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国内大混乱の中でユーロ開幕。フランス代表は希望の象徴となれるか?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

今日6月10日、いよいよヨーロッパサッカー最大の祭典「ユーロ(欧州選手権)」が幕を開ける。

4年に1度のサイクルで開催されるユーロは、ヨーロッパの代表チームの王者を決めるビッグトーナメント。ヨーロッパはもちろん、世界中のサッカーファンが、これから約1ヶ月に渡ってワールドカップよりもハイレベルと言われるこの大会に熱狂することになる。

当然ながら、15回目となる今回のユーロの開催国フランスは、開幕を前に国全体がお祭りムード一色。と、本来はそうなるはずだったが、残念ながらそういったムードにないというのが実情のようだ。

実は現在、フランスは国内に多すぎるほどの問題を抱えており、「果たして本当にユーロのホスト国を務められるのだろうか?」といった疑問さえ生まれているのだ。

過激デモ、ストライキ、水害、テロ対策……

まず、現在政府を悩ませているのが、フランス人のお家芸(?)とも言える労働組合による過激なデモとストライキの嵐だ。

事の発端は支持率低下が著しいオランド大統領が進める労働法の改正で、これに反対する各種労働組合がストライキを断行。これまで、ガソリンの供給源となる製油所施設や電気の供給源である原発の労働者によるストライキが行われ、さらに公共の交通機関に波及し、フランス国鉄や地下鉄、ナショナルエアラインのエールフランスにまで広がっている。

そしてここ数日で明らかになったのは、ゴミ収集車ドライバーによるストライキだ。これにより、現在パリ市内などでは数日分のゴミが放置され、街のいたるところで市民が異臭問題に悩まされている。

現在一部のストライキは収束を見せているものの、多くのストライキはまだしばらく続く模様だ。エールフランスは、11日から14日までのストライキを発表しているため、ユーロを目的に現地に訪れるサッカーファンへの影響は避けられそうにない。そもそも当のフランス人たちも、先月からガソリン不足や鉄道と地下鉄の運行本数減少で、ほとほと移動にも疲れているといった状況なのだ。

さらに追い打ちをかけているのが、1週間以上も前から降り続いた大雨による全国各地の洪水被害である。

首都パリも例外ではなく、街の中心に流れるセーヌ川の水位がここ30年で最高の高さを記録したことで、川岸に近いルーブル美術館やオルセー美術館などは所蔵の美術品を浸水から保護するための対策がとられたほど。また、この水害により全国各地で18人が死亡(5日時点)し、その影響は最大15万人にもおよぶ可能性もあると言われている。資産によれば、これらの被害による負担費用は9~14億ユーロ(約1100~1700億円)と見積もられ、この自然災害も政府を悩ませている。

そして、ホスト国として最も大きな至上命題となっているのがテロ対策だ。

これについては昨年11月のパリ同時多発テロ発生以来、厳重な警戒と警備が続けられてきた。政府はテロ攻撃などの恐れがある場合に警報を通知するスマートフォン用アプリの配信を開始するなど、警備態勢以外にもきめ細やかな対策を講じている。大会組織委員会も政府や各開催都市と綿密な連携を取り、情報を共有。スタジアム入場者に対しては2段階の保安検査を実施するなどして、警戒を強める予定だ。

しかし、そんな中で人々の不安を煽る怪しい事件が発生した。開幕4日前の6日、ウクライナ治安当局がポーランドとの国境で、ユーロを狙った15件のテロ攻撃を企てたとされるフランス人の身柄を拘束したと発表したのである。

これまでは政府は史上最高レベルの警備と厳戒態勢により、大会期間中のテロを完全に排除して人々の安全を守るとし、実際にそれは遂行されているのだが、この事件が報じられたことによって、セキュリティー面やテロ再発に対する不安が再燃。アメリカや英国政府も、スタジアムなどがテロの標的となる恐れがあるため、フランスへ渡航するファンに対して警戒するように呼びかけている。

チームを妨げるピッチ外のスキャンダル

このような数々の問題を抱える中、今日21時(日本時間5日早朝4時)にホスト国フランス代表がルーマニアとの開幕戦を迎える。

2012年からチームを率いるディディエ・デシャン監督にとっては、この4年間の集大成となる大会。そしてここまでのチーム作りは、順調に進んできた。その証拠に、英国の大手ブックメーカーのオッズでは、5倍の2位ドイツを抑えて4倍のフランスが目下のトップに立っている(以下、6倍のスペインが3位、9倍のイングランドが4位、12倍のベルギーが5位)。

ただし、順調だったのはピッチ内におけるチーム作りであって、ピッチ外ではいくつかのスキャンダルがフランス代表“レ・ブルー”を悩ませてきた。

たとえば、昨年に起こったカリム・ベンゼマを取り巻くスキャンダルがそのひとつ。同じく代表メンバーだったマシュー・バルビュエナを脅迫した事件に関与した疑いが持たれた、いわゆる“セックステープ事件”によって、デシャン監督は本来不動のエースだったベンゼマをメンバーから外す決断を下さざるを得なくなったのだ。もちろん、アントアーヌ・グリーズマン、オリビエ・ジルー、アンソニー・マルシャルといった点取り屋を揃えているため、その被害は最小限に抑えられるだろうが、ベンゼマ不在が戦力ダウンとなることは間違いない。

さらにフランスサッカー界の英雄ミシェル・プラティニの身に起こったスキャンダルも、フランス代表のイメージを低下させてしまった。

本来であれば、プラティニは大会の主催者であるUEFA(ヨーロッパサッカー連盟)会長として、母国でのユーロをスタンドのVIP席から見届け、決勝では優勝チームのキャプテンにトロフィーを授与するはずだった。ところが、昨年に世界を震撼させた一連のFIFA(国際サッカー連盟)汚職事件の捜査線上に浮かび上がり、不正な金銭授受の疑いを持たれたことでUEFA会長の座を追われてしまうという醜態をさらしてしまったのだ。

かつて現役時代、1984年にフランスで開催されたユーロではキャプテンとして得点王に輝くなどの活躍でチームをユーロ初優勝に導いたプラティニではあるが、あれから32年が経過したいま、英雄は国民から軽蔑の眼差しを向けられているのだ。

とにもかくにも、現代表チームは、そういったピッチ外の問題によるイメージダウンから脱却しなければならない。そもそもフランス代表は、2010年ワールドカップで起こったチーム内紛によって国民の信頼を完全に失い、かつてないほどの人気低迷によるどん底状態が続いていた。自業自得だったとはいえ、それからこの6年間で一歩一歩前に進み、ようやく国民の信頼を回復しつつある中で迎えるのが、今大会なのだ。

確かに今の代表には、1984年のプラティニ、2000年のジヌディーン・ジダンのようなカリスマは存在しない。しかし、デシャン率いるチームにはさまざまな問題を乗り越えようとする“団結”という大きな武器があるはずだ。その“団結”こそが、現在起こっている国内の混乱や昨年のテロの悲劇を乗り越え、国民に希望を与える魔法となるのではないだろうか。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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