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コロナ下で世界の声に触れる 英語版イベント、ポッドキャストを紹介

小林恭子ジャーナリスト
「Reimagining War」の紹介画像(大和日英基金のウェブサイト)

 (「新聞研究」3月号掲載の筆者記事に補足しました。)

 日本や米国で、音声の交流サービス「クラブハウス」が人気という。

 筆者も何度か利用し、対談のような形で登壇させていただいたこともある。

 デジタル時代になって、音声メディアはますます魅力を増しているのではないか。

 英国に来てから、筆者はラジオをよく聴くようになった。ラジオは「ながら仕事」ができ、かつニュース専門局にスイッチを合わせておけば、最新のニュースにアクセスできる。

 当初はラジオやコンピューターを使っていたのだが、今はスマートフォンになった。一旦スマホを手にした人は、通常、スマホをすぐ手が届くところに置いておくのではないだろうか。筆者も、スマホを利用して非常にスムーズにインターネットラジオに耳を傾けることができるようになった。

 最近、毎日アクセスしているのが、様々なポッドキャスト番組だ。それぞれの番組を「購読(サブスクライブ)」しておくと、スマホに番組が配信され、自分の好きな時に聴くことができる。質の高い番組がたくさんあり、時間が足りないと思うほどだ。

イベントはオンラインへ

 世界中に広がった新型コロナウイルスの感染拡大によって、私たちの行動は変化した。おいそれと自宅や自国を離れることが難しくなったが、デジタル空間では逆に世界の様々な人の声に触れる機会が増えている。

 「アンミュート」(消音を解除する)。ここ1年ほど、この作業をうっかり忘れて話し出してしまった経験をお持ちの方は多いのではないだろうか。ビデオ会議システム「Zoom」を使ったイベントでの、おなじみの光景だ。

 コロナウイルスの感染拡大を阻止するため、様々な運営主体が会議をオンラインでの開催に変更せざるを得なくなった。しかし、当初は苦肉の策として始まったオンラインのイベントは、現在では世界各地の話し手・聞き手をネット上に集め、双方向で情報を交換しあう新たな機会を提供している。

「戦争を忘れない」

 毎月数回、ロンドンでセミナーを開催してきた、日本と英国の相互理解の促進を目的として活動する非営利組織「大和日英基金」は、コロナ禍のためにオンラインでの開催に変更している。

 昨年7月、「戦争を学ぶ(Reimagning War=直訳すると、戦争を再想像する、という意味)」と題されたイベントでは日本人写真家2人の作品を紹介した。

 一人は日本を拠点とする小原一真氏で、もう一人は在オランダの奥山美由紀氏である。日本、オランダ、大和日英基金がある英国をつなぎ、小原、奥山両氏が作品について語った(タイトル画像の左側は奥山氏、右側は小原氏による撮影写真です)。

 奥山氏によるモノクロ写真の1つには女性が2人写っていた。第2次世界大戦で、日本占領下の旧オランダ領東インド(インドネシア)では軍人や民間人の日本人を父に持つ子供たちが生まれた。女性たちはこうした子供たちの子孫だった。このような背景を持つ日系オランダ人の存在を多くの日本人は知らず、筆者も初めて聞いた。

 小原氏は太平洋戦争における日本軍の犠牲者に焦点を当てた長期取材を行っており、イベントでは撮影した写真が紹介された。

 印象に残ったのが、ある写真の撮影対象者の視線の先には小原氏がいたと説明された時だ。小原氏自身は写真の中に入っていないが、小原氏と取材対象者は互いを見ていた。

 両写真家の作品は、同じく「Reimagining War」というテーマで日本で開催された展示イベントの一部をなす。イベントには今なお戦争と地続きにある物語を綴るという目的があり、過去と現在の接点を写真家自身が見つける試みを行った。小原氏が戦争の犠牲者の子孫と向き合ったのは、この「接点」を見つけるためであった。

