旧慰安婦問題で日韓が合意 二度と20年前の過ちを繰り返すな
旧日本軍慰安婦の問題で互いに非妥協的な立場を示してきた安倍政権と朴政権が合意に達した。元慰安婦の平均年齢が90歳近くになっており、この機会を逃せば問題は永遠に解決できなくなってしまう。そうした危機感と人道的配慮から行われた日韓両首脳の政治決断だった。
戦後50年の「歴史を教訓に平和への決意を新たにする決議」と「女性のためのアジア平和国民基金」の設立、それに続く村山談話。慰安婦問題を清算しようとした20年前の試みは、「アジア女性基金は日本政府が法的責任を免れるための隠れミノ」という日韓のメディア戦争に巻き込まれて挫折した。
元慰安婦への償い金を国民から募ったことに対して、「日本政府の責任回避」という批判が沸き起こった。しかし元慰安婦の「国家賠償」に応じれば、日本は戦後処理を一からやり直さなければならなくなる。一方、日本国内の右派は「元慰安婦は売春婦であり、償いの必要はない」と激しく非難した。
日韓とも二度と20年前の過ちを繰り返してはならない。安倍晋三首相は元慰安婦に「心からのお詫びと反省」を表明し、元慰安婦支援の財団を韓国政府が設立、日本政府が10億円を拠出する。これまで韓国の政権が交代するたび過去の合意が反故にされてきたことから、今回は「慰安婦問題の最終解決」が確認された。
安倍政権による河野談話の検証、慰安婦問題をめぐる朝日新聞の歴史的な訂正、70年談話の発表という手順を踏んだ安倍政権の歴史的な外交成果となった。
中国の台頭という地政学の大変動の中で安倍政権は集団的自衛権の限定的行使を容認するなど日米同盟を強化することでアジア太平洋のパワーバランスを築く道を選んだ。米国を後見人にすることで強硬な中国を軟化させ、韓国を交渉の場に引き戻した。
安倍首相も大幅に譲歩した。敗者を作らない交渉で、どちらも大きな成果を収めた。アジア太平洋が二度と戦火にまみれないよう日本は最善を尽くす必要がある。歴史問題を蒸し返すことは日本にとって百害あって一利なしだ。安倍首相が「心からのお詫びと反省」を示して、日韓関係の改善に踏み出した意義は大きい。
21歳の視点で日韓の戦後70年を追いかけてきたつぶやいたろうラボ(旧つぶやいたろうジャーナリズム塾)4期生の笹山大志くんは日韓合意をどう見たのか。
[笹山大志]「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」。28日、日韓外相会談を終えた岸田文雄外相はこう述べ、日韓間の慰安婦問題の“国家上“の最終決着を宣言した。
日本政府が国家として「責任の痛感」、「謝罪と反省」の気持ちを表明し、韓国が設立する財団に約10億円の資金を日本政府の予算で拠出することを明らかにした。一方で、岸田外相は、請求権問題は「解決済み」とする日本政府の立場について「従来と変わらない」とした上で、今回の資金拠出も「国家賠償ではない」とし、法的責任、賠償については否定した。
元慰安婦の反応
今回の外相会談を当事者の元慰安婦たちはどう受け止めたか。韓国では共同記者会見中に元慰安婦らが共同で暮らす「ナヌムの家」の様子も生中継された。「ナヌムの家」は「両国の努力は評価するが、不十分だ」とし、安信権所長も「被害者に背を向けた政治的野合だ」と批判した。また、元慰安婦の李ヨンスさん(87)は「慰安婦被害者たちのために考えていない」「(会談結果を)すべて無視する」と不満を漏らした。
その一方で、こう話す元慰安婦もいる。生中継に応じたユヒナムさん(88)は「満足はできないが、政府も努力したし、法というものがある。私たちの思いのままになるというものではない。努力された方々のことも考え、私たちは、政府のされる通りに従います」と言葉を詰まらせながら語った。
こうした元慰安婦からの反応の違いは1995年に発足したアジア女性基金に対するものと似ている。償いを実施した際に、元慰安婦から補償の要請があったり、基金の理事が読み上げた歴代首相のお詫びの手紙に涙を流し、基金の職員と抱き合ったりするなど、喜びを表現する元慰安婦の姿があった。その一方で、道義的補償であったことから、支援団体の「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)」が「元慰安婦が償い金を受け取ることは韓国人の恥になる」と主張し、元慰安婦の多くが補償の受け取りを拒否したことにつながった経緯がある。
今回の妥結においても、アジア女性基金においても、元慰安婦の女性たちの中にも多様な意見や考えがあることを忘れてはならない。慰安婦問題は外交問題である前に、女性の人権問題である以上、「当事者主権」は最大限尊重されるべきことを日韓両政府、そして韓国の支援団体は認識するべきだ。
アジア女性基金に募金した私の祖父
「安倍首相が謝罪すると言っても、日本は従来から何度も謝罪してきた。にもかかわらず、なぜ韓国が日本に対して何度も謝罪しろと言ってきたのか考えて欲しい」。ソウル大学4年の友人(24)は今回の外相会談をそう評価した上で、こう話す。「謝罪以上にこれからの日本の姿勢や行動が大事だ」。
この言葉を聞いた時、昔、祖父から聞いたエピソードを思い出した。
戦中、小学校で韓国・朝鮮人生徒をいじめた経験がある私の祖父は、戦後、朝鮮半島に対して贖罪意識を持っていたという。アジア女性基金が発足したときに知人から話を持ちかけられ、祖父は「償いができる良い機会だ」「国家ではなく、個人で募金できるからこそ、個人的な思いも届けられる」と考え、当時の金額にして3千円を募金したという。
祖父の償いは募金だけでは終わらない。1970年代後半になると祖父は大阪市立大学で英語を教えるようになった。大学の夜間部には貧しい家庭の学生が多く集まり、そのほとんどが大阪にある猪飼野地区に住む在日韓国・朝鮮人学生だった。「学校では、彼らには特別親切に接した」「午後9時に授業を終えた後も、前置詞さえわからない(在日)韓国・朝鮮人学生に中学英語を教えることなんかもしていた」。
「後ろめたい気持ちがあったから、直接謝罪したり、植民地時代の話をしたりすることはなかった」。贖罪意識を抱えながらも韓国人や朝鮮人に多くを語らなかった祖父。
ただ、加害国に生きた1人の日本人として、贖罪意識はいつも心の底にあり、それを行動で実践してきた。歴史問題はどこかで終止符が打たれるものではなく、次世代を担う我々も心に留めておくべき問題ではないだろうか。
(おわり)
笹山大志(ささやま・たいし)1994年生まれ。立命館大学政策科学部所属。北朝鮮問題や日韓ナショナリズムに関心がある。韓国延世大学語学堂に語学留学。日韓学生フォーラムに参加、日韓市民へのインタビューを学生ウェブメディア「Digital Free Press」で連載し、若者の視点で日韓関係を探っている。