諸外国の軍事費・対GDP動向をさぐる
各国の軍事勢力・軍装備の状況を比較するのにもっともよく使われるのは、軍事支出の額面。だが各国の経済力や人口など多様な要素により、単純な額面比較だけでは不十分とする意見も多い。そこで使われる指標の一つが、軍事費の対GDP比。要は経済力に対し軍事関連支出をどの程度行っているかを示した値。今回は国際的な軍事研究機関のストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute、SIPRI)が発表した各種公開データを基に、主要国の軍事費対GDP比の動向を確認していく。
直近となる2016年においては世界最大の軍事支出を行った国はアメリカ合衆国、次いで中国、ロシアの順となる。無論これはSIPRIが把握できる範囲での公開値による計上値であり、また国内調達分においてはそれぞれの国の相場で調達維持できることもあり、単純に軍事力への注力動向を完全網羅したことにはならない。あくまでも指標の一つに過ぎない。
そこで各国の軍事費に関して、それぞれの国の該当年のGDPに対する比率を算出し、その動向を示したのが次以降のグラフ。GDPとは国内総生産(Gross Domestic Product)の略。以前はGNP(Gross National Product、国民総生産)が指標として良く使われていたが、GDPは国内のみの産出付加価値総額であるのに対し、GNPは海外に住む自国民の生産分も含めた付加価値の総額を意味する点が異なる。
サウジアラビアは10.41%。つまり同国では1年間に生み出した付加価値の1割強の金額を軍事費に計上していることになる。アメリカは3.29%、ロシアは5.32%、韓国は2.65%、日本は0.99%。
この対GDP比について過去からの推移を見たのが次のグラフ。
ある国の軍事費の絶対額が上昇しても同時にその国が経済発展を遂げていれば、今件値は横ばい、さらには減退を示す。つまり今値は軍事力そのものの拡大縮小よりも、その国の軍事への注力度合いを見る指標ととらえた方がよい。上位国ではサウジアラビアが群を抜いて高い状況は以前から変わらない(直近で大きく下げたのは他国への軍事支援が計上されていないため)。アメリカ合衆国はいわゆる「9.11.」以降、それまで減少傾向にあった値を上乗せする方針へ転じ、それはリーマンショック後まで続いた。直近ではオバマ政権に変わったあたりから再び減少へと転じている。
大よその国で今値は減退にあるが、先進諸国が純粋に軍事費削減の結果として減少しているのに対し、中国やインドはGDPを底上げしており、むしろ軍事費の額面は増強されている。中国がほぼ横ばいなのは、同国の経済成長と同スピードで軍備拡張がなされていると見ても良いだろう。
ちなみに日本の値について、冷戦終結前後からの詳細動向を確認したのが次のグラフ。
かつて防衛費のガイドライン的な役割を果たしていたのは、1976年の三木内閣で閣議決定された「GNP1%枠」。今件はGDP比であり、上記の通り性質がいくぶん異なる。多少の上下を見せながらも、大よそ今世紀以降は1%内外で推移している。周辺諸国が2%前後の値を示していることも合わせ、色々と考えさせられる状況ではある。
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