ドラマに重ねた韓国芸能界の現実 『青春の記録』脚本家インタビュー
ドラマや映画、K-POP。日本や世界で韓国のエンターテインメントが進撃を続けた2020年。ドラマ『青春の記録』は、そんな華やかで熾烈な韓国芸能界に生きる若者たちを描いた作品だ。
『愛の不時着』『梨泰院クラス』などに続き、Netflixで「2020年日本で最も話題になった作品」の8位にランクイン。
俳優として成功を夢見ながらモデル業とアルバイトに励むヘジュンに扮するのは、『雲が描いた月明かり』『ボーイフレンド』などで名実ともにトップスターのパク・ボゴム。ヘアメイクアーティストのジョンハ役には、『パラサイト 半地下の家族』でソン・ガンホ一家の長女を演じたパク・ソダム。実際に芸能界の最前線にいる旬の実力派俳優を配することで、リアルで立体的なキャラクターとなっている。
現場で見たスターの素顔、そしてドラマに重ねた芸能界の現実とは。『青春の記録』の脚本家、ハ・ミョンヒさんにインタビューした。
――日本でも今、韓国のエンタメは大きく注目されています。そんな中、この作品を見て、きらびやかな芸能界に生きる人も、一人の人間として普遍的な悩みや葛藤を抱えていると感じました。芸能界で生きる若者たちの姿を描こうと思ったきっかけを教えてください。
ドラマのキャラクターを考えるときは、まず「普遍性」と「特殊性」のバランスをどう取るかについて構想を練るんです。主人公がその時代を生きながら感じる時代の姿とは何か。すなわち、それが「普遍性」です。
イギリスの若者を対象にしたアンケートや、さまざまな国の青少年への調査によると、多くの人が「個人の努力よりは社会的背景と親の力が成功の重要な要因になる」と答えています。生まれ育った階層から上昇移動するのは難しいと思っているんですね。実際、家庭環境が成功におよぼす影響は大きいけれど、それでも挑戦をあきらめてはいけないと考えました。成功には様々な変数が働き、チャレンジすれば上に行けるという希望を示したかったのです。そんな姿をドラマチックに見せられる職業が芸能人だと思いました。
芸能人は、短期間で富と名誉を手に入れることができ、階層の上昇もはっきり可視化される職業です。成功するには運も大事ですが、やはり才能が一番大きいと思います。さらに、人を惹きつける魅力。その魅力は天賦のものと言えるでしょう。人気というのは、虚像のようでありながら、公平です。人の感情を良いほうに動かすと人気が出ます。他人の感情は、お金や権力では買えません。また、芸能人がメディアに出ると短期間で成功したように見えますが、その裏側は学生が就職活動をする過程と同じだと感じました。
個人が自分の名前で何かを成し遂げようとすると、必ず誰かにタックルされたり、足を引っ張られたりします。誰もが経験することです。私もドラマ作家を目指しているときに体験しました。そんな「普遍性」に、ヘジュンというキャラクターがもつ個性、つまり「特殊性」を加えて描きました。こうした部分に視聴者が共感してくださったようです。
――芸能人の心理や芸能界の裏側についてのリアルな描写の数々はどのように取材を重ねたのでしょうか。
これまで脚本家の仕事をしながら出会った人々のことや、彼/彼女たちから聞いた話が、すでに私の中で形になっていました。それらを確認し、人物について必要な部分は周りの人たちに取材しました。『青春の記録』に出演する俳優には取材しませんでした。本人自身の話になってしまうのは良くないので、意図的に聞かなかったのです。
作品を書き終えたあと、何人かの俳優に共感できるか聞いてみました。ドラマの放送が終わったあと、出演した俳優たちのインタビューをメディアで読んだら、みんながヘジュンというキャラクターにすごく共感したと語っていました。
――脚本を書く段階から、パク・ボゴムさんやパク・ソダムさんが演じることをあらかじめ想定してキャラクターを組み立てたのでしょうか。
脚本を書き始めたときは、キャスティングが誰になるかわかりませんでしたが、私の中で男性のキャスティング候補はいました。パク・ボゴムさんです。モデル出身の俳優がスターになる役なので、まずはスタイルが重要だったのです。パク・ボゴムさんは身長が182cmなので、モデル役という条件にピッタリで、イケメンなので俳優役にも合うと思いました。監督も同じで、初めてシナリオを読んだとき、ヘジュン役にパク・ボゴムさんが浮かんだと言っていました。
