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中国は中朝同盟を破棄できるか?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
軍事力を誇示する北朝鮮(写真:ロイター/アフロ)

中国が北朝鮮に対して持っているカードには、石油の輸出を止める以外に、中朝軍事同盟を破棄するという選択もある。中国共産党系新聞の環球時報は5月4日、その可否に関して論じている。

◆環球時報が社説

5月4日、中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」が「中朝友好互助条約 中国は堅持していくべきなのか?」という社説を載せた。中朝友好互助条約は1961年7月11日に調印された条約で、第二条に「両締約国は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」という「参戦条項」がある。そのためこの条約を「中朝軍事条約」と呼ぶことが多い。

第一条には「両締約国は,アジア及び全世界の平和並びに各国人民の安全を守るため,引き続きあらゆる努力を払う」という条項がある。ここでは暫時、中朝条約と略記することにしよう。

20年ごとの更新で、これまで1981年、2001年に更新されてきた。現在は2021年まで有効ではある。

社説は以下のように書いている(概要)。

――朝鮮半島問題が深刻化するにつれて、中朝条約は如何なる役割をしているのか、北京はこの条約に対していかなる考え方でいるのかに関して、早くから中国国内外の学者から議論が噴出していた。

たしかにこれまで、中朝条約があるために朝鮮戦争以来、朝鮮半島で戦争が起きるのを防ぐ役割は果たしてきた。米韓が朝鮮半島を統一してしまおうとしても、中国の軍事力を考えて抑制してきた要素はある。中国にとっては、米韓と北朝鮮の間で戦争が起きたときに、そこに巻き込まれてしまうという不利を招くものではあるが、この役割を考えると、「ないよりはいい」と考えられてきた側面は否めない。

しかし北朝鮮は核を保有しようとして、自ら地域の安全を破壊し、中国の国家安全を損ねており、この行動は明らかに中朝条約の主旨に違反している。国連安保理の決議に反して核・ミサイルの開発を強化し米朝の軍事的衝突を惹起しているのも条約違反だ。

北朝鮮は核実験やミサイル開発を停止し、米韓は北朝鮮を攻撃するための軍事的威嚇を停止しなければならない。

万一米朝間に戦争が発生したら、隣接する中国は大きな被害を被るリスクを常に孕んでおり、中国としてはどの国が中国の利益を損ねるような行動をしたとしても、絶対に反対する。

中国は決して自国の東北地方(黒竜江省、遼寧省、吉林省)が北朝鮮の核実験で放射能汚染されることを容認することはできない。

どの国も中国を追い込むことはできず、ひとたび判断ミスを起こしたら、中国の決心と爆発力は、大きな代償を支払わせることになるだろう。

おおむね、このような内容で、タイトルの割には激しく「中朝条約を破棄すべきか?」というところまで直接踏み込んだ表現をしていないが、「破棄すべきではないか」という中国の姿勢を中国共産党系の環球時報が表面化させた意義は大きい。

◆中朝軍事同盟破棄論は2003年から出ていた。

筆者は「その昔」、中国政府のシンクタンク中国社会科学院の社会学研究所で客員教授&研究院を務めていたことがあるが、それが終わる頃の2003年、同じ中国社会科学院の「世界経済と政治研究所」の学者が「中朝条約の第二条(参戦項目)を削除すべきではないか」という論文を出していた。

中国政府のシンクタンクではあるが、必ずしも政府からのトップダウンの研究ばかりではなく、胡錦濤政権時代は(2008年までは)、割合に自由な意見を中国政府に対して提案する形の論文が許されていた。筆者の研究室は北京の北京国際飯店の二軒隣りにある本部の10階にあったが、たしか「世界経済政治研究所」は、その下の階にあったように記憶する。

エレベーターや食堂などで一緒になったりなどして、この論文に関して話し合ったこともある。

それは中朝条約破棄ではなく、中朝条約の第二条の「参戦項目」を削除して中朝軍事同盟から逃れないと、中国の国益に反するし、国連安保理常任理事国なので、そこにおける決議に支障を来して、国際社会における中国の立場を損ねるというものだった。

以来、中国の内部では、中朝軍事同盟を破棄すべきか否かというのは、そう突飛な、口にしてはいけないタブーのような存在ではなくなってきていた。

◆中朝軍事同盟を破棄したら、何が起きるか?

大きく分ければ、中国はいま北朝鮮に強烈な二枚のカードを持っている。

一枚目は前のコラムで書いた「断油」。すなわち北朝鮮への石油の輸出を完全に断つことだ。

二枚目が、この、中朝軍事同盟の破棄である。

習近平政権になってから、ただの一度も中朝首脳会談を行っていないので、事実上、中朝関係は終わっているに等しい。それでも2016年7月11日には、互いに祝電だけは送っている。皮一枚のつながりだ。最後に望みをかけてみたのかもしれない。

しかし今年4月6日、7日の米中首脳会談以降、米中蜜月となってしまった今では、中朝軍事同盟の破棄は北朝鮮に強烈な威力を発揮することになろう。つまり北朝鮮を絶望的なほど恐怖に追い込むだろうということだ。

この二つのカードを使ってしまうと、「威嚇」にならないので、「使うぞ」と見せつけながら北朝鮮を追い込み、「核拡散防止条約」参加を大前提として対話のテーブルに着かせることが肝要となる。アメリカは休戦協定を平和協定に持っていき、朝鮮戦争を完全に終わらせること。これが中国の望みではある。

しかし、二枚のカードを共に使ってしまえば、後は戦争になるにちがいない。これは宣戦布告に等しい。

その時にも、中朝軍事同盟がなければ、中国はいざとなったらアメリカ側に付き、米朝で北朝鮮を管理する政権を打ち立てることもできなくはない。ただ、この道を選ばないだろうと判断されるのは、日米同盟があるからだ。中国は、日本とはどんなことがあっても「組む」ことはない。

米露が完全には接近できないのも、日米同盟があるからだ。

こうしてパワーバランスが取れているという見方もでき、着地点は中国がこの二枚のカードを「さあ、使うぞ」と見せて、米朝を対話のテーブルに着かせることしかないだろうと筆者は思っている。

ただ「破棄するかもしれない」というメッセージを環球時報が公開した事実は、非常に大きい。

トランプ大統領の要望に応えた回答が、これだったのではないだろうか。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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