元宝塚雪組トップスター・望海風斗、音楽活動やバラエティ出演で新境地「自分の経験を融合させた表現を」
2017年に宝塚歌劇団雪組トップスターに就任し、2021年4月の退団後も舞台を中心に幅広く活動している望海風斗。2022年には舞台『next to normal』『ガイズ&ドールズ』『DREAMGIRLS』での演技が高く評価され、『第30回読売演劇大賞』で優秀女優賞、『第48回菊田一夫演劇賞』で演劇賞を受賞している。
そんな望海風斗にとって新たなチャレンジとなるのが、音楽活動だ。2024年3月にアンジェラ・アキの提供曲「Breath」を配信リリースし、8月28日にはメジャー1stアルバム『笑顔の場所』を発表した。同作には「Breath」ほか、GRe4N BOYZが提供した「ミチシルベ」など全10曲を収録。「人生というリングを笑顔の場所にする」というコンセプトに沿った、赤いグローブをつけてファイティングポーズをとる望海風斗のイメージ写真も印象的だ。
元トップスターの意外な一面「私は“跳べない・反れない・リズムがとれない”」
望海風斗は、自身初の音楽アルバムを聴いたとき「純粋に感動しました」と振り返る。プロデューサーをつとめた武部聡志は、吉田拓郎、松任谷由実ら数々のレジェンドたちのコンサートツアーで音楽監督を担当した重鎮。望海風斗は「出来上がった楽曲はいずれも、レコーディングのときよりも自分の声が立体的になっていたんです。あらためて武部さんのアレンジと発想力に驚きました」と感銘を受けたという。
そんな同作の起点となった楽曲が「Breath」。楽曲制作時、作詞・作曲のアンジェラ・アキとこのような打ち合わせをおこなったという。
「誰だって、自分のことが見えなくなるときがあるはず。私はそんなとき、自然に触れるようにしているんです。特に好きなのが、海。波の音を聞いて、広い海を見ていると、『私の悩みなんてちっぽけなものだな』となんだか初心に返れるんです。あと飛行機に乗っているときも、窓から街を見ると、そのあまりの広さに『自分は小さいな』と良い意味で開き直れます。そういうことをアンジェラさんにもお伝えして、弱っているときに立ち上がれるきっかけになる曲を作っていただきました」
一方「ミチシルベ」は、出来ないことばかり見つけてしまったり、誰かと自分を比べたり、ネガティブな気持ちも素直に綴られた楽曲。そういった面が聴き手の共感性を誘う。
「私も出来ないことがたくさんあって、宝塚時代から周りと自分を比べることが多かったんです。舞台『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』(2023年)のときも、ご一緒したみなさんにさらけ出したことがあるんですけれど、私は“跳べない・反れない・リズムがとれない”なんです。ジャンプ力が低くて、背中が硬いので体も反れなくて、リズムはオンビートでしかとれない。みなさん、『宝塚のトップスターなのにそんなことってありますか?』って(笑)。ですので、私は振付の先生のアレンジにいつも助けられています。出来ないことがたくさんあるから、やっぱり人と比べてしまうし、嫉妬もします。だけど、ただただ誰かの能力を羨むのではなく『自分はその人のなにに嫉妬しているのか』を分析するようにしています。そういう風に考えることで、その人の見方も変わるし、自分が伸ばしたいところも明確に分かってきます」
オリラジ・藤森慎吾、トレエン・斎藤司が舞台で活躍「芸人の方は空気の動かし方が天才的」
音楽だけではなく、2023年9月17日放送『行列のできる相談所』(日本テレビ系)で初めてバラエティ番組への出演にも臨んだ。バラエティは不慣れだったため「怖さがあった」と言うが、『ガイズ&ドールズ』や『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』などでも共演し、長年親交がある井上芳雄も一緒に出演していたことが心強かったと語る。
「芳雄さんもいらっしゃったので、安心感があったというか。でも芳雄さんは、私たちにとってミュージカル界でトップの方なのに、バラエティではイジられたりするじゃないですか。そういう姿を見ると、どう反応していいか分からなくて(笑)。ただ、視聴者のみなさんは芳雄さんのそういうところに親近感を抱き、『舞台を観に行ってみよう』となるのだと思います。芳雄さんも最初はきっと、バラエティの場に身を寄せるのは勇気が必要だったはず。私にはなかなか出来ないこと。でもそういう姿こそが、舞台の可能性をさらに広げているのではないでしょうか」
ちなみに『行列のできる相談所』で共演したお笑いコンビ、トレンディエンジェルの斎藤司も現在はミュージカル俳優として大活躍中。近年の演劇界は、いろんなジャンルのクロスオーバーが盛んにおこなわれている。
「お笑い芸人の方は、その場の空気の動かし方が天才的。『ローマの休日』(2020年)で藤森慎吾さん(オリエンタルラジオ)のお芝居を拝見したとき、その日の観客の温度感に合わせて場を回していらっしゃる印象がありました。それはきっと、お笑い芸人の方たちが舞台上で培ってきた芸と経験が生かされたものであり、独特の武器な気がします。斎藤さんが『レ・ミゼラブル』(2019年)で演じられたテナルディエも、まさに場をかっさらっていくキャラクターですし。お笑い芸人さんはやっぱり、舞台に出てきたら『なにをやってくれるんだろう』とワクワクさせてくれますよね。これからさらに、舞台に出られる芸人さんが増える気がします」
舞台、音楽、バラエティ番組など、活躍の場を広げている望海風斗。今後の目標は、自分の経験を融合させていくことだと話す。
「ミュージカルをやって、レコーディングも経験して、いつかその融合ができたらいいなって思っています。そして、そこに自分の個性をちゃんと乗せていきたいです。歌を歌うときも、一曲、一曲にドラマが見えるような表現をしたい。今回のアルバム制作で、自分にとって一つの扉を開くことができました。今後はさらに、自分の声や歌の表現を深めてこうと思います」
望海風斗:1983年生まれ。2003年に宝塚歌劇団入団。2017年、雪組トップスターに就任。2021年4月11日に宝塚歌劇団を退団し、舞台を中心に俳優として活動。2024年8月28日リリースのメジャー1stアルバム『笑顔の場所』は、アンジェラ・アキの提供曲「Breath」、GRe4N BOYZの提供曲「ミチシルベ」などを収録。「望海風斗がリスナーのセコンドとなり、人生というリングを笑顔の場所にする」というコンセプトのもと、10曲を収録している。