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ポストシーズンでのクローザーの早期投入は是か非か?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ポストシーズンでは何度も複数イニングを投げたチャップマン投手(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

もう2016年シーズンが終わって1ヶ月以上が経過してはいるのだが、ポストシーズンについて振り返ってみたい。

というのも今年のポストシーズンで、今後のMLBのトレンドを変えるかもしれない起用法が飛び出したからだ。ドジャースとカブスが採用したクローザーの早期投入だ。

両チームともにアロルディス・チャップマン投手、ケンリー・ジャンセン投手という絶対的クローザーを有していたが、ポストシーズンでは彼らを単なるクローザーの役目だけに留めず、セットアッパーも兼任する複数イニングを任させる起用法を採用してきたのだ。

改めて振り返ると、チャップマン投手はポストシーズンで13試合に登板し、10月22日のドジャースとのリーグ優勝決定シリーズ第6戦以降の6試合のうち5試合で複数イニングを投げ、またジャンセン投手は7試合中5試合で複数イニングを任され、計11.2イニングを投げている。

実は両チームともに、ポストシーズン中はリリーフ陣に多少の不安要素を抱えていた。シーズン中にセットアッパー役を務めていた投手たちが故障上がりだったり調子を落としていたため、決して盤石の継投ができる状態ではなかったのだ。そのため安全策として、信頼のおけるクローザーに複数イニングを託す道を選択したわけだ。

また2投手ともに、シーズン中に極端な登板過多になってはいなかった。チャップマン投手の場合、シーズン中の総投球数は976球でリリーフ投手としてフル回転し始めた2011年以降では3番目に少ない球数(最多は2012年の1203球)であり、ジャンセン投手も1002球で、リリーフ投手としてフル回転し始めた2011年以降こちらも3番目に少ない球数(最多は2013年の1245球)だった。さらに2人ともまだ20代で、短期間での回復が期待できるという面も考慮されていたはずだ。

もちろんシーズン中では絶対に考えられない、短期決戦ならではの奇策ともいえる起用法だ。クローザーによっては契約に「1試合4アウトまで」とか「シーズン中の4連投は禁止」などの条項が加わっている投手もいるなど、試合の勝敗を握る専門職だけにその起用法はかなり難しい面があるのも否定できない。

さらに短期決戦で複数イニングを任せることはクローザーの負担を増やすことになり、ワールドシリーズ第7戦でチャップマン投手がセーブに失敗したように、クローザーのコンディションを正確に把握できなければ、大きなリスクを伴う諸刃の剣ともいえるものだろう。だが今年のポストシーズンを見る限り、その起用法はチームの期待通り、ある程度の成果を上げていたのも事実だ。

そしてこの起用法を経験した両投手が、対照的な反応を見せているのも興味深い。

このオフにいずれもFA選手となり、まずチャップマン投手はトレード前に所属していたヤンキースへの復帰を決め、その入団会見でカブスの起用法に疑問を呈する発言を行った。一方ジャンセン投手はシーズン終了してから公の場に登場していないが、他チームから大型契約のオファーを受けながらも、ドジャースとの再契約の道を選んだ(まだ成績発表に至っていない)。もしポストシーズンの起用法に疑念があったのなら、ドジャースへ戻ることはなかっただろう。

いずれにせよ、シーズンとポストシーズンで戦い方に変化が生じるのは、当然といえば当然だ。カブス、ドジャースが採用したクローザー重視の起用法が、今後はますますクローザーの存在価値が増していくことになるかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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