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チーム解体&再建へと舵を切ったマリナーズだからこそイチローが出来ること

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
若手中心のチーム構成になりそうなマリナーズでイチロー選手は彼らの手本になれる(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今年のオフはマリナーズの動きが活発だ。現時点(12月2日)ですでに4つのトレードを成立させ、マイク・ズニーノ選手、ギエルモ・ヘレディア選手、ジェームス・パクソン投手、アレックス・コロメ投手──と次々に昨シーズンの主力選手たちを放出している。さらに正式発表を待つ状況だが、ロビンソン・カノ選手、エドウィン・ディアス投手の2人もメッツにトレードすることが決定的になっている。

 ジェリー・ディポトGMはオフに入ってから、チーム改革に取り組む姿勢を鮮明にしており、昨オフのマーリンズがデレック・ジーターCEOの下、大幅なチーム解体&再建を断行したように、今後もさらに主力選手の放出を進めていくことになりそうだ。

 ディポトGMの決断は、チーム状況を考えれば仕方がない部分がある。2015年から同職を任されてから、チームの年俸総額は徐々に高騰化が進んでいた。2015年シーズンはMLB11位の1億1570万6842万ドルだったが、2018年シーズンはMLB8位の1億6530万3943ドルまで上がっていた。日本円に換算すると、上がり幅は50億円を超えている。

 それでもチームは2001年を最後にポストシーズン進出を果たせない状況が続いており、マリナーズのようなマーケットが小さいチームともなれば、このまま年俸高騰を必要とするチーム強化策を続けていくことは到底不可能だ。そこでディポトGMは現状を続けていくことに見切りをつけ、チーム解体&再建に着手したというわけだ。

 来年3月に日本開幕戦を控えたマリナーズが、このように主力選手を次々に放出してしているので、日本のMLBファンは大いに失望していることだろう。しかも対戦相手のアスレチックスも低予算チームらしく突出したスター選手が少ないのだから、まさに踏んだり蹴ったりといったところだろう。

 そこで気になるのがイチロー選手の存在だ。すでにディポトGMは、イチロー選手が日本開幕戦の出場枠に入ることを明言してるが、あくまで日本開幕戦の出場枠は特例の27人なので、米国に戻り通常の25人に戻される際に、新生マリナーズの中でイチロー選手の処遇がどうなってくるかだ。

 昨シーズンのイチロー選手は、シーズン途中で負傷選手が復帰したこともあり、25人枠に空きがなくなり選手としての登録から外れたものの、会長付特別補佐としてシーズン最後までユニフォームを着用しながらチームに帯同し続けた。チームに与える彼の影響力を考慮したディポトGMのアイディアでもあった。

 来シーズンの新生マリナーズは、さらに若手中心へとシフトする。カノ選手もメッツに移籍する前提で考えると、現在の40人枠で30歳以上の野手はディー・ゴードン選手(30歳)、カイル・シーガー選手(31歳)、クリストファー・ネグロン選手(32歳)──の3人しか存在しないし、そうした彼らにしてもチームリーダーとしてチームを牽引した経験は乏しい。やはりチームを支える精神的支柱は必要になってくるだろう。

 すでにディポトGMも認めているように、イチロー選手の野球に取り組む姿勢、試合に臨む準備等々、あらゆる面で若手選手の見本になるのは明らかだ。彼がベンチやクラブハウスに存在するだけで、若手選手たちを正しい方向に導いてくれるだろう。会長付特別補佐になってからは試合中にベンチ入りできなかったが、25人枠に残れれば何の問題もない。

 25人枠に関しても、若手に切り替えたことでかなり余裕が出てきている。昨シーズンまでDHを任されていたネルソン・クルーズ選手もFAとしてチームを去り、DHを固定化する必要もなくなった。野手たちでローテーションを組みながら入れ替わりでDHに入るようにすれば、十分にイチロー選手の活躍できる場所も用意できるだろう。

 実は昨年オフにマーリンズがチーム解体&再建に乗り出した際、ここで述べた理由から、若手主体に切り替わるマーリンズにとってイチロー選手は間違いなく好影響をもたらす存在になると感じていた。残念ながらジーターCEOは彼と袂を分かつ決断を下してしまったが、個人的には今もイチロー選手がマーリンズに残留していたら、昨シーズンはもっと違ったチームになっていたと信じて止まないほどだ。

 これまでイチロー選手を高く評価してきたディポトGMは、果たしてどのような決断を下すのか。今後も彼の言動を注意深く見守っていきたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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