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日銀の利上げ懸念ではなく利上げ期待に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 8月5日に日経平均株価が4451円安となり、ブラックマンデーの下げ幅を上回った。また円高も進行し、ドル円は一時141円近くまで下落した、

 これは7月31日の日銀の利上げが主因ではないが、一因であったことはたしかである。

 実質的に政策金利を0.1%から0.25%へ利上げしたことで、0.15%の利上げに過ぎなかった。しかし今後の追加利上げも意識され、これがサプライズとなった。

 実際にはそれほど意外感があったわけではない。現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえれば当然のことであった。

 ただし市場参加者には、日銀の金融緩和は永遠であるかのようなノルムが残っていたこともたしかである。

 物価が2%を超えようと日銀は非常時緩和からの方向転換をしなかった。これを受けて市場では日銀が緩和からの方向転換は困難との見方を強めていた。

 しかし、日銀は3月の金融政策決定会合で方向転換を行った。マイナス金利政策を解除するともに長期金利コントロールも実質的に撤廃した。

 日銀が方向転換をしたという事実はこれまでの政治的なプレッシャーから解き放たれたというか、そもそも政治がそれを求めてきたといえるのである。

 この方向転換をもう少し市場は意識する必要があった。

 それを示すものとして、利上げ懸念というものがある。これは利上げそのものが悪かのような印象を与えかねない。しかし利上げイコール株安とはならない。さらに債券市場にとっては金利が付くことは当然プラス要因となる。決して懸念などではない。

 私は利上げ懸念という言葉は使わなかったが、利上げ観測という言葉に止めてしまった。これもノルムが残っていたためであろうか。

 先日、メディアの市況欄で債券市場参加者のコメントとして、日銀の利上げ期待というものがあった。債券市場参加者にとって、いまの政策金利や国債利回りの水準を見る限り、利上げは懸念ではなく、観測でもなく、期待であってしかるべきである。

 国債利回りの上昇は保有国債の価格下落となる。それでも利回りが上昇することで、金融機関は、よほどおかしな投資をしていない限り、利益を増加させる要因となるはずである。

 一般企業にとっても金利が動くことによって、設備投資などを活性化させる要因ともなり、この程度の利上げは懸念材料などでなく、本来は期待すべきものである。

 ここで日銀は利上げに向けてのブレーキは掛けるべきでは当然ない。ただし、自民党総裁選や米国大統領選挙も控え、政治的な要因から動きづらい面があるのも確かである。このため、日銀の次の利上げは12月の金融政策決定会合においてと期待している。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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