日銀の内田副総裁の発言で円安が進行した理由
日銀の内田真一副総裁は8日に奈良市での金融経済懇談会で挨拶した。その内容は12月の決定会合の議事要旨、1月の決定会合の主な意見の流れから予想されたものとなっていた。
市場は早期のマイナス金利政策解除に前向きとなっていたことで、いったんブレーキを掛ける懸念もあった。しかし、すでに1月の決定会合の主な意見からも内田副総裁と事務方執行部はマイナス金利政策の解除を含む正常化を前提に準備を進めていることを示すような内容となった。
これまでの、あまりの慎重姿勢から、正常化後の利上げは慎重に進めるであろうとの見方も強かった。せいぜい2024年末に政策金利が0.5%程度に上がっていれば御の字という認識が強かったはずである。
実際に内田副総裁は「その過程では緩和的な金融環境を維持していくことになるだろう」と強調した。これは利上げには極めて慎重であり、マイナス金利解除とともにゼロ金利解除にも極めて慎重に対応するとも読めた。
今回の内田副総裁の発言を受けて、3月の金融政策決定会合でのマイナス金利解除観測が強まったといえよう。これに対して米国ではFRB関係者のコメントなどを通じて、3月の早期利下げ観測が払拭されつつある。
つまり日銀がゼロ金利に戻す、これは内田副総裁に言わせると0.1%の利上げとなるようだが、これに対しFRBは政策金利を5.25%から5.5%のまま高止まりさせるということになる。
これを受けて米長期金利も上昇してきた。しかし、日本では今後の正常化が見えてきたことで不透明感が払拭されるとともに、追加利上げを急がない姿勢が示されたことで、これまで国債を買い控えていた投資家の買いが入るなどしたことで、8日の日本の長期金利はむしろ低下していた。
日米の長期金利の差は拡大することとなり、これを受けてドル円は149円台に上昇してきたのである。ここにきて欧州の国債利回りも上昇してきており、これによりユーロ円も160円台を回復し161円台を付けてきたした。
日銀が慎重姿勢をあまりに強調すると、金利差縮小観測の後退により、円安がさらに進行しかねない。経済実態にあった金利調節を行うのであれば、ゼロのままで本当に良いのか。もう少し金利ある世界観を出さないと、円安によって想定外の事態が起きる可能性もありうる。慎重姿勢も慎重にしたほうが良いのではなかろうかと思うのだが。