【ACLプレビュー】日韓比較から見る、26日の浦和レッズに「取り戻してほしいもの」
日本3、韓国2、中国3。
2019年AFCアジアチャンピオンズリーグの東アジアブロックでの”国別グループリーグ突破チーム数”だ。
25日から始まっているラウンド16の第2レグでこの8チームが半分に減る。日本と中国はこの段階で同国対決(日本は鹿島アントラーズーサンフレッチェ広島)が1つずつ行われているため、確実に1チームが大会を去るのだ。※本稿アップ時に広島の敗退が決定。
韓国は最大で2つが勝ち上がる可能性があるが、逆にゼロとなる可能性もある。
このうち、浦和レッズと蔚山現代の対決に注目してきた。
事業規模では日本最大級のビッグクラブが、韓国の2番手グループの精鋭(韓国は全北現代が”1強”と言える時代に入った)とどう戦うのか。
19日の第1レグでは、浦和がホームで1-2の逆転の逆転負けを喫した。26日のアウェーゲームでは2点差以上で勝ってこそ、無条件の勝ち上がりという厳しい状況だ。
韓国側の視点から初戦を取材をしつつ、思うところがあった。
「先制を許したことが、結果的にはこちらに良く作用した」キム・ドフン蔚山監督
19日のさいたまでの初戦後の両チームの監督会見は、なんとか言葉を引き出そうとするメディア側と、情報を口にしたくない監督の”攻防”のような状態になった。第2戦がまだ残っているとあっては、致し方ないところもあった。
蔚山監督のキム・ドフン(元ヴィッセル神戸)は37分に先制を許した直後に、左右アウトサイドの選手のポジションを替えた理由を日本メディアから聞かれるや
「そう、したかったんです」
と言い放った。
筆者からも「ゲームプランはどれほど的中したのか」と聞いてみたが、「選手たちがよく戦ってくれた」といった内容に逃げられた。
ただ、キム・ドフン監督は取材エリアでは「多くの前で喋りたくなかった」といい、こんな言葉を口にしていた。
「浦和に先制を許したことが、結果的にはこちらに良く作用した。攻撃に出ないといけなくなったので」
蔚山は試合開始時から5枚、時には6枚にも見える守備ラインでブロックを築き、慎重な戦いを見せた。
しかし37分に浦和がこれをこじあけ、杉本健勇のヘディングシュートで先制した。
その後、蔚山の左右両サイドのポジションチェンジが奏功。42分に左に移ったイ・グノのクロスからゲームは振り出しに戻った。
蔚山はアウエーゴールを獲ったことで強気になったか、後半は4-4-2に変更し、36分にカウンターから決勝ゴールが生まれた。
過去のことを振り返っても仕方がないが、蔚山にとってこの結果は”歴史的”といえるものだった。
ACLの日本でのアウェーゲーム勝利はじつに06年に東京ヴェルディに勝って以来だったという。その後の13年間で6試合を戦って3分3敗だった。ちなみに蔚山は近年のACLでもアウェーゲーム自体の成績が決してよくなく、2年間で7試合を戦い5分2敗。19日の浦和戦はじつにACLアウエーゲーム770日ぶりの勝利だったという。
2012年の柏レイソルに始まった、”新しい潮流”
何が言いたいかというと、第1ラウンドでの結果は、日韓の近年のACLで繰り返されてきた、韓国側のこの話が蒸し返されたことでもあるのだ。
”日本はパワーで封じ込めば、最後にはなんとかなる”
第1ラウンドの蔚山もまた、「ゴール前を封じておけばなんとかなる」とプランを練ったが、それが崩れた。すると「力技で攻めていけばなんとかなる」と別の手を打ち、思う結果を手にしたのだ。
ちょっと嫌な過去を思い出した。
ACLの歴史では、06年、07年の浦和レッズ、ガンバ大阪のACL連覇以降、10年近く韓国優位の時代が続いた。
そこでは、韓国のパワーに日本の技術が封じられる、という姿が繰り返されてきた。韓国勢は09年から13年まで5年連続でファイナリストとなった。その間、日本は一度もなしだった。
風穴を空けたのが、2012年と13年に出場した柏レイソルだ。当時もネルシーニョ監督が率いたチームは「韓国キラー」と言われた。当時韓国最強だった水原三星にアウェーで6-2と大破したこともあった。
なぜ可能だったかというと、「日本側からもぶつかり返す」という手を打ってきたのだ。リーグ戦よりも少し高めのインテンシティで臨む。「ACLモード」を採り入れたチームの最初の事例だった。
浦和レッズも同じく、「ACLモード」を知るチームだ。
2017年、優勝した年にDF槙野智章がこういった話を繰り返していた。
「日本の選手より、韓国の選手のほうが多くピッチに倒れていたでしょ?」
Jリーグよりも強めに相手にぶつかっていく。2013年から度々ACL出場を果たしてきた中で得た、”経験値”だという。
さらに昨年、優勝した鹿島アントラーズがACL日韓対決で大きな勝利を挙げた。
水原三星ブルーウィングス相手にホーム初戦で一時は2点差をつけられながら、2戦トータルで大逆転勝利。
相手キャプテンのヨム・ギフンは涙ながらにこう口にした。
「鹿島はこれまで対戦したJリーグクラブとは違った。DFラインから直接前線にボールをつけてきた。この点がむしろスーウォンを苦しめたと思う。仮に中盤でもっとつないできたら、プレスで制圧する方法が通じたんですけど……」
力を力で制することもできる。偉大な勝利だった。
26日の蔚山戦「先制すれば、相手は逆に焦る」
”力強いJリーグクラブ”は、25年の歴史を経て、競技力の面で発展した姿だと思いたい。
しかし、2019年の現在を戦う浦和レッズは、初戦で蔚山の「力技」に屈してしまった。
早くも元に戻るのか。試合にはそんな興味もある。
じつのところ、韓国側も日本対策に必死ではある。浦和がグループリーグで2敗を喫した全北現代モータースのレジェンド、FWイ・ドングは今年の対戦時にこんな話をしていた。
「浦和はグループリーグ最大のライバルだと思っている。日本の技術は本当に高くて、プレスをかけて戦うしかない」
とはいえ、ここまで相手のパワーに屈しているといる事実に変わりはない。浦和レッズは今年、韓国勢にここまで3敗を喫しているのだ。
26日の試合の前日練習で、DF槙野智章は試合展開の予想をこう口にした。
「蔚山は毎試合のようにメンバーを替えてきているので、どんな布陣でどんなサッカーになるか分からない。しかし、自分たちにゴールが必要なのは分かっていること。もちろんこちらが守るような戦いは得ではないことは明らか。相手をこじ開けるような強い戦いを見せたい」
強く、相手にぶつかった上での勝ち上がり。これが期待することだ。
「こちらが早い時間に先に1点取れば、逆に相手が焦る」
興梠慎三、西川周作らはこういった内容も口にした。アドバンテージが一気に減り、追い詰められるだろうと。
確かにそういった面はある。蔚山現代は昨年の同じラウンド16で、同国の水原三星相手にホームで1-0の勝利を挙げながら、第2戦で0-3と大敗を喫し、大会を去った。昨年とはホームとアウエーの状況こそ違えど、相手の焦りを生み出すことは十分に可能だ。
初戦で相手に与えた勝利は歴史的だった。しかしここで逆転すれば歴史の風はこちらに向く。
技術を捨てろ、という話ではない。上手いうえに、強ければそれは最強だろうということだ。日本サッカーが韓国としのぎを削るなかで、この点こそが得られるものだ。