――脚本家の立場から見た、演技者としての、パク・ボゴムさんの魅力とは何だと思いますか。また、実際にお会いしたパク・ボゴムさんの素顔とは。
パク・ボゴムさんは、役者として「真善美」のすべてが満たされる稀有な方です。一緒に仕事をする前から演技が上手だと思っていましたが、想像をはるかに超え、驚きました。共感する能力に秀でているのは、劇中のヘジュンのキャラクターと同じです。
初めて会ったとき、一緒に食事をしました。俳優はダイエットのためあまり食べない方が多いのですが、パク・ボゴムさんは、本当によく食べます。話も上手で面白く、愛らしい方でした。頭が良くて、自分の考えもしっかり持っています。さらに主役としての責任感も強く、現場でもすごく気を遣い、スタッフもパク・ボゴムさんのことが大好きでした。
――パク・ソダムさんが演じるジョンハは、自分で夢をつかみ取ろうとする芯が強いヒロインです。以前の韓国ドラマでは、財閥の御曹司に恋するシンデレラ風のヒロインも多数見られましたが、最近はジョンハのように自立したヒロイン像も増えてきているように思えます。20代の女性の生き方や考え方は、ここ数年の間に大きく変化していると聞きますが、パク・ソダムさんに投影したヒロイン像とは。
パク・ソダムさんが演じたジョンハというキャラクターは、時代を先取りし、野心的に未来を現実にしていく人物です。ジョンハは、独立かつ主体的に自分の人生を生きている女性。でも、幼いころに負った心の傷を抱えています。彼女の家族の歴史は、自分では解決できない問題で、母親は無惨でさえあります。だから家族と一緒に暮らすのではなく自分だけの独立した生き方を求め、男女の愛が与えるファンタジーを自分の人生に取り入れたくないと意図的に思っているのです。そんな彼女がヘジュンという男性を愛するようになり、成長します。
そして、彼女は気づきます。自分は心の傷を克服したと思っていたけれど、人生のあちこちで「行こう、チーター(チーターは1930年代の映画『ターザン』シリーズに登場するチンパンジーの名前で、韓国では1990年代年に流行したセリフ。『青春の記録』では古い世代の言葉の象徴として使われている)」「前近代的思考」「父親世代」といった無意識に吐き出す単語に、自分がどれだけ過去に縛られていたのか。ヘジュンという男性を愛し、さまざまな感情を受け入れて、不完全で不安定な人生と和解します。心の傷が癒され、愛が自分をいかに変化させ、前に進めるようになったかを悟るのです。そして、自分を愛する男性のために犠牲になる選択をします。
私たちは過去から自由ではなく、現在を美しく強く生きなければなりません。そんなことをジョンハというキャラクターで伝えたかったのです。
――パク・ボゴムさんとパク・ソダムさんがそれぞれ演じたキャラクターのシンクロ率は、何パーセントだと思いますか。
パク・ボゴムさんの演技がヘジュンと完全にシンクロしているのに対し、パク・ソダムさんのジョンハは、もう少しさばさばした感じです。パク・ソダムさんならではの、特別なジョンハになったのではないかと思います。そんな2人の役者がかもし出すハーモニーが好きでした。
――本作品には、20代の主人公たちの“青春”はもちろん、親世代の夢や生き方についても描かれています。「青春の記録」というタイトルに込めた意味を教えてください。「青春」とは、どんな時期だと思いますか。
このドラマを初めて企画したとき、シーズン制にしたいと思いました。青春とは、生きることに対する情熱とオープンな思考だと考えています。生物学的な年齢で分けるのではなく。だから、シーズン1は20代、シーズン2は30代~50代、シーズン3は60代~80代と、世代を分けようと企画しました。『青春の記録』は、情熱的に開かれた思考で生きる人々の挑戦の物語です。
ハ・ミョンヒさんインタビュー後編「韓国の俳優が直面する兵役問題 人気韓国ドラマの脚本家が描く不安」
Netflixオリジナルシリーズ『青春の記録』独占配信中
■写真提供:Studio Dragon