新興国向け20ドルの「Nokia105」:マイクロソフトはいつまで格安携帯電話の製造を続けるのか?
マイクロソフトは2015年6月、フィーチャーフォン「Nokia105」を発表した。
かつてフィンランドのNokiaは「携帯電話の代名詞」だった。ところがNokiaはスマートフォンの開発に乗り遅れ、業績は大幅に悪化し、2013年9月にマイクロソフトが54.4億ユーロ(当時約7130億円)で買収することを発表し、2014年4月に買収が完了した。
マイクロソフトとしても当時スマートフォンOSの競争でAndroidやiOSに大きく差をつけられていた「Windows Phone OS」の復活を狙って、当時世界最大だった携帯電話メーカーNokiaの買収を行った。但し、現在でも世界中のスマートフォン市場ではAndroidとiOS(iPhone)でシェア95%以上で、スマートフォンOSの2強を崩すことはできていない。
新興国市場ではまだスマートフォンよりもフィーチャーフォンの方が人気がある。インドでは携帯電話出荷台数に占めるスマートフォンの割合は年々増加しているものの、まだ35%程度である。残り65%はフィーチャーフォンである。その理由はフィーチャーフォンの方が安いからだ。
(表)インドにおける携帯電話出荷数のスマートフォンとフィーチャーフォンの比率推移
(IDCインド発表資料を元に作成)
■今でも世界で年間約2億台出荷するマイクロソフト(Nokia)
今回マイクロソフトから販売される「Nokia105」もインドではいわゆる「1,000ルピー端末」と呼ばれて、20ドル前後の端末である。
「Nokia105」は2Gのみに対応し、音声通話(電話)とショートメッセージ(SMS)程度しか利用できない。それでも新興国市場では「Nokiaの100番台」は現在でも大人気である。新興国市場でニーズが高い「デュアルSIM対応」(1台の端末に2枚のSIMカードを挿入して利用できる)、充電のための電気が少ない地域においても利用されるよう充電時間が長持ちである。「Nokia105」は35日間電池が持つことがウリである。
またかつて「携帯電話の代名詞」だったNokiaは先進国だけでなく、新興国でも大人気だった。そのため現在でも新興国のあらゆるところに販売チャネルやマーケティングのノウハウ、高い知名度(ブランド力)を持っている。NokiaのフィーチャーフォンはWindows Phoneスマートフォン「Lumiaシリーズ」よりもフィーチャーフォンの方が圧倒的に人気が高く、アジアやアフリカ、中南米などの新興国市場では現在でも多く出荷されている。
実際、2014年1年間に出荷された携帯電話の出荷台数では「Nokiaブランドのフィーチャーフォン」を提供しているマイクロソフトは世界で3位で約1億8,566万台(シェア9.9%)出荷している。
それでも2013年にはマイクロソフトは約2億5,000万台(シェア13.9%)を出荷していたので、いまだに世界3位とはいえ出荷台数、シェアは減少しつつある。その背景には世界中でのスマートフォンの低価格化と、廉価版スマートフォンにも関わらず充電の持ちが良い端末が登場しているからだ。特にインドでは地場メーカーが「Firefox OS」を搭載した30ドル台のスマートフォンを市場に投入してきた。このような低価格スマートフォンはマイクロソフトにとっては強敵である。
(表)2014年の携帯電話出荷台数とメーカー別シェア
(ガートナー発表資料を元に作成)
■どうする「薄利多売の格安端末」
マイクロソフトはNokia買収の本来の目的であったWindows Phoneスマートフォンの普及はうまく進まないものの、新興国向けのローエンド端末(フィーチャーフォン)の出荷はNokia時代からの販売チャネルやブランド力を武器にして、それなりの台数が出荷されている。しかし20ドルの携帯電話端末の利益率は非常に良くない。いわゆる薄利多売の端末で、メーカーとして決して「美味しい端末」ではない。
マイクロソフトはこれからNokiaブランドの新興国向けローエンド端末をどうするのだろうか。薄利多売の格安携帯電話の製造と販売をいつまで続けられるのだろうか。
現在でも新興国を中心に約2億台の端末がマイクロソフトから出荷されている。Nokiaブランドの格安携帯電話を求めている人が世界中にはまだたくさんいることの証左であろう。マイクロソフト(Nokia)以外に、新興国向けのローエンド端末を大量に製造して販売できるメーカーもほとんどない。
さらに30ドル前後の格安スマートフォンがこれからも地場メーカーなどから大量に生産、出荷されてくることだろう。マイクロソフトがWindows Phoneスマートフォンでそれらに価格面で戦いを挑むのは無謀である。これからマイクロソフトのNokiaブランド携帯電話はどこに向かっていくのだろうか。
▼マイクロソフトが発表した「Nokia105」
Nokiaの100番台は、10年以上前から世界中で格安携帯電話の代名詞でもある。
(出典:マイクロソフト)