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the pillowsのオリジナル映画で苦境にいる若者を体現。若手名バイプレ、岡山天音に注目を!

水上賢治映画ライター
『王様になれ』で主演を務めた岡山天音 筆者撮影

 最近、彼の顔を見かけることが多くなってきたのではないだろうか?  若手バイプレイヤーともいうべき位置でさまざまな作品への出演が続く岡山天音。まだ20代半ばの彼だが、すでに俳優としてのキャリアは10年を超す。

 最新主演映画『王様になれ』は、そんな彼の現在地を見ることができる1作といっていいかもしれない。

 今回の主演作は、今年で結成30周年を迎えたロック・バンド「the pillows」が、そのアニバーサリーイヤー・プロジェクト「Thank you,my highlight」の一環として制作した映画。ただ、バンドの軌跡をたどるようなよくあるタイプの音楽ドキュメンタリーではない。完全オリジナル・ストーリーのオリジナル映画になる。原案はthe pillowsのリーダー、山中さわおが手掛けた。

 こんなビッグ・バンドの記念作品に出演の決まった経緯について、こう明かす。

「お話をいただいてからしかわからないのですが、(山中)さわおさん曰く『最初は別の方が僕を候補にあげてくださった』と。昨年公開された『純平、考え直せ』で、今回の役とは似ても似つかないといいますか。いわゆるヒール役を演じたんですけど、この映画の主題歌をthe pillowsが手掛けていたんです。そこで、さわおさんが僕のことを認識してくださったみたい。そのあと、ほかの出演作もみて僕のところへ話がきたときいています。光栄なことです」

日本を代表するバンド、the pillowsからのオファー

 日本を代表するバンドからの直々のオファーには、こんなことを感じていたと明かす。

「どんな作品にも、いろいろな人の思いがつまっている。その点について変わりはない。ただ、このプロジェクトに関してはその上をいく特殊さがあるというか。the pillowsのメモリアルなプロジェクトに、僕のような門外漢が参加して大丈夫なのかなと。the pillowsはファンの方々と太い絆を築いている。自分が主演でファンの方たちに納得していただけるのか。結果を残さないといけない。

 

 the pillowsというフィールドがあったとしたら、そこにずっと立ち続けていた人間ではない。なので、なんとなくアウェイというか(笑)。撮影に入る前にライブにおじゃましたんですけど、ファンのみなさんのエネルギーを身をもって体感したので、これは心してやらないといけないと、ファンの想いも背負ってやらねばと思いました。そのプレッシャーはありましたね

 そもそも、the pillowsとの出会いについてこう語る。

「僕が音楽を受動的ではなくて、能動的に自分から聴き始めたのは中学生のころ。ジャンルを問わず、いろいろと漁るように聴いていたとき、その存在を知りました。

 ただ、本当にきちんと正面から向き合って、曲を聴いたのは今回の映画が決まってから。改めて聴いてみて思ったのは、ちょっと次元が違うというか。長く続いているバンドはほかにもありますけど、ここまで昔から深い愛をもったファンがいて、熱狂的な支持を受けているバンドはほかにあるかなと。

 そして、改めて詞をきちんと読んでみると、すごい訴求力があるというか。あくまでいわゆる大衆に向けて作られたはずなのに、個人のしかもそのひとりのとてもパーソナルな部分に深く食い込んでくる瞬間がある。

 こういう詞は偶発的に生まれるのか、それとも経験の上で意図的に作られたものなのか、いずれにせよすごいなと。強いパワーを秘めた曲ばかりと思いましたね」

同世代だったら、誰が演じてもおかしくない。それだけに、自分という人間が試される

 今回演じた祐介は、今は亡き父の影響でカメラマンを目指すも、まったく芽の出ない若者。叔父の経営するラーメン屋で働きながら、チャンスを狙っているが夢は遠ざかるばかりで歯がゆい毎日を送っている。

「設定は僕の実年齢より上ですけど、等身大で演じられる役。そういう意味で、同世代だったら、誰が演じてもおかしくない。それだけに、きっちりと説得力をもたせられるか、自分という人間が試される。これは、しっかりと向き合わないといけないなと思いました」

映画『王様になれ』より 
映画『王様になれ』より 

 夢と現実の狭間でもがき苦しむ祐介だが、ラーメン屋を訪れたユカリの影響で、the pillowsの存在を知ることに。その存在に大きな勇気をもらいながら彼は新たな一歩を踏み出していく。

「やりたいことにこだわって夢を追うべきか、現実を受け入れて諦めるべきか。20代半ばはそうした人生の岐路に立つ時期かもしれない。男女関係なく、同じような時期にいる人多いと思うし、かつてこういう経験を味わった人も多いと思います。多くの人に届いてくれたらと願っています」

 それにしても、近年、こういった夢破れる役というか。岡山には敗北や挫折を味わった若者役のイメージが強い。一手に引き受けている印象すらある。

「自分としてはそれぞれに性格も立ち位置も違うので、まったく別の人間と思って演じているんですけどね。

 ただ、そう言われると確かにそうかもしれない。たぶんわりと僕が特定の色に染まっていないというか。平均的というところで、匿名性の高い役でよく声がかかるのかなと。自分ではまったくわからないですけど(苦笑)」

 いま、俳優業をこんな風に感じているという。

「正直なところ、ほかの仕事をしたことがないので、向いているのかむいていないのかもわからないんですよ(苦笑)。ほかの仕事と比べられないので。

 ただ、この仕事は、楽しんでいるときも、苦しいときも夢中になっている自分がいる。そうなれていることにすごく感謝しています。

 今は、もう先のこととか考えずに、がむしゃらに俳優業に取り組んでいこうと思っています」

映画『王様になれ』より
映画『王様になれ』より

シネマート新宿ほか全国順次公開中

(C)2019『王様になれ』フィルムパートナーズ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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