 作品紹介が終わると、質問や感想が次々とチャットボックスに書き込まれた。

 小原氏は「日本の加害責任についてどう思うか」を聞かれた。一人の写真家に日本を代表させるのは少々酷のように思えるかもしれないが、日本の外に住む参加者の方は学者による説明ではなく、生の声を聞きたがる。「双方向性」、「世界の各地をつなぐ」といったオンライン・イベントの特徴が生かされたセミナーだった。

ラジオ、ポッドキャストに尽力

 近年、英国では放送局、新聞社ともに音声メディアに力を入れてきたが、ロックダウンで不要不急の外出が禁止される中、スマートフォンに差し込んだイアホーンを通して国内外の情報を取得できる利点がさらに増したと言えよう。

 BBCは「BBCラジオ4」の報道番組「TODAY」(平日放送)から、そのハイライトを1回約10分のポッドキャスト「Best of Today」として毎日配信している。

 コロナ関連の世界のニュースを知るために便利なのが、BBCワールドサービスによる「Coronavirus Global Update」。ほんの5分ほどの番組だが、これも毎日配信中だ。

 ニュース週刊誌「エコノミスト」は様々な形のポッドキャスト番組を提供している。著名人インタビューや、科学・テクノロジーを扱う「Babbage」、米政治に特化した「Checks and Balance」などの他に本誌からおすすめ記事3本を毎週紹介する番組を配信している。ウェブサイト上では雑誌掲載記事の全てが音声で聴けるようになっている。

 英タイムズ紙はラジオ局「Times Radio」を昨年、開局。その日のニュースからトピックを一つ拾う「Stories of our times」、政治がテーマの「The Red Box Politics Podcast」など、複数の番組をポッドキャストとしても配信もしている。

 ポッドキャスト番組では、司会者と記者あるいはほかの出演者とが会話をする形を取り、深みがある一対一のインタビューが出来上がることがある。

 政治コメンテーター、イアン・デール氏はインタビュー取材でその力を発揮する。「相手をリラックスさせ、敬意を払い、大いなる関心を持って質問を重ねていく」のが彼のやり方だ。

 昨年9月18日配信の「Ian Dale's Book Club」では、デービッド・キャメロン元首相をゲストに呼んだ。英国の欧州連合からの離脱を決めた国民投票が実施されたときの首相である。デール氏はキャメロン氏の自宅を訪れ、国民投票実施に至る同氏の本音を引き出した。

 11月6日配信ではゲストがポップ歌手のクリフ・リチャード氏だった。彼は熱心なキリスト教徒でもある。デール氏はリチャード氏に信心の意味を聞いている。リチャード氏は考え込みながら、じっくりと答えた。心のひだの一つ一つに触れていくようなインタビューとなった。

筆者が毎日聞く、ポッドキャストとは?

BBCの「Newscast」の画面(BBCのウェブサイトより)
BBCの「Newscast」の画面(BBCのウェブサイトより)

 筆者が毎日のように利用しているポッドキャストは、上記の番組に加え、 BBC の「Newscast」、 リベラル系新聞ガーディアン紙による「Today in Focus」、そのほか保守系週刊誌「スペクテーター」、歴史ものは「Dan Snow's History Hi‪t‬」、対談が面白い「Intelligence Squad」など。

 米ニューヨーク・タイムズの「The Daily」も秀逸だ。

 合間に、あるいは最新ニュースが知りたいときは「BBC World Service」 やトーク専門のラジオ局「BBC Radio 4」 も聴いている(「BBC Sounds」というアプリをスマホに入れているので、ダイヤルを回すようにして、様々なラジオ局の番組にアクセスできる)。

 以上、すべて無料である。

 皆様も英語版ポッドキャスト、探索してみてはいかがだろうか。

 英語を勉強している方には、生の英語に触れて、学ぶ機会にもなりそうだ。ラジオやポッドキャスト番組を通じて、「様々な社会的背景を持つ人が様々なイントネーションやアクセント、スピードで会話している」ことに気づくはずである。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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