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尖閣接続水域進入は中露連携なのか?――中国政府関係者を直撃取材

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
ロシアのラブロフ外相と中国の王毅外相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

8日から9日にかけての中露海軍艦艇による尖閣諸島接続水域進入には中露連携はあったのか?中国のメディアは「日本は中露が連携したとは、どうしても認めたがらない」と報道。そこで中国政府関係者を直撃取材した。

◆中国メディアの報道

日本の防衛省によると、6月8日午後9時50分ごろ、ロシア海軍の駆逐艦など3隻が尖閣諸島の久場島と大正島の間を南から北に向かって航行しているのを海上自衛隊の護衛艦が確認し、9日午前0時50分ごろ、中国海軍のフリゲート艦1隻が沖縄 県の尖閣諸島の久場島の北東で、日本の領海のすぐ外側にある接続水域に入ったのを確認したとのこと。

これに関して、日本のおおかたのメディアは、ロシアの艦艇3隻は通常の「軍艦に関する無害航行」であり、これまでにもあったことから大きな問題ではないとする一方、中国の軍艦が尖閣諸島周辺の接続水域に入ったのは初めてで、これまでの中国国家海警局の巡視船による進入とは違うと警戒しているというものが多い。

日本政府の見解も、おおむねこの範囲内にあり、ロシアに対しては外交ルートを通した注意喚起に留めたのに対し、中国に関しては真夜中の2時に程永華・中国大使を呼びつけて激しい抗議をしたようだ。尖閣諸島の領有権は日本にあるので、自国の領土だと主張する中国に対して厳しく処するのは良いことだ。

ただ、これら一連の動きに対して、中国のメディアは異口同音に「日本は中露が連携したとは、どうしても認めたがらない」とか「認めてしまうと日本が中露連携によって孤立化させられていることを認めざるを得ないからだ」と書き立てている。

◆実際はどうなのか?――中国政府関係者を直撃取材

少しでも実態に近づきたいと思い、中国政府関係者に連絡し、単独取材した。

「中国のメディアは、“日本が認めたがらない”という言葉を仲介して、まるで中露連携があったように書き立てているが、中国が実際にどのような行動に出たのかに関しては書いていない。実際はどうなのか」という旨の質問をぶつけてみた。

すると、以下のような回答が戻ってきた。

●現象を見れば、説明するまでもないだろう。一目瞭然ではないか。中国がなぜ、手の内を明かさなければならないのか?

●そもそも中国とロシアの間には「中露戦略合作(協力)パートナーシップ」がある。戦略的に何も話し合わないと考えるのは、むしろ奇妙なことだ。

●もちろんロシアという国は、自国の利益しか考えない国だ。中国が南シナ海問題で日米を中心とした西側諸国から非難されようと、自分の利益に関係ないと思ったら、一切関わってこようとしない。アメリカと余計な摩擦を招くことを嫌うからだ。

●しかし、G7の動きを考えてみてくれ。ついこの間まではG8だった。そのロシアを、ウクライナ問題を口実にG8から追い出したのはアメリカだ。日本はそのアメリカに追随しているではないか。今般の出来事が、G7が終わって間もない時期であったことに注目してほしい。

◆どちら側が誘ったのか?

「では、ロシア側から話があったのですか?」

筆者は食い下がった。すると相手は、「いやなことを聞くな」という語調になりながらも、次のような説明をしてくれた。

●中国が、ロシア海軍の動きを知らないということは、逆に不自然だろう。ロシア海軍は、世界の各地でさまざまな軍事演習を行っている。これまでもよくあることだが、今回は3月に東南アジアで反テロ対策の国際的な軍事演習に参加していて、自国に帰る途中だった。

●覚えているだろうか?3月10日、全人代開催の真っ最中に、王毅(外相)が突然姿を消してロシアに行きラブロフ(外相)と会っただろう? なんであの厳粛な全人代を中断してまでロシアに行かなければならなかったと思っているんだい?北朝鮮の問題だけだと思ったかもしれないが、実は3月下旬にはロシアの大型対潜艦アドミラル・ヴィノグラードフなど3隻がウラジオストックを出航して南シナ海に向かうことになっていた。出航前のさまざまな打ち合わせがあったと見ていいだろう。日本はどこを見ているのかなぁ……。

●実はロシアはかつて(2013年)、南シナ海で中国に不利な発言をしたことがある。それを食い止める意味もあっただろう。今ではアメリカがウクライナ問題を使って「国際社会での虐めっ子ごっこ」のようなことをするから、中露の意気が投合しても不思議ではないだろう。G7では、関係のないヨーロッパ諸国まで巻き込んで、南シナ海問題を批難したりしたんだから、中露の利害が一致するところに追い込んだのはアメリカさ。それに追随する日本も悪い。

●特にロシアとしてはバルト海を中心にして6月5日から始まった米軍とNATO関係国による軍事演習には激怒している。アメリカが東ヨーロッパ諸国を煽って、ロシアを牽制するため、かつてない大規模な実弾軍事演習を展開している。そのアメリカに日本が追随するなら、ロシアは容赦しない。

●現に中露両国は5月28日から“空天安全-2016”シミュレーション演習を行なっている(国防部網情報)。中露の利害が一致しないはずがないし、中露が緊密に連携を取ってないはずがないということだ。

●でも、日本は北方領土問題があるから、ロシアの恨みを買うようなことをしたくはないのだろう。だから「中露連携」があったとは認めたくない。中国メディアの報道の意味は、そういうことだ。

以上が取材した結果、中国政府関係者から得た回答である。

たしかに3月10日、全人代開催中だというのに、記者会見を終えた王毅外相は、突然姿を消したことがある。その裏には、このような戦略が隠されていたとは……。

しかし軍事演習関係なら、なぜ外相が行って国防部長(大臣)が行かなかったのだろうか。それを含めた(カモフラージュのための)戦略なのかを聞いてみた。「露骨に分かるようなことはしない」という答えがが戻ってきた。そうだったのか……。筆者にも読み切れなかった。

それにしても、日本側が「中露は連携していただろう!」と厳しく詰問して、中国が「いや、そんなことはしていない」とか「そのようなことを明かす義務はない」といった否定的態度に出るのなら話は分かるが、今回は全く逆で「さあ、疑えよ」と言わんばかりだ。要するに、「いざとなったら中露が連携するぞ」という新たな威嚇なのかもしれない。

少なくとも、背景にある経緯はわかった。そういった要素も頭に入れながら、今後はどのような動きに出るのか、慎重に見極めていきたい。

追記:以上はあくまでも中国政府関係者が「私個人の意見だが」という条件を付けて話したものであり、おまけに「中露連携があった」と断言する言葉は最後まで避けた。したがって「当たらずとも遠からず」といったところか。またロシア外務省は連携を否定しているが、いずれの国も「いくつもの顔」を持っているのが外交の世界。ロシアとしては日本に嫌われたくはなく、日露首脳の交流を通して、アメリカにより孤立化させられている現状から逃れるためにも、親日的姿勢を一方では模索しているものと考えられる。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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