制度改正が必ずしも「負担増」ではない、見落とすとソンするのは誰?
年収370万円以下の人は自己負担が下がっている「高額療養費」
ずっと感じていたことですが、発信される情報は「辛口」が好まれる傾向にあるようです。確かに、表に出ていない真実が暴かれていることもあるでしょうし、問題の指摘は必要ですから、手応えのある辛口の記事は私も好きです。
とはいえ、ポジティブなトーンの内容はおもねっている、ネガティブな論調のほうが信憑性はあるといつも受け止めると、ミスリードされることがあります。
たとえば、医療費の自己負担額が高額になった場合をカバーする「高額療養費制度」の改正に関する情報。「制度改正」というと「生活者の負担増」と考えられがちですが、ケースによっては手厚くなっていたり従前と変わらないよう配慮されていたりするのです。
「高額療養費制度」については、ぜひ加入している公的医療保険制度(健康保険)の内容を確認してください。所得区分ごとの、1か月(月初から月末)にかかった医療費の自己負担額上限の計算方法について解説してあるはずです。たとえば、年収約370万円~約770万円の人が100万円かかったとしたら、3割の30万円を負担するわけではなく、高額療養費の算定基準額8万7430円{=8万100円+(100万円-26万7000円)×1%}が自己負担額の上限となります。これはどの健康保険でも保障される「法定給付」で、もし加入している医療保険制度に「付加給付」があれば、さらに自己負担額は少なくなります。
ちょっと込み入った話になりますが、この高額療養費制度の所得区分は2015年の1月に、それまでの3区分から5区分に細分化されています。「上位所得者」とされていた年収約770万円以上が2つ(年収約770万円~約1160万円と年収約1160万円以上)に、年収約770万円以下で住民税非課税でない「一般所得者」も2つ(年収約370万円~約770万円と年収約370万円以下で住民税非課税でない世帯)に分けられたかたちです。
上位所得の2区分については高額療養費の算定方法も見直され、自己負担額の上限が、特に年収1160万円以上の世帯では大幅にアップしました。発信される情報も「負担増」と、改正にネガティブものが多かった印象を持っています。
ところが、2つに分けられた「一般所得者」のうち年収約370万円以下の世帯については、自己負担額上限が下がっているのです。もし、1か月に100万円の医療費がかかったとしても、5万7600円が上限。改正前は8万7430円でした。
経済力のある高所得者には厳しいものの、手厚い保障が必要な層には優しくなった改正です。これにより「負担減」となって助かっている世帯も相当数あると思われます。このようなプラス面の情報については見落とされがちなのが残念です。
改正前と変わらない、年間上限額
同じようなことが70歳以上の高額療養費制度についても言えます。70歳以上の制度をざっくり説明すると、所得区分が「現役並み所得者」「一般所得者」「住民税非課税世帯」の3区分、個人ごとに外来でかかった医療費をすべて合算でき、さらに世帯単位で入院などにより高額になった医療費を合算できるという内容になっています。
その70歳以上の高額療養費制度の改正が、今年の8月と来年の8月に2段階で行われ、住民税非課税世帯以外では自己負担額の上限が引き上げられます。来年の改正では「現役並み所得者」の所得区分も70歳未満の区分と同等になるため、高所得の高齢者の「負担増」は間違いありません。
加えて、「一般所得者」の外来でかかった自己負担額の上限が、2017年7月までの月額1万2000円を8月から1万4000円にアップ、さらに2018年8月から1万8000円に引き上げられることが注目されています。持病で定期的に通院する高齢者の「負担増」というわけです。
ですが、一般所得者と低所得者について、年間上限額14万4000円と定められていることはあまり取り上げられません。月額換算すると1万2000円。改正前と同じです。持病の治療が必要で経済的に余裕のない高齢者には配慮されているのです。
公的介護保険についても同様です。介護サービスの利用者負担にも、1か月の上限額が設定されている「高額介護サービス費」があります。こちらも改正が行われ、住民税を課税されている人がいる世帯の場合、2017年7月まで3万7200 円だった上限額が、8月から4万4400円に引き上げられています。しかし、3年間の時限措置ですが、要件に該当する世帯は、年間上限額44万6400 円(3万7200円×12 か月)に抑えられるとはいう配慮がなされています。
公的医療保険、公的介護保険、公的年金などの公的保障制度は「セーフティーネット」(安全網)と呼ばれるように、ギリギリのところで私たちの暮らしを守る働きをするものです。評価すべきところは評価し、みんなで維持していくという意識を持たないと、制度が先細って困るのは私たちひとりひとりです。