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米国債のイールドカーブは何を示しているのか

久保田博幸金融アナリスト

 3日の米国債市場では、5年債と30年債の利回り格差が、約5年ぶりの大きさに拡大した。米財務省の同日の発表によれば、来週実施される四半期定例入札で長期債の入札規模を増やす計画がないにもかかわらず、スティープ化した(4日付ブルームバーグ)。

 米国の2年債と10年債、5年債と30年債の利回り格差の動向をみて、景気の動向を占う手法がある。しかし、それは需給そのものが影響しているケースもあり、また市場参加者がそれほど的確に景気の先行きを読めるのかとの疑問もあり、この利回り格差が何を示すのかについては言及は避けてきた。

 たとえば物価連動債から推測される期待インフレ率というのも、本当に先々の物価を予測していたのかといえば、疑問である。物価連動債の参加者の層の薄さもあるが、あくまで足下の物価を基にしてはいるものの、需給など他の要因もあって相場が形成されていると思われる。

 とはいうものの、この利回り格差が何らかの兆候を示している可能性を完全には否定できないことも確かではある。先行き予測というよりも、現時点での市場参加者の思惑が示されていると思われる。

 たとえば米国の10年債と2年債の利回りが逆転する逆イールドは景気後退の前兆として知られているとの解説があった。過去には10年債と2年債でこの逆イールドが発生した後に、景気後退に陥ったことがあったのは事実だが、逆イールドが発生したからといって、そこから景気後退が起きると断言できるわけではない。

 今回はその逆で、イールドカーブのスティープニングが生じている。つまり、これは景気拡大を予測してのものなのか。たしかに新型コロナウイルスに対してワクチンへの期待も強い。それ以上にコロナ禍にあっての米国経済が回復していることも確かである。それが利回り格差に反映されている面もあろう。

 しかし、短い金利についてはFRBの金融緩和策によって低位に押さえ込まれ、FRBはたとえ物価が2%を超えても、すぐの利上げは考えていないと主張している。これに対して、米国では大型の経済対策が打たれる可能性が強まっている。つまり米国債の需給には警戒信号が発せられ、それが市場で形成される、より長い利回りに影響を与えているともいえる。

 来週実施される四半期定例入札で長期債の入札規模については、年初時点でのキャッシュバランスが上向いたためという説明がなされている。この計画には議会を通過していない今後の成立される可能性がある追加の経済対策による国債増発は含まれていない。

 大型の経済対策による景気回復への期待もあろうが、今回の利回り格差の拡大はこの国債需給予想が反映されたものとの見方もできるのではなかろうか。米10年債利回りのチャートをみても、今後1.2%あたりまで上昇し、さらに戻りを試すような動きも予想されることで、テクニカル的な動きも出ていることも予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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