一部制限している医療機関が7か所あります。

新型コロナの入院や転院については、これまでは行政がその調整を担ってきました。しかし現在、行政の関与が極端に薄くなっており、他の医療機関へ転送が必要な場合、各病院が受け入れ先を探す必要があります。

コロナ病床は潤沢ではない

私見ですが、「どこの医療機関でも診られる」というのは希望的観測が多分に含まれています。

実際、これまで発熱外来やコロナ病床を確保していた医療機関の中には、これらを閉鎖して通常診療に戻しているところもあります。また、多くの中核病院は「新型インフルエンザ等感染症」のもと、それぞれ何十床ものコロナ病床を確保してきましたが、「5類感染症」への移行で助成金が減額となり、どこも新型コロナ用の確保病床数をかなり減らしています。

そのため、現実的には「新型コロナを診療できる病床数」は減っていると考えられます。

小児科の医療逼迫も厳しい

流行地域の小児科クリニックでは、受け付け開始とともにその日の診療予約が終了するという混雑ぶりです。

これは新型コロナ以外にも、RSウイルス感染症やヘルパンギーナなど、さまざまな感染症が流行しているためと考えられます。

これまで国全体で抑え込んでいた感染症が一気に噴出しているため、小児科の入院病床は、沖縄県に限らずどこも厳しい状況が続いています。

まとめ

「5類感染症」に移行したことで、「見えないこと」が増えました。感染動向がいまいちつかめず、まるで目隠しでボクシングの試合に臨んでいるような感じです。

マスクを着用しないことが当たり前になりつつありますが、流行が広がっているときに限っては、マスク着用は1つの武器になります。マスク不要・必要という二元論ではなく、流行に応じて柔軟に対応していくべきと考えます。

以前の記事にも書きましたが(1)、前回の接種から半年以上経過している人は、自然感染を望まないのであれば、新型コロナワクチンを推奨時期に接種することをおすすめします。感染によって約10%の後遺症リスクを抱えるというのは、割に合わないと思います(2)。

そして、普段から新型コロナを診療している医療機関を把握しておくこと、抗原検査キットや解熱剤などを事前に購入しておくことが重要です。

(参考)

(1) 新型コロナワクチン接種は今後どうすればよいか? 子どもへのワクチンは?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20230617-00353871

(2) WHO. Coronavirus disease (COVID-19): Post COVID-19 condition. (URL:https://www.who.int/news-room/questions-and-answers/item/coronavirus-disease-(covid-19)-post-covid-19-condition

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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