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サウジ施設への攻撃で石油価格が20%急騰 爆撃用ドローンを輸出する「死の商人」中国の影

木村正人在英国際ジャーナリスト
ドローンに攻撃されたサウジアラビアの石油施設(写真:ロイター/アフロ)

原油価格が20%も上昇

[ロンドン発]中東のイエメンで活動する親イラン武装組織フーシ派が今月14日、無人航空機(ドローン)10機でサウジアラビアの石油施設を攻撃したことを受け、原油価格が最大で20%も上昇しました。英紙フィナンシャル・タイムズなどが報じました。

2001年9月11日の米中枢同時多発テロに匹敵する価格上昇だそうです。

サウジのアブドルアジズ・ビン・サルマン・エネルギー相は無人機の攻撃で生産が同国全体の半分に相当する日量570万バレルも減ったと述べています。世界の石油供給量の5%以上に当たるそうです。

これを受けて、米国のドナルド・トランプ大統領は「十分な供給量を確保するため、戦略的備蓄からの石油放出を許可した」とツイート。

「われわれは犯人を知っている。サウジが、誰が攻撃したと信じているのか、そしてどのような条件でわれわれが対応するのか聞くのを待っている」

マイク・ポンペオ米国務長官が「サウジに対する100件近い攻撃の背後にはテヘラン(イランの首都)がいる。状況が悪化しないよう世界が求めているのに、イランは世界のエネルギー供給に前例のない攻撃を仕掛けている」とツイートしたのに比べると、トランプ大統領は慎重です。

ポンペオ長官は「われわれはすべての国に公然かつ明確にイランの攻撃を非難するよう呼びかける。 米国は、エネルギー市場に供給が十分に行われ、イランが攻撃に対して責任を取ることを確実にするために、パートナーや同盟国と協力する」ともツイート。

12カ国がドローン攻撃を実施

中東情勢は複雑怪奇です。米国の支援を受けたイスラム教スンニ派の雄サウジがフーシ派を攻撃。これに対してイスラム教シーア派の雄イランの支援を受けたフーシ派が反撃に出て、対抗能力を示すのに成功したというのが大方の見方でしょう。

日本の中東への石油依存度は約9割。原油輸送の大動脈である中東ホルムズ海峡などの航行の安全を確保する米国主導の有志連合構想「センチネル(見張り兵)作戦」に慎重な日本にとって状況は厳しくなる恐れがあります。

筆者はフーシ派が攻撃に使ったドローンがどこから提供されたのかに興味があります。6年前まで、ミサイルを搭載した武装ドローンを積極的に運用する国は米国、英国、イスラエルの3カ国に限られていました。

英民間団体「ドローン戦争(Drone Wars) UK」によると今年6月時点で中国、イラン、トルコ、パキスタン、イラク、サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、ナイジェリア、アルジェリア、ウクライナ、カタールの計15カ国と非国家主体に拡大しています。

すでに武装ドローンで攻撃を実施したことがあるのは12カ国と非国家主体で、このうち8カ国が自国の領土を越えて使用していました。武装ドローンを輸出しているのは米国、イスラエル、中国、イラン、トルコの5カ国です。

間もなく武装ドローンを保有する能力を獲得する国が12カ国もあり、武装ドローンを運用する国や非国家主体は一気に28に達する見通しです。

爆撃用ドローンの輸出大国・中国

爆撃用ドローンの輸出大国・中国はCHシリーズとWing Loong(翼龍)シリーズのドローン開発を進めています。

Wing Loongシリーズの国有航空機製造企業グループ、中国航空工業集団(AVIC)は昨年12月、100を超えるWing Loongの機体を輸出したと発表。中東での中国製ドローンのプレゼンス増加が何度も取り上げられました。

中国の人民解放軍(PLA)は2つの新しいドローン・システムを配備すると報じられています。

・昨年8月、中国のアクス空港で飛行高度が3000~9000メートルに達し、24~48時間の連続滞空が可能(MALE)な無人航空機8機が確認された。衛星画像ではWing Loong IIかCH5とみられる

・米国製MQ1プレデターを模倣したWing Loong II は空対地ミサイル12発を搭載できる。全長11メートル、翼幅20.5メートル、時速370キロメートル、高度9000メートル、航続時間は35時間とされる

・CH5は最大16発の空対地ミサイルを搭載できる。全長11メートル、翼幅21メートル、時速300キロメートル、高度7000メートルで航続時間は39~60時間。戦闘行動半径は1000キロメートルとされる

・昨年のアフリカ航空宇宙防衛展示会で、電動VTOL (垂直離着陸型)無人航空機Blowfish(日本語ではフグという意味)のメーカーは、Blowfishが人民解放軍の海軍で使用されていることを明らかにする

・昨年12月、Wing Loong I-Dが初飛行。全長8.7メートル、翼幅17.6メートル。 10発のミサイルを搭載できる外付けのハードポイントが4つあるとされる

・香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、中国航空工業集団によってつくられたYaoying 2(Sparrowhawk II)無人航空機が昨年7月に初飛行した

中東を席巻する中国の爆撃用ドローン

一方、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータベースによると、中国製の爆撃用ドローンを調達している国は次の通りです。

UAE 40機

サウジ35機

パキスタン25機

ミャンマー12機

エジプト10機

アルジェリア10機

ヨルダン6機

ナイジェリア5機

ウズベキスタン5機

インドネシア4機

イラク4機

カザフスタン3機

トルクメニスタン2機

UAEは、イエメンのフーシ派に対する攻撃で中国製のWing Loongを使用していることが何度も報道されています。トランプ政権は中東の空がメイド・イン・チャイナのドローンで覆われることを恐れています。

「ドローンの開発は日進月歩」

自国の武器輸出管理法に違反するため米国が武装ドローンを輸出できなかった中東・アフリカ諸国が中国の主な輸出ターゲットになっています。米軍需産業のロビー活動を受け、トランプ米政権は武装ドローンの輸出規制を若干、緩和しました。

当初、ドローンの使用はプロパガンダの域を出ませんでしたが、次第に監視・偵察活動だけでなく、即席爆発装置(IED)を搭載した攻撃兵器としても使われるようになりました。

サウジの石油施設を攻撃したドローンは、既製品の中国製DJIファントムを改造したり、独自開発したりしたものより、攻撃能力は高そうです。

親イラン武装組織フーシ派はイラン製か、イラン経由で中国製の爆撃用ドローンを手に入れたと見るのが一番、妥当ではないのでしょうか。

ドローンや人工知能(AI)の軍事利用に詳しい米空軍出身のセーラ・クレプス米コーネル大学准教授は筆者にこう語っています。「有人戦闘機の開発には二十数年の歳月と莫大な費用がかかる。これに対してドローンの開発は日進月歩だ」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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