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「外出自粛を無視して賑わう商店街」報道は真実? "密"の演出を検証してみた

塙真一フリーフォトグラファー
(写真:塙真一)

日々の報道に見られる商店街の人混みは本当にその通りなのか?

 テレビや新聞では、緊急事態宣言発令後にどれほどの人出があるかという報道を毎日のようにおこなっています。その報道を見る限り、休日の商店街などは新型コロナ禍以前とあまり変わりのないほどの人出に見えます。なるべく外出を控え、家でじっとしている人から見たらなんとも信じられない状況にも思えます。

 ですが、その報道で見せられている写真や映像自体がある種の視覚効果を利用して現実以上の「密」を作り出している可能性もあるということも知っておくと良いでしょう。カメラのレンズを替えることにより、遠近感をコントロールすることができるということです。

広角レンズは遠近感を強調し望遠レンズは遠近感を圧縮する

 具体的に言えば、レンズの焦点距離と画角によって、人混みの見え方は変わってくるのです。広角レンズを使えば遠近感が強調され、近くのものと遠くのものはより離れて見えます。逆に、望遠レンズを使えば近くのものと遠くのものがまるですぐそばにあるように遠近感が圧縮されます。

 つまり、広角レンズを使えば、人混みでもあまり人びとが密集しているようには見えず、望遠レンズでは人と人との前後の距離を現実以上に「密」に見せることができるのです。

レンズを替えて遠近感の違いを検証する

 今回、広角、標準、望遠、超望遠という4種類のレンズの焦点距離を使って遠近感の感じ方を比べてみたいと思います。実際に商店街で撮影することも検討しましたが、筆者自身が外出自粛中であることと、今回の目的がどれだけの人混みかどうかではなく、レンズを替えると見え方が変わるということなので、自宅そばにある鉄道の踏切から電車の電柱と架線を撮ってみることにしました。(撮影は歩行者専用の踏切にて、踏切の警報器が鳴っていないときに手持ちで撮影しています)

広角レンズ(24mm)での見え方(写真:塙真一)

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まずはもっとも遠近感が強調される広角レンズで撮影した写真です。線路の両脇に立てられた電柱は約50m間隔ですが、それ以上に間隔が空いているように感じます。同じ間隔にあるものでも肉眼で見る以上に距離が遠いように見えるのが広角レンズの特徴です。

標準レンズ(50mm)での見え方(写真:塙真一)

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次に標準レンズといわれる50mmという画角での写真です。標準といわれるように、肉眼で見ている距離感に近くなります。実際に撮影した筆者にとっても一番リアルな距離感に写っている写真だと感じました。

 

望遠レンズ(300mm)での見え方(写真:塙真一)

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撮影場所は上の2枚とまったく同じですが、遠近感が圧縮されて、電柱同士の間隔はとても近いように感じます。とても約50mの間隔には思えません。電柱と架線がずいぶん「密」になってきた印象です。

超望遠レンズ(600m)での見え方(写真:塙真一)

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超望遠レンズでの撮影になると、もはや電柱や架線同士がくっついて見える箇所もあるほどです。電柱が「密」状態だと感じられます。この超望遠レンズで商店街の人たちを撮ったらどうでしょう。実際の混み具合以上の密集感を出すことができるのではと思います。

 上記4枚の写真を見比べていただければ、レンズの違いによって同じ間隔に置かれたものでもその遠近感はずいぶん違うことが理解いただけるかと思います。今回は写真での比較でしたが、これは映像でも同じ効果となります。

 日常、テレビや新聞で目にする商店街や街の「密」ですが、撮影者や報道者の意図によって見た人の印象をコントロールすることも可能となるわけです。もしかすると注意喚起という目的であえて「密」に見えるようにしているのかもしれません。

 写真を作品として捉えるとこのような遠近感のコントロールも表現の上で必要になってくることもあります。しかし、報道という観点でいえば遠近感をコントロールすることで視聴者を惑わせるのではなく、事実を的確に伝えられるようなレンズ(画角)で撮影してもらいたいという思いはあります。

 今回はあくまでも擬似的な被写体を使っての検証でしたが、写真や映像は必ずしもそれを見た人の印象がそのまま真実であるとは限らない、ということを知っていただければと思います。

 そして一日も早い新型コロナの終息を祈ります。

フリーフォトグラファー

東京都出身。人物をメインの被写体とするフリーランスのフォトグラファー。カメラ誌に写真や記事を寄稿するほか、役者、タレント、政治家などの撮影も行う。また、海外での肖像写真撮影、街風景のスナップ、夜の街を撮る「夜スナ!」をライフワークとする。写真展の開催も多数。

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